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マガツ歌  作者: 赤砂多菜
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9頁

 コウはパソコンの画面をそのままに自室を飛び出した。

 よりによって新月は今晩だ。

 まず外を見て確認すべきだった。

 悔やんでいる暇はない。

 玄関で靴を履き、そのまま静流の家を向かおうとして、おかしな事に気付いた。

 蔵から明かりが漏れている。

 今は一刻を争う時だ。しかし、どうしても嫌な予感が胸を刺しコウを蔵へと足を運ばせた。

 開け放たれた扉、出入り口からそっと中を覗いて、思わず声を漏らしようになった。

 蔵の中の至る所に燭台がおかれ、ロウソクに火がつけられ蔵のなかは光と影に溢れていた。

 そして、中にいるのは信行一人ではなかった。何人もの村人、駐在までいる。

 彼らは脚立やはしご、そして木製の台をまるでビデオのスロー再生のような緩慢な動きで取り出そうとしていた。

 そういえば、あんな台いつからあったんだ?

 もっと良く見ようとして、肩が扉に触れた。扉が錆びた金属がすれる音を小さく、しかし静かな空間に響かせる。

 それまで作業に没頭していた村人達がこちらを見た。


「ッ?!」


 全員、目が虚ろだった。

 そして、皆が同じように口を動かしている。

 始めは何も聞こえなかったが、少しづく声は大きくなっていく。


「マガツ歌はどこにも行けぬ、大地に染み渡るマガツ歌が為に」


 コウは全力でその場から逃げ出した。



*---*



「痛いっ、お父さん。離して」


 腕をつかむ父親の手は離れない。

 静流は引きずられるように居間に連れて来られた。


「お母さんっ」


 呼びかけに母親は応えない。

 ただ、二人は歌っている。

 最初はただ口を動かしているだけだったが、今は声にだし唱和している。


「マガツ歌をマガツ歌が囲う」


 訳が分からなかった。自分が意識を失って両親のような状態になると言うのなら話は分かる。静流こそが生贄であるマガツ歌なのだから。

 だが、なぜ両親までもがマガツ歌を歌っている?

 疑問をよそに静流は玄関まで引っ張られてきた。

 母親が玄関を開けようと鍵を開けたその時、勝手に玄関が開いた。

 同時に人影が飛び込んで来た。

 コウである。

 母親を突き飛ばし、父親の顔面に頭突きを見舞う。

 緩んだ父親の手を静流から引き離す。つかまれていた腕は真っ赤になっていた。


「コウ君っ! なんでっ」

「話は後だっ。逃げるぞ」


 コウは静流の手を引いて、家の外に連れ出した。

 村のあちこちからマガツ歌が聞こえてくる。

 それは今まで静流にだけ聞こえていた、誰とも知れないか細いものではなく、聞き覚えのある声ばかりだ。


「……なにこれ」

「伏せろっ」


 コウは静流の頭を押さえ、無理矢理頭を下げさせる。

 すぐ上を懐中電灯と思わしき光が通過する。


「マガツ歌をマガツ歌が囲う」

「え?」


 ふいにコウはマガツ歌の一節を口にする。


「こういう事だったのさ。さらに続いてたろ?」

「マガツ歌はどこにも行けぬ、大地に染み渡るマガツ歌が為に?」

「そう、マガツ歌そのものが祟りであり祟られた村人をも指していたんだ。もう2年前から、この真月村はとっくにマガツ歌に祟られていたんだ」

「祟られていたって。何で? 何で私の時に限ってこんな事にっ?」

「違うっ」

「え?」

「推測でしかないけど、同じ事が2年前から繰り返されているんだ。犯人なんか見付かるはずがない。村人全員、いやもう村そのものがめぇや学者を殺した犯人なんだ」


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