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 深い霧が晴れていくように、心の中の何かが姿を見せ始める。

 身じろぎもせず僕を見つめるぱせりの前に静かに頭を垂れて、僕は懺悔するかのように心の内を語り始めた。


「――僕、ホントは父さんのことがすごく好きだった」


 自分の声が、静かな祈りの言葉のように響く。


「でもさ、僕がそばにいたって、何をしたって、父さんは目の前でどんどん壊れていってしまうんだ。それがたまらなく……辛かった」


 重いため息のような僕のつぶやきに、ぱせりがかすかにうなずく気配がした。



 その先を口に出すかどうかは、ひどく迷った。


 思い出そうとするだけで、胸の奥がキリキリと痛む記憶。

 触れずにすむならそうしたい。

 けれども同時に、この重苦しいものを一切合財打ち明けてしまいたくもあった。


 ぱせりは曇りのない瞳で、そんな僕をただ受け入れようとしてくれている。


 そう感じた瞬間に、勝手に言葉が溢れ出した。

 まるで、このときをずっと待っていたかのように。



「あのころ僕は、それでも親孝行な息子のふりをしてさ、呑んだくれて帰らない父さんを毎日探し回ってた。

 けどホントはね、そんなことの繰り返しに、とっくにうんざりしてたんだ。


 いや……うんざりしてただけじゃなくて……たぶん、こう思ってたんだ。


『父さんがこのまま居なくなればいい、どこかで死んでいればいいのに、そうしたらこんな生活終わるのに』


 って。


 心のどこかで……ずっとそんな風に願ってた」



 そこまでを口にした瞬間、涙が勝手にぼたぼたとこぼれ始めた。



「その通りに、父さんは死んだ。


 僕が、そう願ったんだ。


 僕が……僕が、そう願ったから……!」



 次から次へと熱い涙が頬を伝って落ちていく。



「これでわかっただろ……

 僕が許せなかったのは、そんな自分自身なんだ、君じゃない……」



 最後はもう、声にならなかった。




 うつむいて肩を震わせる僕の背中に、ぱせりの手がそっと触れる。

 すべてを許すようなぬくもりに促され、なお唇から溢れる後悔の念。



「今でも毎日のように、最後に見た父さんの悲しそうな瞳を思い出すんだ。


 そのたびに僕は、暗闇に吸い込まれて、そのまま消えてしまいそうな気持ちになるんだよ……」



 ぱせりが揺れる瞳でまっすぐ僕を見つめながら、首を横に振る。



「……違うよ、青慈のせいじゃない。


 青慈は、ちっとも悪くない。


 青慈は……お父さんが大好きだっただけ。


 大好きなお父さんが壊れてくのが、とっても辛かっただけ」



 沁みとおるようなその言葉に僕は、胸を波打たせ激しく嗚咽した。







 どれほど泣き続けていたのだろう。気がつくとあたりは薄暗くなり、熱を帯びたまぶたはひどく重かった。

 けれど不思議と心は晴れやかで、これまでにないほど温かかった。


 鼻をすすりながらふと顔を上げると、すぐ目の前にぱせりの泣き濡れた瞳があった。


「ごめん、こんな話聞いたら、君も辛くなっちゃうよね……」


 ぱせりはかすかに首を振ると、睫毛を伏せてかすれる声でつぶやいた。



「わかるんだ。


 ボクも、青慈とおんなじだから。


 ボクもいつも……消えてしまいそうなんだ」



「……本当に?」



 ぱせりは黙ってそっとうなずき、そしてうつむいた。

 その目から一筋の涙がこぼれて、赤くなった鼻の先で揺れていた。

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