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マガツ歌  作者: 赤砂多菜
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7頁

 信行、コウ、静流の3人は蔵の地下室から出て、居間のテーブルを囲んでいた。

 そこには生贄の儀式が買いてあった本と巻物が入っている桐の箱があった。


「で、何モンだったんだよ、その学者ってのは。2年前の犠牲者なんだろ? そいつ」

「ああ、民俗学の先生だったらしいな。

 どこで聞きつけたか知らないが、この村でかつて生贄の儀式をやってた時の資料を見せて欲しいって言われてな」

「断れなかったのか?」

「どうやって? 良い返事がなければ後日改めて生徒を連れて来ますと言われちゃな。

 想像してみろ。この閉鎖的な村に余所者がゾロゾロ来るわけだ。誰だって気になるだろう。中には何をしに来たか聞く奴がいるかもしれねぇ。

 すでに忘れ去られて平穏に暮らしてる村の皆にこんな話を広められてたまるか」


 その時の事を思い出してか、信行はトントンと苛立たしそうに指でテーブルを叩く。


「結局、さっきの部屋に案内した。位牌を見て歓喜してたよ。どういう神経してんだか。

 そして、あろう事か中は見ない約束だった巻物の封を剥がしやがった。曰く、中を見ないと本物かどうかわからんだってよ」

「つまり、その女が元凶?!」

「……それは分からん。神職なんぞやってるが、実のところ祟り神なんて眉唾ものだと思ってたからな。

 だからこそ、あの女をあの部屋に案内したのかも知れん」

「でも、実際に――」

「そうだな」


 信行は懐からいくつかの紙片を取り出した。


「それは?」

「あの事件の後、トンネルのところでこの箱と本が見付かってな。ウチの物だという事で警察に返してもらったんだが、本の間に挟まってたんだ。どうやら、巻物や本の中身を翻訳したものらしい。静流ちゃん、これを見てくれ」


 紙片の一枚を静流の方へ押し出す。

 そこにはこう書かれていた。


『マガツ歌よ、待ち遠しきマガツ歌よ』

『新月の夜にマガツ歌へ送るマガツ歌は待ちかねる』

『マガツ歌をマガツ歌が囲う』

『マガツ歌はどこにも行けぬ、大地に染み渡るマガツ歌が為に』

『さぁ、輪をくぐってマガツ歌の元へいこう』

『マガツ歌は待ちわびる』

『新たなマガツ歌を待ちわびる』


「なんだ、こりゃ。意味わからねぇ」


 横から見たコウが眉を潜めたが、静流は目を見開いて言った。


「これですっ。うまく言葉までききとれなかったけど、聞こえて来る歌はこれですっ!」「なにっ、この訳わかんないのが?」

「まぁ、訳が分からんのも当たり前だ。マガツ歌ばっかりだものな。

 だが、こっちのメモを見て多少は納得いったよ」


 信行は別の紙片を読み上げる。


「マガツ歌とは単独ではなく複数の意味を指す単語であって、また複数を指す事により事象を一としたものであろう。

 ……まぁ、正直半分意味は分からなかったが、マガツ歌ってのは単に祟り神だけを指すものでないって事だ。

 歌の内容と照らし合わせると少なくとも神であり歌であり、生贄を指す言葉なんだろう」


 コウは改めて歌の内容を見る。

 なるほど、いくつか言葉を入れ替えていくと、たしかに意味は見えて来る。


「マガツ歌をマガツ歌が囲うってのは?」

「分からん。あの学者先生なら分かったかもしれんがな」


 コウはしばらく考え込んでいたが巻物を見て顔を上げた。


「なぁ、親父」

「再度、蝋で封をしようってんなら無駄だぞ」

「っ?! なんで」

「目を見れば何考えてるか分かるし。俺も考え付かなかったと思うか?

 蝋がなぜかまったく定着しないんだ。

 仕方なしに紐だけ結んで見たが、……その結果が芽衣子ちゃんだ」

「そんな」


 静流はゆっくりと立ち上がった。


「静流?」

「もういいよ、コウ君。私はマガツ歌に選ばれた。だから、死ななきゃならない。そういう事よ」

「馬鹿言ってんじゃねぇ。死ぬとか軽々しく言うなっ」

「一年。一年間よ。私がマガツ歌と過ごした時間は。そして、そのマガツ歌の元へいくだけ。ただ、それだけの事よ。

 ……もうとっくに決まっていたのよ」


 そして、信行に深々と頭を下げた。


「俺からは静流ちゃんに……正直、なんと言っていいかわからん」

「感謝しています。少なくとも、めぇと違って理由を知って逝けますから」


 頭を上げて静流は玄関に向かった。

 コウは慌てて追いかけた。

 その背に信行の声が届く。


「高哉。惨いとは思うがあまり深入りするな。……してやれる事なんて何もないんだ」


 コウはその声はあえて無視した。

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