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真月村はまるで時を周りから切り離したような村だった。
ここへ来るには単線の電車に長い時間ゆられ、まるでお義理だけで通ってるような数時間に一本のバス。
自然と村は良く言えば近所付き合いが良く、悪くいえば閉鎖的になっていく。
そして、益々文明から孤立していく。
「って、親父が嘆いてたけど」
何かを口ずさんでいた静流はふわっと笑って
「でも、私はこのゆったりした世界が好きよ」
「の割には高校卒業したら出て行くんだろ? ここ」
「医大に入って医者になって帰って来るつもりだったんだ、あの時は。めぇは家業を継ぐはずだったんだっけ」
意図的に、コウは最後の部分を聞き流した。
「つもりだったって、今は違うのか?」
「さあ。一応進路の用紙にはそのように書いたけど」
そして、また何かを口ずさむ。
独り言のようにも聞こえるそれは微かに韻をふんでいる。歌?
「何を歌ってるんだ?」
「さぁ、分からない。でも、聞こえてこるの。あの日から。最近はもう毎日聞こえるわ」
「なんだ、またかよ。幻聴だってそんなの」
そんな、うんざり半分、心配半分のコウの顔を見て困ったように静流は笑う。
「まったく同じね」
「何が?」
「去年。私もめぇに言ったのよ。幻聴だって」
そして、また口ずさむ。単語が聞き取れない歌を。
「マガツ歌がこんなに聞こえるのに。めぇも同じ気持ちだったのかな? 誰にも信じて貰えず受け入れるしかないって」
*---*
一年前のあの日。
真月神社の境内にはすでに村の大人達で騒がしくなっていた。
当然だろうと静流は思った。
去年と同じ月に同じ死に方をしているのだから。
心なしか去年より人が多いのもそのせいだろう。
駐在ががんばって人を散らそうとしているがそれは無理な話だろう。
何よりも去年と違うのは、今年は村の人間が死んだという事だから。
「めぇ……」
村人達の背後から静流はこの神社の御神木に絡まる蔦で首を吊られた彼女を見た。
遠目でも分かる。
ずっと一緒にこの村で育ってきたんだ。
あれはめぇだ。芽衣子だ。
「私のせいだ」
「え?」
思わず漏れた言葉にコウが聞き返す。
「私がちゃんとめぇの話を聞かなかったからだ。めぇはずっと言っていたのにっ!」
「言っていたって何を?」
しかし、コウの質問の答えは返ってこなかった。
村人達のざわめきによって。
大した風も吹いていないのに、吊られためぇの身体が反転する。
折れた首のせいで傾いた顔が静流を見ていた。
そして、その口が動いた。確かに静流には見えた。
「マ、ガ、ツ、ウ、タ」
「静流?」
「そう、そっか。今度は私の番なのね。めぇ」