5話 初めての魔法
神々の代理ゲーム 5話 初めての魔法
……さて 魔法を使う前に 一度復習してみるか
……チェコの講義を思い出そう
この世界〈アリアオーネ〉の魔法は国や種族によって発動方法や術式が違う。
少しの違いさえ 数えると種族の数あると言ってもいいほどだ。
しかも 個人で考えた魔法や秘匿魔術まであるらしい。
…………まぁ チェコに聞けば 普通に教えてくれるが
しかし! 簡単に言えば 2種類しかないと言えるだろう!
1つ目は 詠唱魔法だ。
これは魔力さえ 持っていれば 誰もが使える魔法だ。
術者が口で呪文を唱えて発動するものだが
術者の魔力やイメージ・修練度などに依存してしまう。
まぁ 一応 補佐する動作や道具は使うらしいし
極めれば 無詠唱でも出来るようになるそうだが……
そして 二つ目は儀式魔法だ。
こちらは とても面倒くさい。
まず 地面や壁に魔法陣を描いて
それに 魔力を通して 発動するのだが
魔法陣に描く
大量の図形や文字の意味を正確に知っていなければならないし
陣には少しのゆがみも許されない。
その上 簡単な魔法陣だと
詠唱魔法の方が速くて楽だし
目分量で必要なサイズを計れる 詠唱魔法の方が使いやすい。
そのため 儀式魔法は魔法使いと呼ばれるものの中でも
魔導師と呼ばれる 最高位の使い手しかいない。
しかも 魔導師レベルになると 国の中でも重宝されるが
魔法に対して 天才的な理解力を求められてしまう。
そのため 使い手は希少だ。
一応 儀式魔法の優れている点は
1 効果が安定していること
2 魔法陣の力により 詠唱魔法には不可能な複雑で大規模なことができる
というものだ。
一応 感覚重視だと魔法で 理論重視だと魔術と呼ぶそうだが
区別してる人は ほとんどいないらしい。
中には自らを魔術師と呼ぶ
インテリ野郎もいるらしいが
まぁ どうでもいいだろう。
……さて おさらいも終わったし
魔法を使いたいと思う。
ここまで説明されれば
普通 詠唱魔法を使うと思うだろう。
当然である。
どんな優れた才能を持っていても 最初に習うのは 詠唱魔法だ。
というか ほとんどの魔法使いは儀式魔法を習わないのだ。
始めての魔法が儀式魔法であるなんて
馬鹿げていると言っても過言じゃない。
しかし 俺には詠唱魔法を使えない理由がある………
そう! しゃべれないのだ!
1週間前に 魔法を習い始めて気がついたが
俺は いまだに 生まれてから3カ月しかたってない
―知識だけなら この世界ではトップクラスの学者であろうが―
しゃべることはできなくて当り前だ。
知能の問題より 肉体の問題だからな。
発声練習も やったのだが
母親を心配させてしまったので ダメだったし
無詠唱は知識より感覚が必要なため
チェコから教わることもできない。
そのため しゃべれるまでは理論の勉強をしようと思っていたのだが
3日間の思考錯誤の結果
面白いことを考え付いたので
研究して 魔法の改良までしてしまった。
……今 考えるとアホなことをしたもんだ
……どんどん 覚えられるのが楽しくて調子に乗ってたのかもしれない
……まぁいい チェコ 少しお願いがある
(うん? なに~? ミスト)
ミストとは俺の新しい名前だ。
違和感があるが そのうち慣れるだろう。
そして チェコが俺の目の前までやってくる
……この家の周囲には誰かいるか?
(え? えっと~ いないわね)
本の能力で この世界の現在のことを調べれば
正直 俺に心の中以外で隠し事をすることは不可能に近いだろう。
……よし じゃあ
……次は 窓をあけてくれないか?
(……授業じゃないのね まぁいいけどさ)
(でも 知恵の本の聖霊に窓を開けさせるとか 間違ってない?)
文句を言いながらも 言うことは聞いてくれる。
俺としても これくらいの軽口は楽しいので気にしない。
……助かるよ 次は俺を持ち上げて窓の方を向けさせてくれ
(………だからぁ! 力仕事は専門外なの!!)
今度は プリプリ 起こり始めてしまった。
……さすがに これは厳しかったか……
知識については何でも楽しそうに教えてくれるが
こういった雑用はチェコの気分しだいである。
……頼むよ これが成功したらさ
……代理ゲームで有利に立てるかもしれないんだ
……そうなれば 神器を破壊される可能性は低くなるんだよ?
下手になって お願いすると
ぶすっとしていたが さすがに死ぬのは嫌らしく
(っ仕方ないわね~ 貸しだからね?)
ぶちぶち 言いながらも上半身を立たせてくれて
窓の方に向けて体を固定してくれた。
(はぁ…はぁ… やったわよ)
妖精の体で 赤ん坊の体を動かすのは大変らしい
目に見えて疲労している。
……ありがとう これで出来る
(ふぅーん あれ?)
(でも しゃべれないし)
(体も動かないんじゃ 陣もかけないから魔法は使えないでしょう?)
(何する気なの?)
……ん? まぁ 言ってしまえば裏技だ
……成功したら 身を守る術を手に入れられるはず
……よし やるぞ!
俺は一度 目をつぶり集中すると
改良した魔法陣の
八千を超える文字や図形
そしてその配置を寸分の狂いなく
完璧に 明確に 脳裏へと 思い描く
そして さんざん 神器に魔力を注いできたせいで
増えた魔力と慣れてしまった魔力操作によって
頭の中の魔法陣に魔力を満たす。
さらに それを地面に向かって
陣に組み込んだ中の一つ <転写>の魔法で放つ!
そうすると地面に魔法陣が浮かんで
……<自動人形><構築><吸収>発動
次の瞬間 土が盛り上がり
ゴゴゴゴゴゴ……
と音がすると
ごつごつした 2メートルほどの人型になった。
そう ゴーレムである。
……ふう できた 成功だな
(なななな! なによこれ! ミスト! 何したの!?)
……この体じゃ 何かあっても戦えないからな
……守護者を造ったのさ
(いや! だから どうやって!?)
……えっと …ああ 説明するのが面倒だ
……俺が使ったわけだから “神々の知恵庫“に更新されてるだろ?
……調べてみればいい
そう言うと
十秒ほど チェコは目をつぶって調べていたが終わると
目を開いて あきれ顔でこっちを見降ろしながら
(ミスト? いくらなんでもね?)
(生まれて3カ月で!)
(魔法習って 1週間で!)
(さらに 初めての魔法で!)
(新型魔法を創るのは あり得ないと思うわ!)
と叫んできた。
……まぁな
……暗黒神にもらった力がなかったら
……絶対に無理だったと思う
(……はぁ まぁいいけどね それでこいつって)
(何か 30くらい魔法が込められてるんだけど?)
(しかも 半分以上が 戦闘用魔法っていう化け物だし)
(何するつもり?)
……なにって
……俺とチェコ それに母さんくらいは守れるようにしたかったんだ
……代理ゲームは20歳からだとは知ってるが
……その前に 魔物に殺されたら ダメだからな
(ふ ふーん! 私を守りたかったんだ!?)
……何言ってる?
……当然だろうが
……チェコが死んだらな
……俺は失格になって
……暗黒神に永遠の拷問を受けるんだぞ?
俺は当り前のことを言ったはずなのに
そのあと 怒った チェコの体当たりを食らった。
……なぜだ?
理不尽な女性の怒りの対処法としては
とりあえず 謝るのが 賢い処世術だと思う。
……まぁ 羽虫の性別なんて気にしないが
面倒でも 一応相棒なので
後々 問題にならんように機嫌をとってから
ようやく ゴーレムの稼働試験をすることになった。
……ふぅ じゃあ まずは手動操作からだな
(手動操作? なにするの?)
……ん? 本で調べたんじゃなかったのか?
(本で調べられるのは使われた術式だけよ)
(未使用じゃ 術式の図を見ることは出来ても効果は分からないの)
(まぁ 大半が既存の魔法に似てたから なんとなくはわかったけど)
……ほう じゃあ 解説しながらやろうか
……ふむ 先生と生徒が逆転したな フハハッ
(うっさいわね 笑ってないで早くやってよ)
……んじゃ やるか さてと
頭の中に 今度は小さな魔法陣を思い描いて
魔力を通す
……<接続>!
そうすると 俺から小さな魔力の塊が
ゴーレムに飛んでいく。
そしてゴーレムの中に入り
……よし 成功だな
俺は体を動かしてみる。
手も動くし 歩くこともできる。
もっとも体は土人形だが
(ん? 何したの?)
ああ こいつに説明するのは面倒だな。
……ん! そうだ!
……チェコ 俺の頭に乗れ
(ふぇ? わかったわ)
チェコが ミストの頭に乗ったのを見て
ついでに チェコの意識も<接続>してやる。
(え? え? えええ??)
(なにこれ?!)
……意識の一部を 俺経由でゴーレムに繋げたんだ
……特に害はないから 大人しく見といてくれ
……さてと 魔物がいるのは村を出て 東だったよな?
(…ええ そうよ? 東に少し行くと森があって)
(ここらへんじゃ 最弱のモンスターが出るわね)
……んじゃまぁ! 初の実践だな!