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ばあちゃんは裸足にサンダルをつっかけ寝巻きの上にカーディガンをはおっただけの姿で、息を切らしすぐに駆けつけてくれた。
「うんうん、大丈夫だから。ほら、ゆーっくり吸ってごらん……今度は、吐いて」
声をかけ紙袋を口に当てているうちに、母さんの呼吸はだんだん落ち着いていった。
ばあちゃんは、まだ力が入らない母さんの体を支えて奥の寝室に連れて行った。
されるがままの母さんは、どこかほっとしているようにも見えた。
そのあとばあちゃんは、僕のために風呂の準備をしてくれた。
体は鉛のように重く、動くのがひどく億劫だった。
シャンプーをする気にもなれず、しばらくただぼんやりと湯舟につかっていた。
はっと気付くと、ばあちゃんが風呂場のドアをノックしていた。
「青慈、大丈夫かい? のぼせてないかい?」
いつの間にか1時間近くがたっていたらしい。
慌てて風呂から上がって台所で水を飲んでいると、ばあちゃんが海苔を巻いた塩むすびを僕の手に持たせてくれた。
「そんな気になれんかもしれないけどな、ちょっとでも食べとけ」
僕は言われるままそれにかじりつくと、ゆっくりと口を動かした。
確かに僕の体のはずなのに、まるで自分が食べているんじゃないようだった。
ねえ、ばあちゃん。
こうなったのは、僕のせい?
僕が悪い子だから?
もしそう問いかけたら、ばあちゃんはきっぱりと「そんなことないよ」って言ってくれただろう。でもそのときの僕は、どうしてもその疑問を口にすることができなかった。
ばあちゃんのグレーのカーディガンはあちこち毛糸の結び目が出ていて、どうやら裏返しに着ているようだった。
大慌てでそれを羽織って飛び出してくるばあちゃんの姿がふと目に浮かんだ。
そしたら急に何かの固まりがぐっと喉元に込み上げてきて、ぎゅうっと丸めたハンカチがふわっと広がるみたいに、両目から熱い涙がぽたぽたとご飯粒のついた手に落ちてきた。
「なぁ、なんでだろうなぁ」
そうつぶやくばあちゃんも目頭を押さえながら、何度も僕の頭を優しくなでてくれた。