第七話 雷鳴作戦
如月のクルーとフェザー小隊にとっての初戦闘が終わり、如月は第5宇宙拠点に到着した。
「ご苦労だったな。天本中佐」
第5宇宙拠点の拠点司令が艦から降りた天本に挨拶する。
彼は最初の宇宙拠点奪還作戦において、地球軍の現状を無視した作戦を提案し、それに反対した天本を左遷した張本人だった。
「お出迎え感謝します」
天本は不快感を顔に出さないようにして返答をする。
「山吹大佐が作戦会議室で貴官の到着をお待ちだ」
拠点司令は天本の隠している不快感に気づいていないようだった。
天本はそのまま拠点司令の顔を見ないようにして山吹の待つ作戦会議室に向かった。
「天本中佐、ご苦労であった」
作戦会議室では、山吹が作戦の資料を整理していた。
「作戦の現状はどのような感じで?」
「一部の部隊の集結を読まれていた。おそらく敵も拠点の奪還を防ぐため、戦力を結集させているだろう」
「厳しい、といった所ですか?」
「そうだな、だが、こちらも前とは違い、戦力をより多く集結させている。さて、会議の始まる時間だ」
宇宙における時間はケンブリッジ標準時を用いる。
その時計は、今は作戦会議の開始時間を示していた。
他の部隊の指揮官も作戦会議室に入室して、作戦会議が始まった。
作戦会議で山吹が説明したのは次のような内容であった。
部隊は分散させずに一つに集中させて、1つ1つ奪われた宇宙拠点を奪還するといったものだった。
「各部隊は友軍と連携を取りつつ、正面から敵部隊を撃破してくれ。また、拠点に多少の被害が出るのも仕方ないと上からの通達が出ている。拠点への攻撃も遠慮なく行って貰って大丈夫だ」
仮に多少の被害が出ても、敵に使われ続けるよりはマシということか、と天本が軍上層部の判断を推論していると、山吹からの指示が出た。
「如月は、味方部隊の交戦中に別ルートで宇宙拠点の中枢を叩いて貰う」
「了解しました」
「では、以降の本作戦の作戦名を雷鳴作戦とし、作戦決行は翌日の15時からだ。それでは、解散だ」
山吹のその言葉で会議は解散となった。
如月のクルー達は艦が入港した後、宇宙拠点で休息を取ることになった。
各クルーそれぞれの判断による自由行動である。
それぞれの過ごし方は自室で映画を見る者や、親しい者とお茶にしたり、一緒に遊ぶ者、自室で明日に備えて眠る者等である。
「美鈴、みんなでお茶にしない?」
ジーナが美鈴に声をかける。
スティーブとスコットも既に誘ってあった。
「はい、是非。後、遥さんを誘いたいんですけど……」
「遥は自室で作戦に備えて休息するって言ってた。まったく、つれない奴よ」
ジーナが愚痴をこぼす。
美鈴はそんなジーナを不思議そうな目で見ていた。
「遥さんはきっと良い人ですよ」
「そうなんだろうけどさ……」
「ジーナ!早く行こうぜ!」
「あんまり待たせないで下さいよ!」
「ほら、美鈴行こ」
スティーブの声を聞いて美鈴とジーナは二人の方へと向かった。
翌日、作戦の開始時刻となった。
地球軍の部隊はまず第4宇宙拠点の奪還に乗り出した。
如月は友軍の作戦開始より、少し遅れて作戦を開始する予定である
「こちら作戦本部山吹、如月も作戦を開始してくれ」
「了解しました。各クルー戦闘準備。フェザー小隊各機も発進の準備を整えろ」
天本の指示で各クルーがそれぞれの担当の仕事を開始する。
「フェザー小隊全機、発進準備完了」
「よし、両舷全速前進、発進ポイントに到達後、SFを発進させ、その後友軍と合流して艦砲射撃で宇宙拠点を攻撃する。周辺宙域の警戒を怠るな」
「両舷全速前進、所定ポイントへ向かいます」
美鈴が最短の航路を設定し、如月をSFの発進ポイントへと進めていく。
「発進ポイント到達まで15秒前」
スティーブが発進ポイント到達までの予定時間を報告する。
「10秒前、9、8、7、6、5秒前、4、3、2、1、発進ポイント、到達しました!」
「フェザー小隊各機、発進して下さい」
「了解!フェザー1、オラシオン発進するぜ!」
「フェザー2、シグルス発進します!」
「フェザー3、アタランテ発進する」
3機のSFが如月から発進する。
如月は友軍と合流し、友軍艦と艦砲射撃を開始する。
フェザー小隊の3機は、敵SF部隊を挟み撃ちにする為に友軍SF部隊の交戦宙域に向かう。
「さあ、行くぞ」
「OK」
「任せて」
フェザー小隊の3機は敵SF部隊に強襲を仕掛ける。
「敵機、照準内に補足」
アタランテはレールガンを構えて、奇襲により挙動の乱れた5機のテセウスの小隊に狙いを定める。
「攻撃開始」
レールガンから放たれた弾丸は2機のテセウスに命中する。
「隙あり!」
「もらった」
オラシオンとシグルスはソードを構えてレールガンを回避した3機に格闘戦を仕掛ける。
「1機!」
オラシオンがロングソードを構えて真一文字にテセウスを斬りつける。
「2機!」
シグルスが袈裟切りでテセウスを斬りつける。
「3機!」
オラシオンとシグルスがコンビネーションで最後に残った小隊長機に斬りつける。
「マーティ、遥、次にかかるぞ!」
涼が2人に指示を出す。
「涼、待って」
遥が涼とマーティを呼び止める。
「新たな敵SF反応を確認。その数3機。適合するデータ無し。多分敵の新型機と思われる」
「敵さんもこちらの作戦に対して準備してた訳か」
涼が呟く。
「敵増援の新型機から叩くぞ!さあ、行くぞ!2人共!」
「OK!」
「任せて!」
涼の指示でフェザー小隊は新型機との交戦準備に入った。
人物紹介(如月クルー)
天本 隆一
地球軍戦艦“如月”艦長。中佐。42歳。
宮部 勉
同艦副長。小佐。37歳。
ジーナ・アレニウス
同艦オペレーター。中尉。21歳。
白川 美鈴
同艦航海士。小尉。18歳。
スコット・アーヴィング
同艦火器管制官。小尉。18歳。
スティーブ・ライエル。
同艦レーダー観測員。中尉。20歳。
長月 哲也
同艦技術長。大尉。32歳。
村上 和哉
同艦技術科員。小尉。18歳。
フェリア・テティス
同艦軍医。中尉。24歳。