15話 覚悟を決めた代行者
神々の代理ゲーム 15話 覚悟を決めた代行者
俺が泣きやむと そろそろ夕方になりそうだった。
あの戦いは朝からだったので かなり泣いていたようだ。
心が空っぽになったが そこに覚悟を詰め込んだ。
そして 幽鬼のように立ち上がって
ドワーフの少年を見ると 呆然としながらほぼ無意識に死体を埋めるべく穴を掘った。
ついでに 何も考えたくないのに かってに回る頭で
彼が持っていた武器を埋めてあげようとしたら
神器が俺に反応した。
俺が持つと使い方の知識が流れ込んできたのだ。
これが何か チェコに聞くと
おそらく 同じ代行者だから使えるのではないかと答えた。
正直 殺して奪うなど気がひけたが
俺はすでに 勝つために最善を尽くすと誓っていたので貰っておくことにした。
もう躊躇も舐めることもしないのだ。
彼の死を無駄にしないためにも。
そして 穴に彼の遺体をなるべくきれいにいれて
短剣と槍も一緒に入れてあげた。
本当なら これも奪った方がいいのだが
これは 彼の精力で作ってあったので 魔力を使う俺には少し使いにくかった。
それに 彼を守るための武器だったので一緒に入れてあげたかった。
そうやって埋めた後に近くにあった それっぽい石を墓石に見立てて 手を合わせる。
しかし 謝ることはしなかった。
それは 彼の死を無駄だと間違いだと言うのと同じになる。
だから その心意気と覚悟は素晴らしかったとほめた。
俺に覚悟を気付かせてくれて ありがとうと感謝した。
その後 少しだけ墓石を見ていたが振り切って
彼の遺体を埋葬したので帰ろうとすると守護者からエラー信号が来た。
一瞬 何が起こったか わからなかったが
何回か 深呼吸をして守護者からの信号を詳しく見てみる。
そうすると さすがに愕然とした。
なんと 忘れていたが
5時間以上も前に 戦闘神の代行者から神器を奪うために送った守護者だったからだ。
今考えてみれば すでに成功して神器を奪取していても
おかしくないどころか 当然のはずなのに
いまだに 成功の連絡がない。
むしろ 今 エラー信号が来たということは
何かあったということだ。
俺は すぐ何があったのか 知るために<転移戸>を開こうと思い
出口の守護者に<通信>して準備させる。
そして
……<転移戸>!
俺が出た先は 大きな山の中だった。
さらに言うと破壊がされまくった山の中だ。
まわりを見渡すと2つの人影を見つけた。
守護者を1体<召還>して何事かと見ていくと
戦斧を持った 血と傷だらけの獣人族の少年と上級魔物とすら戦える守護者が戦っていた。
しかも 周囲の木々や状況を上手く使い
まるで 演武というのが正しいような 完成された戦いだった。
俺は その戦いのすごさに見とれていると
それに気付いた 獣人族の少年は
「ぁあ? いきなし 1体がどっかいったかと思ったら」
「増援かよ! しかも おめぇが術者か?」
と 睨んできた。
俺は 睨まれたことで気を引き締め
状況を確認しようとする。
そして 覚悟を決めたのだから前を向こうと
「……ああ そうだ 俺が守護者を送った」
「……暗黒神の代行者 ミストだ」
と言った そうすると
「ぁあ? 守護者だぁ? こいつらのことか?」
「まぁいい 最後におめぇに会えてよかったぜぇ」
その言葉に違和感を覚えて
「……最後? どういうことだ?」
と 問いかけると
「ぁあ 最後に止め刺しに来たんじゃねーのかよ!」
と言ってきた。
俺は疑問を答えてもらおうと 守護者に戦いをやめさせ
「……いや なぜ 半日近くも耐えられたのかを聞きたくてな」
そうすると あちらも戦いをやめて
「ぁあ そのことか なんでもねーよ」
「俺の能力 闘争の本能 がよぉ」
「戦いの中で最善の行動を教えてくれるんだ」
「んでな さらに 力のコントロール が神器に力を注いでくれる」
「……しかし 守護者たちと戦えるほどの」
「……魔力や気力は持ってなかったはずだが?」
「ガハハ! 良く知ってんじゃねーか! そうだぜ?」
「確かに そいつらと戦えるほどの気力はなかったぜ!」
「……ならば どうやって?」
「っつうかよぉ 戦いの途中で時間を取らせるのは…」
「いただけねーぜ?」
ん? と疑問に思った瞬間
「正解は 生命力を注ぎ込んだからでしたぁああああ!!!!」
戦闘神の代行者が叫んだ瞬間
彼の姿は消えた。
それに反応した守護者たちが俺の前に出ると
ズガーーーーーン!
と爆発して 俺は吹っ飛びそうになったのをこらえる。
数秒後 目を開けようとして
防護魔法が4枚目まで破れていることに気がつく。
愕然としながら 目を開くと
目の前には上半身がない守護者3体と
俺に戦斧をたたきつけて 止まっている代行者がいた。
しかし 彼は
「ぁあ くそ 一撃ぐらい 入れたかっ…た…が…‥‥な」
と つぶやいて地面に倒れこんだ。
俺は徐々に再生が終わった守護者に囲まれながら
全身から汗が噴き出ていた。
そして 動かない獣人の少年を見ながら
「……チェコ 何が起きたんだ?」
と無意識に話しかけていた。
しかし チェコは当然のごとく答えてくれて
(おそらく 話している間に)
(神器へ残り少なかった生命力を全て注ぎ込んだんでしょうね)
動かない少年を見ながら
(そして 最後に一撃入れて 相打ちにしたかったんじゃないかな?)
と悲しそうに言ってきた。
俺は徐々に硬直がとけてきた頭で理解して
相手の戦いに 対する執念に畏れと
尊敬を感じていた。
そして さらにこのゲームに対する覚悟がより固まった。
……すごいな そこまでできるなんて
彼の遺体を見降ろしながら
自分は絶対に勝つと誓って
埋葬を始めることにした。
その後 埋葬が終わったのだが
やはり 神器が俺に反応してきた。
俺は 一瞬 命を喰らったソレに躊躇いそうになったが神器を持ち帰ることにした。
からなず 勝つと2人に誓いながら
<転移戸>で村の近くに出て
村に帰ってきた俺は まず 怒られていた。
神器を<倉庫>にしまって 家に入ったら
母に見つかって説教だ。
まぁ 朝に出て 夕方に帰ってきたら当然だろう。
昼寝してたら この時間だったと言い訳して1時間ほどの説教を我慢していると
なぜか 非日常の戦場から
日常に帰ってきた気がして
笑ってしまった。
確かに 戦いに 代理ゲームに 参加する覚悟は決まったが
大切なものは ここにもあることがわかった気がしたのだ。
まぁ その笑顔のせいで説教が倍になったのだが…
そして 説教も終わり
夕食を昼食の分まで食べて おなかが苦しくなったのを
何故か 笑いながら 自分の部屋に戻ってきた。
そして 今日のことを思い出す。
もう涙は出ない 当然だろう。
6時間近くも泣いていたのだ。
もう枯れ果てている。
それに覚悟を決めたのだ。
いつまでも 泣いていては2人に申し訳が立たない。
不思議な気持ちでベッドに横になって天井を見ていると
突然の睡魔に襲われた。
そして 目をあけると
いつぞやの真っ暗闇の世界にいた。
ただし 今回は体があった。
どういうことだと考えていると
「やぁ 久しぶりだね?」
「なかなか 元気にやっていたようで良かったよ」
と 威厳があるくせに 若々しい あの声が聞こえてきた。
「……暗黒神か?」
と 俺がきくと
「ハハッ 一応 これでも偉いんだけど」
「呼び捨てなの? 傷つくなぁ~」
とか言ってきた その半笑いに苛立ったが
「……それはすまなかった それで何の用だ?」
正直なところ いろいろあって こいつにかまっていたくない
「そんなに急がなくてもいいのにね」
「今回は 前とは違って時間制限はないんだよ?」
「まぁ 干渉できるのは2回限りだけどね」
そう言われれば 干渉を禁ずる結界があったはずだ。
「……確か 干渉は禁止ではなかったのか?」
「いやぁ 君が面白いことしてくれたからね」
「今 神界では結構問題になっていたんだよ」
「……問題だと?」
「そうさ 代理ゲームは20歳からのルールだったけど」
「君は その前に決着をつけてしまったろう?」
「……そういえばそうだな しかし ルールを破るつもりはなかったし」
「……どちらも 相手の攻撃が原因だったはずだが?」
「……それにルールにも決着をつけてはならないとは なかったはずだ」
と 俺が弁明すると
「いやぁ 別にかまわないよ 僕は面白かったからね」
「ただ 戦闘神と創造神のサイドが文句を言ってきてさ」
「まぁ ルール的には盲点だったってこともあって」
「今回はね 特別な対処を取られることになったよ」
「……特別な対処?」
「そうだよ 戦闘神と創造神の代行者が復活することになった」
「……なに!? あの2人がよみがえるのか!!」
俺は期待で 一瞬 喜んでしまったが
「ああ ごめんごめん 勘違いさせたかな?」
「彼らの死は決定してしまっているよ」
「覆すのは並大抵のことじゃないからね 無理だよ」
俺はこの時点で すでに興味を失っていたが
「復活って言うのは 代理ゲームにってことさ」
「まぁ 簡単に言えば 死んだ2人の能力を別の人間に持たせたってこと」
「ただし それをおこなった君への罰はなしってことになったよ」
「まぁ 罰も何も君はルールの中で頑張っただけだから何も問題ないんだけどね」
「……それなら あんたは何しに来たんだ?」
「ひどいなぁ~ その言い方 ハハッ」
と 笑いながら言ってくるのに むかつくが
「まぁ 単純にそのことを伝えに来たのさ」
「彼らだけ 特別に復活するなんてズルいからね」
「他の代行者も20歳までに今回についての説明と」
「何かあったように1回で 2度だけ連絡を取ることが許されたんだ」
「……なるほどな それでもう要件は終わったのか?」
俺はさっさと終わらせたかったんだが
「いやぁ それがね 今回のことでルール変更があったんだよ」
「むしろ それを伝えるために こうして会いに来たんだけどね」
「……そうか それでルールの変更とは?」
「ああ それはね 20歳以前に決着をつけることは反則になったんだよ 何回もあったら面倒だしね」
「ただ 干渉するくらいなら 許すそうだけどね」
「……そうか」
「あれ? うれしそうじゃないね?」
「干渉を許すってのは君に有利なんだけど?」
「……もうすでに きちんと決着をつけると決めたからな」
「……そんなことは いまさらだ」
「おやおや そうかい 覚悟を決めてくれたか」
「なら もう1つのサプライズは黙っておこうかな」
「……サプライズ?」
「なに 今の君にはたいしたことじゃないよ」
「後になればわかることだしさ」
「そうだ そろそろ 疲れてるみたいだから」
「最後に3つのことを教えて別れようかな」
俺はその言葉に 安堵した 終わるのかと
「1つ目はね 君が倒した代行者の2人はすでに 異世界に飛ばされて 前世の記憶なんてなく」
「平和に暮らすだろうってこと」
「まぁ 罪悪感なんて 持ってても持ってなくても 構わないけど」
「意味はないよってことだよ」
……そうか
彼らが幸せになるのは良いことだ。
しかし
「……そうか… だが 俺には関係ない」
確かに 彼らの死がきっかけで覚悟したが
覚悟したからにはもう貫くだけだ。
彼らに恨まれていようが 忘れられていようが関係ない
「おお かっこいいね 覚悟を決めた顔だよ」
「ハハッ まぁいいけどね」
その笑いに怒りをこみあげてきたが無視する。
「そうだ 次のは君も喜ぶと思うよ?」
その言葉に少し期待してやったが
「2つ目のニュースはね? 君以外の代行者は女の子になったってことさ」
「……は?」
俺は一瞬 暗黒神が何を言ってるのか わからなかった。
「いやぁねぇ? 今回の戦いは派閥の代表と同じ性別の代行者を選んだらからね」
「男女が3対3で スタートしたんだけど」
「君が男を皆殺しにしただろ?」
「そしたら 戦闘神たちが なぜ俺たちの代行者だけ殺されるんだ!って喚いていたから」
「むさくるしい男だったからだろって言ったらさ あの馬鹿共は真に受けてね」
「補充の代行者は女の子になったんだよ」
「まぁ 君の能力にハーレムの主なんてあったから女好きだと思われて」
「今回 女の子を殺さなかったのは女の子に甘いせいだと 誤解したっぽいんだよ ハハッ」
「まぁ 少しはやりにくいだろうから 効果があるかもしれないけど」
「君の顔を見たら そんなことは気にしてなさそうだから 良かったよ」
そう言われたが 後味が悪い感じはしてしまうだろう。
「ハハッ 冗談さ それに決着をつけるのは殺し合いなんて」
「野蛮な方法じゃなくてもいいんだよ?」
「もっとも 強くないと そんな話には乗ってくれないと思うけどね」
俺は すぐに切り替えて
女性を相手に殺し合いは気分が良くないだろうが
覚悟したからには どんな敵でも勝つだけだと気にしないことにした。
「……それで その話は終わりか?」
「おやぁ 悩むかと思ったんだけど立ち直りが早いなぁ」
と一瞬 暗黒神はうっすら笑ったが
「最後の情報はね 協力者ができたってことさ」
「……協力者だと?」
「そうさ 今回の件で成長するには1人では限界あるとか言ってね」
「まぁ それを口実にそれぞれのサイドの6柱以外の高位神たちが」
「自分の派閥の神に有利になるようにって」
「神器は持ってないけど 面白い能力を与えることによってね」
「協力者やライバルになればいいなとさ」
「……つまり 3つの能力者持ちが創られたと?」
「まぁ 3個以下だけどね 1つや2つのもいるよ」
「戦闘用以外の補佐もできるようにね」
「そんなやつらが かなりたくさんできたのさ ハハッ!」
「しかも 僕たちのサイドは0なんだよ ハハッハハハッ!」
「……そうか だが 立ち向かってくるなら倒すまでだ」
と俺が顔色1つ変えずに言うと
「もう! リアクションがつまらないよ!!」
「……それはすまない」
「心がこもってないねぇー ハハッ」
「……話はそれだけか?」
「いや 協力者は懐柔すれば 味方にできる可能性もあるよってことを伝えたかったんだ」
「……そうか 情報感謝する」
「なんか 固くなってきたな~ じゃあ終わりにするかい?」
「……ああ そうしよう」
「そうだね もう1つ面白い話はあったけど」
「それは言っても仕方ないしね お別れにしようかな」
俺は もう1つの話が気になったが
もう暗黒神と一緒にいるのが嫌になってきたので
「……そうか じゃあな」
「ああ 元気に頑張ってくれよ~」
といって 別れることにした。
その後 残った暗黒神が
「う~ん いい感じに育ってきてるな」
「まるで 昔のあいつみたいだよ 懐かしいなぁ~」
などと言っていたとかいないとか
昔のあいつとは誰でしょうか?