表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マガツ歌  作者: 赤砂多菜
3/11

3頁

「ただいまー」


 玄関の戸を開くと吹き掃除をしていた母親が静流達を見た。


「おや、コウ君。いらっしゃい。遊びに来たの?」

「いや、この間。学校休んじゃったから、その日の授業のノートを借りに」

「コウ君ところって神社やってるでしょ。仕来りで一日修行してたんだって」

「あんれまぁ。跡取り息子は大変だねぇ」

「いや、修行といっても、古い書物書き写したりするだけですし。

 それと静流。俺のところは真月神社っていう神社の神主をやっている訳で、神社をやっている訳ではないからな」

「似たようなものでしょ?」

「そこらの商売と仮にも神を奉る地を一緒くたにされるのはなぁ」

「神ねぇ、しょっちゅう村の人相手に賭け碁をしてる神主の息子に言われてもね」

「……親父の奴。また、やってたのか。帰ったら鉄拳制裁だ」

「神を奉る地で暴力はまずいでしょ。で、話がずれていってるけど、ノートいるの?」

「あ、そうだった。いるに決まってるだろ」

「お茶もっていこうかい?」

「お構いなく。ノート借りたらすぐ帰りますんで」


 二人は居間を通り抜けて庭に面した廊下をあるいていく。

 歩きながら、また静流がマガツ歌と呼んでいるものを口ずさんでいるのに気付いた。


「やめろよ、それ」

「なぜ? 口から出さないと頭の中でぐるぐる回って出口をさ迷ってるみたいで気持ち悪いの。

 それにお母さん達には心配させたくないから我慢してるんだから、いない時位歌わせてよ」

「俺の前ではいいのかよ」

「幻聴なんでしょ?」


 クスクス笑う静流だが、コウにはそれが虚ろに感じた。

 静流が自室の戸を開き、さっそく机から該当のノートを次々と引っ張りだす。

 続いて入ったコウは部屋の中心にある円形のテーブルに一冊のノートが置いてあるのに気付いた。

 これは?

 特に興味はなかったが、自然と手がそれに伸びた。

 そして、取り上げて体が硬直した。


「これで全部……て、それは私のじゃなくめぇのノートだよ」


 彼女の言う通り、ノートの表紙には内海芽衣子と書いてある。


「なんでめぇのノートがここに?」

「借りっぱなしだったの。返す前に死んじゃったから。ううん、彼女は言っていたマガツ歌になるだけって」

「なんだそりゃ?」

「私にも分からない。たぶん、私よりも彼女の方がマガツ歌に関しては理解してたから」


 そう言って、集めたノートの束を手渡す代わりに、彼女のノートを受け取る。

 ただ、どこかにしまうのかと思いきや静流はパラパラとページをめくっている。


「これ、見て」


 彼女が指したのはノートの最後のページ。

 罫線の存在を無視して、斜めに大きく書かれた一言。


『もしもだけど、受け取れなかったらごめんね』


「彼女は気付いていたんだと思う。自分の死期が迫っていた事を」


 勘違いだと、その言葉をコウは飲み下した。

 言っても彼女は否定する。そして、何よりも実際に彼女は死んだ。

 自分の家でもある真月神社。その御神木で首を吊って。

 踏み台もなく、人が容易く登れるような場所ではなかったので他殺と断定された。なにより、一年前の同時期に村を訪れた学者も同様の死に方をしていたからだ。

 だが、目撃証言も容疑者も見付からないまま事件は迷宮入りをしている。


「だったら、なんで逃げなかったんだ?」

「無駄だと思ったからだと思う。

 だってどこにいてもマガツ歌は聞こえるもの。まるで私達を取り囲むように」

「……そうか」


 それ以上は反論せずにコウはノートを受け取った。

 ふと気になってノートをめくっていく。


「心配しなくても、私は書いてない。

 私には分からないもの。まだ、分からないだけなのかも知れないけど」

「そうか、安心して借りられるよ」


 返したコウの言葉は自分でも皮肉っぽく感じた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ