表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

第2話 サッカー少年の憂鬱

「もう、サッカーは諦めた方がいい」


「治らないんですか!?」


「残念だが……手の施しようがない」


「……そう、ですか」




俺、海瀬拓真は今までサッカーだけが好きでサッカーが自分の人生の中心だと思っていた。


だが、つい三日前の試合中に相手選手と衝突し、それと同時にゴールに足をぶつけた。相手選手は大した怪我をしなかったものの、俺の右足は…




「今日も永井さん、なんかかっこいいよね…!」


「いつも一緒にいる杉原くんもイケメンだしさー!」


「そこは榊くんでしょ!あのメガネがまたいいんだよねー」


「……ちょっと、あれ海瀬くんじゃない?」


「足引き摺ってる…」


「サッカーできないんだって。可哀想…」




“可哀想”


廊下や教室で俺を見つけるや否や必ず誰かが口にする言葉。何も言わずに見てくる奴からも、その言葉が視線に含まれているのがよくわかる。


俺の気持ちも知らねえくせに、勝手なこと言ってんじゃねーよ…



ドンッ



「痛っ…」


「……あ、ごめんなさい…大丈夫?」




廊下の曲がり角でぶつかったのは、金髪の女だった。


あ、こいつ、永井奏多だ。




「いや…俺も前見てなかったし」


「はい、手」




俺より先に立ち上がった彼女は俺に手を差し出した。手摺りもないし、助かる。




「…ありがとう」


「いえ……よいしょっ」




俺を立ち上がらせたあと、永井はぶつかった反動で落としてしまったであろう大きな黒い鞄……ギターケースを抱えた。




「お前…」


「ん?」


「バンドか何か…やってんのか?」


「ああ、これ?うん。まだ始めたばっかだけどね」


「へえ……」




今までサッカー一筋だったから、はっきり言って音楽とか興味がなかった。


でも、




「なあ」


「はい?」


「練習見に行っても、いいか?」


「え……」




何を言っているんだろう、俺は。永井めちゃくちゃ困ってんじゃん。…困った表情してても、綺麗な顔してるなー…じゃなくて!




「あ、駄目だったらいいんだ!その…」


「いいよ」


「えっ」


「むしろ大歓迎!」


「は…」




永井はすっごく嬉しそうな笑顔で言った。


っていうか、こいつ不良だとかかっこいいだか言われてるけどさ、可愛くね?思ってたより話やすいし…




「空き教室借りれたから、今日は校内での練習なんだよね…三階なんだけど、大丈夫?」




彼女は俺の足を心配しているようだ。さっきの女子たちの哀れみの目は嫌だったが、彼女に心配されると、嬉しい。




「ここだよ」



ガララッ



「奏多遅いでー!」


「何かあったのか……ん?後ろにいるのは海瀬か?」


「お、おう…」


「拓真じゃん!」


「え、おま、大河!?何でここに…」




そこには学年主席の榊景太と元サッカー部の杉原大河がいた。彼らの手元には、ギターやドラムのレッスン本が散乱している。




「あ、拓真は聞いたことないんか?俺が結成したんやで、バンド!」


「はあ!?お前が!?」


「おん!」


「あ、あの、音痴で大雑把で破天荒でアニメオタクなお前が!?」


「おま、失礼やな!」


「静かにしろ、大河…お前が音痴だということは周知の事実だろうが」


「景太まで…!お母さあああん!お兄ちゃんが虐めてくるー!」


「大河……お夕飯抜き」


「何でー!?」


「………ぶふっ」


「「「?」」」


「す、すまねえ…」




こいつらを見てると、悩んでばっかだった自分や溜まっていた鬱憤までも、何だか馬鹿らしく思えてきた。




「やっと笑ったな、拓真」


「え?」


「海瀬くん、廊下歩いてる時もずっと眉間に皺が寄ってたしね」


「……海瀬、このバンドにはベースとキーボードが抜けている」


「は…?」


「拓真……俺たちと一緒にバンドやってみん?きっと楽しいで?」




彼らは皆、笑顔だった。噂で聞いたことのある彼らの過去も何も、信じられないくらいに。


答えは、決まっていた。




「俺も、メンバーに入れてくれないか?」


「「「喜んで!」」」






(第2話 終)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ