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 病院に着くと、病室の前でおろおろしていた千恵子おばさんが僕たちを見つけ、泣きそうな顔で駆け寄ってきた。


「ああ、姉さん、よかった! 

 母さんね、寝る前に自分でトイレに行こうとしてたんだけど、いきなり廊下で倒れちゃって……」


 震える声でそう言いながら、おばさんは青ざめた指でうっすらとにじんだ涙を拭った。


 呼びかけても何の反応もなかったばあちゃんは、ベッドに寝かせてしばらくすると、かすかに開いた目から幾筋もの涙を流したという。


「動けなくてもまだ意識があったんだと思うの。

 でもそのうちに目も完全に閉じちゃって、そしたらいびきをかき始めて……」


 駆けつけた医師の見立ては、脳出血だった。



 半分開いたままのドアから白衣の背中越しに、ベッドに横たわったばあちゃんが見える。働き者の引き締まった体は、たった数週間の入院でぺたんこに薄くなってしまっていた。


 それでもつい半月前にはあんなに元気だったのだ。

 大丈夫、絶対大丈夫。


 何度も自分に言い聞かせる。


 と、突然モニターのアラームが鳴り響いた。

 心電図の波形が、見えない力に押しつぶされるかのようにみるみるうちにフラットになっていく。


 何が起こっているのか把握し切れずうろたえるばかりの僕らの前で、医師は何かを大声で叫び、すごい力で心臓マッサージを続け、最後は薄い胸をはだけて電気ショックを与え始めた。


 電流が流れるたびに、ばあちゃんの体はバタン、と不自然に跳ね上がる。

 まるで力強く生きているものであるかのように。

 けれどベッドに落ちたとたん、またぐったりとした意思のない物体に戻るのだ。


 息が詰まるほどの緊迫感の中で、それが何度繰り返されたことだろう。

 これ以上とても見ていられない、おそらく誰もがそう思ったとき、母さんの悲鳴のような声が聞こえた。


「もういいわ、お願いだから、もうやめて――っ!」

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