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マガツ歌  作者: 赤砂多菜
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4頁

 居間からTVの音と共に笑い声が聞こえる。

 息子が夕食の片付けをしているのに手伝いもせずにだ。

 時々蹴っ飛ばしたくなる。

 行動に移す衝動を我慢して、コウは手を洗ってタオルで拭いた。

 居間にいくと、作務衣姿のまま、横になってせんべい片手にTVを見入っている中年男性がいる。


「……親父」

「なんだ、コウ? 今、忙しいんだ急ぎじゃないなら――」

「また賭け碁してたんだってな」


 瞬間、まるで起き上がりこぼしのように父親がしゃきっと正座をする。

 ただ少し、顔が青ざめていたが。


「何の事かね、高哉君。この真月神社の神主たる真月信行が神聖な境内で賭け事など――」

「すでに前科ある身で何が神聖なだ。……それより親父。聞きたい事があるんだけど」

「な、なんだね。高哉君」

「その喋り方は気持ち悪いからやめろ。親父はマガツ歌って聞いた事あるか?」


 とくに当てにしていた訳ではない。

 こんなぐうたら親父が、という気持ちがないではなかったが、コウには信じられなかったのだ。死体の口が動いただの、歌が聞こえるだのと。

 コウの父親、信行はゆっくりと立ち上がりTVを消した。

 そして、改まって正座をした。真剣な面持ちで。


「な、なんだよ。親父っ」

「……コウ。お前、それをどこで聞いた?」

「え?」

「まさかと思うが、お前が聞いたんじゃないだろうな。マガツ歌を」


 思わずコウは信行の胸倉を掴んでいた。


「知ってるなら教えろっ! 親父。マガツ歌ってなんだよっ」


 だが、いつも息子のお仕置きに怯えるダメ親父ではなく、神事を司る真月神社の神主としての父親がそこにいた。

 信行は息子に胸倉を掴まれたまま、目をじっと見つめ


「まず確認が先だ。誰だ? 誰がマガツ歌になったんだ?」

「マガツ歌になる?」


 その瞬間、静流の言葉を思い出した。


『彼女は言っていたマガツ歌になるだけって』


 ようやく、コウは信行から手を離す。


「……静流だよ」

「そうか……。静流ちゃんか。お前今日始めて聞いたのか?」

「いや、めぇの死体見た時から少しずつ変な事を言い始めたんだ。

 死んだめぇの口がマガツ歌って言ってたとか、マガツ歌が聞こえるとか。

 マガツ歌になるってのは静流じゃなくてめぇが言ってたらしいけど。

 最近は特に酷くなってると思う」

「だろうな、日が近いからな」

「さぁ、教えてくれっ! マガツ歌ってなんだ。マガツ歌になるってなんだっ!」

「……いつかはお前も引き継がなければならん事だったが」


 信行は嘆息して


「コウ。お前、ウチでは何を奉ってるのか知っているか?」

「何をいまさら、境内の御神木だろ?」

「あの御神木は神を降ろす依り代だよ。マガツ歌という神のな。つまり本当はウチが奉っているのはマガツ歌さ」

「……な、に」

「明日、静流ちゃんを呼びなさい。彼女がマガツ歌となってしまった以上、彼女にも話さなければならんだろう。もっとも、俺とて知ってるのは歴史くらいだけだが……」

「歴史?」

「後は明日だ」


 話を打ち切り、信行は居間を出て行った。


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