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ばあちゃんの家の古い本棚の中に、うっすらと埃をかぶった赤い表紙のアルバムがある。色あせたセピア色の写真には、僕くらいの年のおかっぱ頭の女の子と赤ちゃんを抱っこした女の人が写っていた。
ばあちゃんはひょいとそれをのぞき込んで言った。
「ああ、そのおかっぱ頭が万由子――青慈の母さんで、ばあちゃんに抱っこされてるのが、千恵子おばちゃんだな」
こうして改めて写真で見ると、ばあちゃんと母さんはまったく似ていなかった。それに比べると千恵子おばちゃんは、赤ん坊なりにもどこかばあちゃんの面影を宿しているような気がした。
僕は思ったままに素朴な疑問を口にした。
「ねえ、母さんって、ばあちゃんの本当の子供?」
ばあちゃんはちょっとびっくりしたようすだったが、すぐにまんまるい目をくりくりっとさせて、僕のほっぺを両手で挟んでにぃーっと笑った。
「ああ、もちろんそうだよ。青慈の母さんはな……ほーら、じいちゃんに似たんだな」
そう言ってばあちゃんがめくった次のページが、まさに僕が疑問に思っていたことの答えだった。
黄ばんだ台紙に張られていた写真には、玄関を背景にして一人の男性が写っていた。横真一文字に結んだ口元、角ばったえらと頬骨、まっすぐこちらをにらみつけるような強い眼差し。直立不動のその姿は可愛そうなくらいの堅苦しさを感じさせる。
母さんがこの人の血を受け継いでいるのは一目瞭然だった。
「……母さんって、どんな子供だったの?」
僕が尋ねると、ばあちゃんは昔を懐かしむようにふーっと目を細めた。
「そうだな……万由子は、とにかく我慢強い子だった。
じいちゃんも大ばあちゃんも、どっちもひどく厳しい人でな。箸の使い方が悪いとピシッと手を叩くし、姿勢が悪いと言っては背中に竹の物差し入れるし。万由子は長女だったから特に厳しくされてな、とにかくいっつも怒られてた。
でもあの子は何をされてもただ口をぎゅっと結んで、じーっと我慢してるんだわ。
それがまた、けなげで、かわいそうでなぁ……」
そう言ってばあちゃんは遠い目をした。
僕は心の中でこっそり思った。
『ばあちゃん、母さんも僕の手を叩き、背中に物差しを入れたりするよ』
けれどそれを口に出してはいけないような気がして、僕はただ黙ってうつむいていた。
僕の頭の中ではそれから何年もの間、鬼の様な形相で僕をにらむ母さんと、我慢強くけなげな女の子は、どうしてもうまく結びついてくれないままだった。