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コウの推測を聞いてくらっと静流の身体がふらつく。
そんな彼女を支えてコウはしっかりと立たせる。
「親父達が蔵で生贄の儀式の準備をしていた。けどあの様子じゃ、マガツ歌にのっとられて意識なんてないんだろう。そして、朝がきて意識を取り戻した親父は、自分達が行った生贄の儀式の犠牲者を見て、初めて驚くのさ。御神木で誰かが首を吊っているてな」
「そんな」
コウは再び静流の手を引いた。
「行くぞ、逃げるぞ」
「逃げるってどこに」
「どこでもいいっ。とにかく遠くへ行く。朝まで時間を稼ぐんだ。新月の夜さえ明ければみんな正気に戻っているはずだ。出来れば、お前はその後この村を出ていくんだ」
「……え?」
「次の新月にまた同じ事が起きないという保障は何もない」
そして、コウは微笑んだ
「お前、医者になるんだろ。めぇの代わりに。この村で生贄になってる暇なんてないはずだろ」
「コウ君……」
そうだ。死ねない。祟りなんかに殺されて、めぇの夢を潰させる訳にはいかない。
「どっちへ行けばいいの?」
「村から外れた方がいいから、トンネルを抜けて学校の方だな」
「でも、トンネルに人がいたら」
「入り口付近にいなければ大丈夫だと思う。トンネルの向こう側はもう真月村じゃない。
入り口に人がいても数人なら強引に突っ切るぞ。俺が足止めするからお前だけでも逃げろ。
生贄はお前なんだからな」
「分かった」
二人は村人に見付からないようにトンネルを目指した。
懐中電灯の光に気をつけ、村人に見付からないように移動するのはかなり神経をつかった。
時には回り道をする事もあって、普段通学していたはずの道のりが遥か遠くに感じた。
そして、とうとうトンネル付近まで辿りついた。
念の為、物陰から様子を伺う。
「誰もいない……な」
「うん」
「いくぞっ」
コウが先導し静流の手を引いてトンネルへと向かう。
特に村人が隠れていたという事もなく、すんなりとたどり着いた。
夜の闇のなかトンネル灯で照らされた通路はまるで、希望の光の輪にも見えた。
「一気に突っ切るぞ」
二人は駆け出した。
そして、トンネルに入ってすぐ、静流の目にそれが映った。
『輪をくぐってはだめ』
*---*
「静流?」
手を引いていた感触がふいに消えてコウは立ち止まって振り返った。
静流の姿が消えていた。
「そんな、馬鹿なっ」
慌てて引き返す、トンネルの外。
真月村の領域に。
「静流? え? あれ?」
まるで頭の中に霞がかかるようにそれまで考えていた事が散り々々になっていく。
かわりに次々と言葉が思い浮かぶ。
いつの間にかコウはそれを口にしていた。
「マガツ歌よ、待ち遠しきマガツ歌よ」




