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マガツ歌  作者: 赤砂多菜
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8頁

 コウが外に出ると静流はそれほど先へ行っておらず、御神木の前で立ち止まっている。

 そして、もう一人。あれはこの村の駐在だ。

 その駐在が駆けて来るコウに気付いた。


「よう、高哉君」

「どうしたんですか?」

「いや、もう芽衣子ちゃんが逝って一年近くになるのに、事件は迷宮入りのままだ。今年こそは防がなくては……そう思ってね。それを誓いに来たんだ」

「でも、今年もきっと起きる」

「お、おいっ。静流」

「……一昨年、去年と続いて今年もないと考えるほうがおかしいからな。だが、対象が誰であるか分からん。せめて、それが分かれば……」

「案外、私かも知れませんよ」

「へぇ、そうか。静流ちゃんはかわいいからな。犯人に目をつけられてるかもね」


 駐在は冗談だと思ったのだろう。


 そして、その横を静流は通り過ぎて行った。歌いながら。


「マガツ歌よ、待ち遠しきマガツ歌よ。新月の夜にマガツ歌へ送るマガツ歌は待ちかねる」



*---*



 コウは自室で考え込んでいた。

 何かが引っかかる。

 駐在は誰が対象が分からないと言っていた。

 しかし、コウは知っている。

 だが、いつだ?

 民族学者とめぇは年こそ違え、今月に死んでいる。

 が、日にちが違うのだ。

 静流の態度からして日は近いはずだ。

 その日さえ静流を守りきれば。

 いったい、いつなんだ。

 歌が脳内を駆け巡っている。

 マガツ歌が聞こえるのではない。

 静流が口にした歌が耳に残ってるのだ。


『新月の夜にマガツ歌へ送るマガツ歌は待ちかねる』


 瞬間、コウはパソコンの電源を入れた。

 馬鹿か俺は。歌にはっきりと宣言されていたじゃないか。


「今月の新月まで、後どれくらいだっ!」



*---*



「マガツ歌は待ちわびる。新たなマガツ歌を待ちわびる」


 静流は自室でマガツ歌を口ずさみながら、もうその時は近いと肌で感じていた。

 蔵の地下室で巻物を見てからマガツ歌の気配を感じとれるようになっていた。

 私は何の為に生まれたのだろう。

 マガツ歌に囚われた一年の間に放棄した考え。

 だが、何の為に死ぬのか知ってしまった今、再び考えてしまった。

 高校に入学したばかりの頃、コウとめぇの三人で夢を語り合った。

 家業を継ぐという二人に村の外に出て医者になると言った自分。

 でも、違う。本当に医者になりたかったのはめぇ。

 家業を継ぐ為に諦めたその夢を代わりに叶えてあげたかっただけだ。

 頬が熱かった。

 手で触ると濡れていた。

 自分が涙を流しているのに気付かなかった。

 めぇの言葉を信じなかった為に、めぇを死なせてしまったという後ろめたい思いがあった。

 だから、その代償としての死を覚悟していたつもりでいた。

 だが、マガツ歌が何かを知ってしまった時、目をそらしていたものに気付いてしまった。

 命への未練。

 信行は言っていた、知りたくない事かもしれないと。

 その通りだった。

 めぇの為には死ねても、祟り神なんかに殺されたくない。

 ふいにドアからノックが聞こえた。

 慌てて静流は涙を拭いた。

 入ってきたのは両親だった。

 だが、様子がおかしい。

 目が虚ろで、声は聞こえなかったが口が何か動いていた。

 そして、静流にはその口の動きで両親が何を言っているのか分かってしまった。


『マガツ歌よ、待ち遠しきマガツ歌よ』


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