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いつか君へ…  作者: 半纏少尉
決意の刻 2章決意と見習い冒険者
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15話

僕らは依頼分のスライムの核を集め終えて街にあと1時間半程で着くかと言う所にいた。

深めの草が生い茂り、時折ガサガサと小動物が動く音が聞こえる。


そんな草原を歩いているとジンさんが立ち止まり周りを見た。

「…なるほど…お前ら今敵に囲まれつつある事に気付いてるか?」


そう言われて僕らは辺りの気配を読もうとするけど全く分からない。

首を横に振って分からない事を伝えるとジンさんは言った。


「今囲んでるのはグラスウルフだ、ウルフ系は基本的に集団で狩りを行い隠密に優れている。

今回はアランとカイルで組んで戦え、俺はある程度1人で数を減らす」


そう言ってジンさんは剣を抜くと臨戦態勢に入った。

僕とカイルは背を預けあい剣を抜き構える。


「来るぞ!」

ジンさんが叫ぶのと同時に何頭もグラスウルフが襲い掛かってきた。

僕目掛けて二頭のグラスウルフが牙と爪を持って僕を殺そうとしてきた。


「くっ!」

何とか二刀で防ぐが反撃出来なかった。

本気の殺意に身が竦み、体が思う様に動かない。


「「ガルルッ!」」

防がれた事に対し怒りを覚えたのか唸り声を上げながらもう一度襲い掛かってきた。


「ギャイン!!」

「ぐっ!」

一頭を斬り伏せる事に成功するももう一頭の爪が防具に当たる。

(何とか防具に当たったけど危なかった!クソッ!何で全然動けないんだ!)


自分に対しての怒りで冷静さを失ってしまった。

僕はもう一頭後ろから襲い掛かってきたのに気付かなかった。

「アラン!!」


カイルの叫びに反応してがむしゃらに横に飛んだ。

視界の端に映ったのは、先程まで僕がいた場所をウルフが通り過ぎた所だった。


もし、カイルの叫びに反応できず動けなければ死んでいたと思うとゾッとした。

ちらりとカイルを見ると防戦一方で動きがいつもよりぎこちない。


(落ち着け…ジンさんは2人で対処しろと言ったんだ。先ずはカイルを助けてそこから反撃だ!)


「カイル!!」

僕は叫ぶと同時にカイルの所に駆けて行きまさにカイルに飛び掛っていたウルフを斬り捨てる。


「ギャイン!」

「僕が流す!カイルが打って出て!」

「おう!」


僕とカイルは先程より緊張が取れて動きが良くなり僕が受けて逸らした所にカイルが大剣で斬り伏せると言う、連携と言えなくない物をしていた。


ウルフも必死な様で4頭を倒したと言うのに、衰える事なく今も僕らに向かって4頭向かって来ていた。


噛み付いて来た二頭を避けて一頭を剣で弾く、最後に来たウルフをマン・ゴーシュで受け逸らしながら反対の剣で斬った。


カイルを見ると最初の一頭を着地と同時に倒したみたいですでに残りは二頭だけになっている。


「カイル!」「おう!」

僕らは残る二頭を挟み撃ちにする様に追い詰めていった。

焦って襲い掛かってきた所を危なげなく斬り伏せる事で僕らの初戦闘は幕を閉じた。


「「ハア、ハア、ハア…」」

僕らは息を切らせながら辺りを警戒してジンさんを見る。

ジンさんは15頭近く倒していたみたいで剣の血を振り落とし鞘に収めていた。


それを見て僕らは警戒を解き剣を握ったままその場にへたり込んだ。


「つ、疲れた〜!」

カイルの叫びに僕も同意したいがさっきまで命の奪い合いをしていた事もあり何も言えなかった。


(剣から手が離れない…手がガチガチに固まってるよ…)

無意識に力が入り過ぎていたのか手が白くなって震えている。

さすって揉み解したいけど、両手共にそうなっているために何も出来なかった。


「…お前ら全然なって無いな、八頭のグラスウルフくらい今のお前達なら無傷で勝てた筈だ、身体強化も有ったし、例えどんな状況だろうと周りを見る事を忘れる奴は直ぐ死んじまう。

アラン、お前は最初の二頭のうち一頭でも反撃して倒す必要があった、普段のお前なら二頭共に斬り伏せる事も簡単だっただろう。

例えお前にどんな理由が有ろうとそんなもんこいつら魔物には関係ねぇ。

努力した物を踏み躙る様に容赦も無く襲って来る…当たり前だこいつはこいつらで生きているんだからな。

お前が敵に対処するのに時間がかかった事でカイルに負担が掛かった。

カイルは大剣だ、お前の様に素早くは動けない、だからこそお前が少しでも相手の出鼻を挫き足を削ぎカイルを楽にさせてやるんだ、分かったか?

カイル、お前は例え大剣で俊敏に動けなかろうが前衛としてやっていくのなら敵の標的を後ろにやっちまったら意味がねえ。

分かるか?普段一緒に過ごしてるアランだったから良かった物だ、もし後ろに居るのが後衛のヒーラーだったら?

今守っていたのがお前の大事な家族だっら?お前が後ろに通しちまった時点でそいつらは無事じゃねえ、最悪死んじまうんだ。

分かったか?前衛になると決めた以上死んでも自分の後ろに敵を通すな!!」


僕とカイルは真剣なジンさんの言葉を一言一句忘れるものかと必死に頭に焼き付けた。


あの後はグラスウルフから小さい魔石と討伐部位の尻尾を剥ぎ取り、何頭かを使って皮の剝ぎ方を教わった。

グラスウルフの毛皮は二束三文にしかならないらしいけどこれも解体の勉強だ。

思ったより難しく毛皮がボロボロになってしまったからその分はスライムに投げて処理して貰う。

僕とカイルが一枚ずつマシな毛皮が剥げた時点で終了して街に帰る事にした。


日暮れ頃にギルドに着き依頼の精算に向かった。

シャルルさんが心配していたみたいで、僕達を見て安堵の息を漏らしていた。


精算用のスライムの核と一緒に薬草とグラスウルフの魔石と討伐部位、毛皮を何点か出すとびっくりしたようで僕達に質問してきた。


「これは…どうしたんですか?グラスウルフが24匹も、まさかこれを今日討伐したんですか?」

僕達が頷くのを見てシャルルさんがジンさんを睨み付け口を開いた。


「ジン、これはどう言う事かしら?」

「い、いや、帰り道に囲まれてな、つ、ついでだから戦闘させようと思ってな…」

「へぇ…」

シャルルさんの底冷えする様な眼差しを受けジンさんは冷や汗を流しながら告げる。


「見習い冒険者のそれもまだ実戦をした事の無い子達に、いきなり、それも24匹も相手をさせたんですね?」

「は、半数以上は俺が受け持ったぞ?」

「そんな事は当たり前です。

初の実戦はさせる予定の前日にはその子達に伝えて覚悟させた上で1匹ずつ相手をさせるのがふつうです。

それがいきなり、しかも遭遇戦での初戦闘をさせるなど言語道断です。

貴方なら威圧で散らす事くらい出来るでしょう?」


目が笑ってない笑顔でシャルルさんが聞く冷や汗を流しながらも、ジンさんは反論した。


「それは、分かってる、ただこいつらの実力ははっきり言ってこの歳では異常だ、普通の見習いみたいにお膳立てした状態だと学ぶべき事が学べない。

だから俺は敢えて遭遇戦の命の危機がある状況を演出して学んで欲しかったんだ。

それにもし危なかったら俺は助けに入れる様にしていた」


「…はぁ…分かりました。

確かに私もこの子達の実力は見ていますし、そう考えるのも分かります。

けど命は1つしかないの、それを無駄にする様な事は極力しないで」


分かったと言うジンさんを横目に見ながら僕等も今日の事を反省して、次に活かそうと思っていた。


その夜のジンさんとの鍛錬は軽めに終わり明日は気配を読む訓練をすると聞いてみんなと別れた。


僕は1人になるとあの崖に向かっていた。

林を抜けると途中動物か何かいたのかガサリッと音がしたけど気にせずに崖に抜ける穴を通る。


今日の感覚を忘れない様に剣を振っていた。


グラスウルフの戦闘をその殺気と命の奪い合いを思い出しながら僕は目を瞑っていた。


(本物の、必死な殺意って言うのはあんなにも心が凍える物なんだ…今のままじゃダメだ竦んで動けなくなるようじゃ守りたいものも碌に守れない…)


瞼の裏にグラスウルフが僕を噛み殺そうと、大口を開けて襲い掛かって来る光景が映し出される。

それに合わせて体を動かし絶対的な恐怖に対して少しでも慣れるように、いざという時にいの一番に駆けつけられるように、必死に勇気を拾い集める。


どれ位そうしていたかわからないけど時間が経ち息が切れて動けなくなるまで動き続けた。

心は先程迄の暗雲立ち込めていたのが嘘のように晴れ渡っている。


(こんな所で立ち止まっていられない)

「必ず君を守るから…」

僕は優しく光る月に手を伸ばし、そう呟いたのだった。

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