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『ばあちゃんからの手紙』


 万由子、そして千恵子。

 悪かったな、本当に、済まなかった。


 うまく伝えられるかな。

 言いたいことはただひとつ、お前たちは少しも悪くないんだ。

 わかってくれるだろうか。



 私のこと、恨んでいるだろうね。

 許してほしいわけじゃない、ただ、もうすぐこの世からいなくなるその前に言っておきたくて、どうしても伝えたくて、うまく言葉にできるかどうかわかんないけれども、それでも書かずにはいられないんだ。


 あの家でずーっと、辛い想いばかりさせてたな。

 お父さんも大ばあちゃんも本当に厳しくて、怖かった。


 お前たちはいつも怒鳴られて、たくさんぶたれてたな。

 万由子のおでこの傷跡をみるたびに、私は胸がつぶれそうだった。


 こんなに厳しい家でなければ。

 こんな時代でなければ。


 何度もそんな風に思ったけれど、でもやっぱり、悪かったのは私なんだ。


 父さんに、大ばあちゃんに逆らってでも、命がけでお前たちを守ってやればよかった。

 弱虫だった私は結局、そうする勇気がなかった。


 だから、万由子は心を硬くして自分を守り、千恵子は大人の顔色を読むことが上手になってしまったね。


 馬鹿だなぁ。

 今思うと、何やってたんだと悔やまれて悔やまれて、たまらなくなるんだ。

 もう二度と取り返しがつかないことは、わかっているはずなのに。



 お前たちにどんなに恨まれても仕方ない、それはとっくに覚悟してる。

 ただ、これだけは忘れないで欲しいんだ。


 もし今、大切な誰かを上手く愛せなかったとしても、それはお前たちのせいじゃない。

 まだちっちゃくて柔らかいお前たちを、守ることができなかった私のせいなんだ。


 だからどうか、そんなにも自分を責めて苦しまないでおくれ。



 大人になったお前たちがこの家を出て行ってからも、後悔ばかりの毎日だった。

 もうどうしようもないとわかっているのにな。


 それでも孫っていうのは不思議でな。

 ぱせりと青慈、二人を見てると、胸の奥から温かいものがいくらでも溢れてくるんだ。


 それはきっと、小さい頃のお前たちへと流れ込んでいくはずだったもの。

 もう誰に遠慮することもない。

 やっと行き場所を見つけて、あのおっきな川みたいに、流れ続けてるんだ。


 いたずらしたってわがまま言ったって、行儀が悪くたってかまわない。

 そのまんまの姿で、そこにいてくれるだけでいい。

 ただただ、その命が、泣けてくるほど愛おしい。


 可愛くて、可愛くて、まるで天国にいるみたいな気持ちになるんだ。


 そして思ったんだ。

 あのときお前たちをこんな風に愛せたら、どれほどよかっただろう。


 もう遅い、わかっている。

 わかっているけど、それならせめて、二人に渡したこの温もりが、ほんの少しでもお前たちの所まで届きますように。

 これからのお前たちを、守ってくれますように。


 その祈りが、今の私にできる精一杯なんだ。



 万由子、千恵子、ぱせり、そして青慈。


 どんなときも決して忘れないでおくれ、お前たちはみんな、そこにいてくれるだけで、それだけで十分なんだと。



 私は先に逝くよ。

 でも、いつもそばにいるよ。


 生まれてきてくれて、ありがとう。

 生きていてくれて、本当に、ありがとう。

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