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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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【短編版】教師ですもの、当然ですわ~婚約者のいる生徒は、他者と適切な距離を保つことを心がけましょう~【※加筆連載版執筆中】

作者: 赤林檎
掲載日:2026/02/24

 その日、わたくしは王立学園の廊下に、一枚の警告文を貼り出した。


『婚約者のいる生徒は、他者と適切な距離を保つことを心がけましょう』


 まったく困ったものよね。


 わたくしの仕事を増やさないでほしいわ。


 今、その警告文の前には、隣国語の教師であるサウル先生が立っていた。


 サウル先生は、一年生の下位貴族クラスの担任なの。銀縁眼鏡が似合っている、ちょっと冷たい感じの男の先生よ。


「サウル先生、少しお時間よろしいかしら?」


 わたくしが声をかけると、サウル先生はこちらを向いた。


「ああ、ロザンナ先生」


 サウル先生は、オドオドと視線を彷徨わせた。


 この警告文が誰に対してのものであるのか、理解できているようね。それなら、話が早いわ。


「一年生の上位貴族クラスに、ヴィア王国の第二王子で留学生のアウレリオ君がおりますでしょう」


「いますね」


 あらあら、サウル先生ったら、ほっとしたような顔をしたわ。


「サウル先生は隣国語――ヴィア王国語が堪能でしょう? アウレリオ君のお宅に、この連絡帳を届けてほしいのです」


 わたくしはサウル先生に、連絡帳の入った茶色い封筒を見せた。


「私がですか? そんなことは事務員にやらせては? 片道で一か月はかかりますよ。私がなぜ……」


 サウル先生は侯爵家の五男で、受け継ぐ爵位がないから教師になったの。


 対するわたくしは、貧乏子爵家の四女。すっかり嫁ぎ後れの二五歳で、平凡な茶色の髪と瞳なの。実家にお金がなくて持参金が出せないから、仕方なく王立学園の教師になったのよ。


 わたくしは実家の爵位も、年齢も、サウル先生より下。


 けれど、学年主任なのよ。


 サウル先生ったら、上司に指図するつもりなのかしら?


「ここで問題です。なぜサウル先生が、連絡帳を届けに行かなくてはならないのでしょうか?」


 わたくしはサウル先生に笑いかけた。


「いや、行きます。行かせていただきます」


 サウル先生は、わたくしの手から茶色い封筒を奪い取った。


「下位貴族クラスの担任は、わたくしが代行いたします。わたくしもヴィア王国語ができますから、後のことはなにも心配いりませんよ。授業の進捗状況だけ、わかるようにしていってくださいね」


「わかりました。資料をまとめたら、すぐヴィア王国に発ちます」


 サウル先生はひどく慌てて、職員室に戻っていったわ。


 ――ああ、よかった。早速、一人片付いた。


 一年生の下級貴族クラスには、クーラ男爵家の庶子であるマリサさんがいるの。華やかなピンクブロンドで、顔は愛らしく、女性らしいスタイルをしているのよ。


 マリサさんは、公爵令嬢のベアトリスさんからイジメにあっていたの。ベアトリスさんは、このミセリア王国の王太子殿下の婚約者でもあるのよ。


 サウル先生は、マリサさんとイジメの件で何度も何度も個人面談を行っていたの。


 個人面談室ではもちろん、放課後の空き教室、校舎の屋上、図書館の本棚の陰なんかでもね。


 サウル先生ったら、『相談に乗っていた』と言うのなら、しっかり問題を解決してほしいものだわ。


 アウレリオ君もマリサさんとは、とっても親しいの。アウレリオ君は、ヴィア王国の第二王子殿下なのよ。いずれは国王を支えることを期待されて、我が国に留学してきたの。


 ヴィア王国の国王陛下には、わたくしが連絡帳に書いた内容を読んで、マリサさんについてご判断いただくわ。


 そうそう、ヴィア王国ってね、行くのは簡単だけど、帰りはけっこう物騒なところを通らないといけないの。


 サウル先生も充分お気を付けになって、無事に戻られるといいわね。



 わたくしが職員室に戻ると、事務員が生徒への配布物のプリントを持ってきてくれた。


 このプリントにも、『婚約者のいる生徒は、他者と適切な距離を保つことを心がけましょう』という内容を、より丁寧な文章で書いておいた。


 保護者の方々はこのプリントを読んで、お子さんと学園生活について、しっかり話し合っていただきたいわ。


 このプリントを配布した翌日から、ベアトリスさんと、宰相のご長男のウンベルト君が登校しなくなった。


 さらに、その三日後、大商会を持っている子爵家の次男のエディ君が登校しなくなった。


 ベアトリスさんとウンベルト君とエディ君は、きちんと親御さんにプリントを渡して、ご家庭で話し合ってくれたようね。よかったわ。


 わたくしは、それからさらに三日、生徒たちの様子を見ていた。


 他の生徒たちも何人か、登校しなくなったわ。


「プリントだと、ちゃんと親御さんに渡さない子もいるわよね……」


 わたくしは職員室で小さなため息を吐くと、事務員を呼んだ。上位貴族クラスのドミンゴ君のご両親を学園に呼んでもらうためよ。


 ドミンゴ君は騎士団長の三男なの。


 ドミンゴ君のご両親は、大慌てで学園に来てくれたわ。


 わたくしは放課後の空き教室で、ドミンゴ君のご両親と個人面談をした。


 ほら、お子さんの学園生活って、親御さんにはわからない部分もあるでしょう?


「学園からの配布物は、きちんと親御さんに見せるようにと言っているのですが……」


 わたくしはドミンゴ君のご両親にプリントを手渡した。


「ドミンゴ君は王太子であるフラヴィオ君のご学友として、人脈の拡大に取り組んでおられるようでしたわ」


「人脈の拡大ですか……?」


 ドミンゴ君のご両親は、あまりピンとこないご様子だった。


「下位貴族クラスの生徒とも分け隔てなくお付き合いされて」


「はあ……」


 それのどこが問題なのかと思っているご様子ね。


「クーラ男爵家の庶子であるマリサさんとは、特に親しくなりたいご様子です。婚約者のエステラさんよりも、マリサさんが気になるようですわ」


 わたくしは感じたままをお話しした。


 エステラさんは侯爵家の跡取り娘で、ドミンゴ君は婿入りする予定なの。


 ドミンゴ君のご両親は、血の気の引いた顔をして、わたくしにお礼を言ってくれた。


 その翌日、ドミンゴ君は退学した。辺境騎士団への入団が、急に決まったそうよ。



 わたくしは学園長を通じて、王家に家庭訪問したいと伝えてもらった。


 その翌日の放課後には、王宮から迎えの馬車が来たわ。


 わたくしは国王陛下の私室で、国王陛下と王妃殿下とお会いしたの。


 わたくしはフラヴィオ君のご両親である国王陛下と王妃殿下にも、プリントを手渡した。


「これは一体……、どういうことなのだ!」


「王立学園はどうなっているのです!?」


 お二人は、怒りで顔を真っ赤にしておられたわ。


 わたくしに怒られたって困るわよ。


「フラヴィオが誰と親しいというのだ!」


 それも知らないの……?


『王家の影』って、現実にはいないのかしら?


「クーラ男爵家の庶子であるマリサさんと、特に親しくなりたいご様子です。婚約者のベアトリスさんよりも、マリサさんが気になるようですわ」


 わたくしは、また感じたままをお話しした。


「フラヴィオからは、そんな話は一切聞いていない!」


『でしょうね』という言葉を、わたくしは飲み下した。


 王妃殿下が侍女にフラヴィオ君を呼びに行かせた。


 フラヴィオ君は不貞腐れた顔をして、国王の私室に入ってきたわ。


「ロザンナ先生、なんのお話なのですか?」


「フラヴィオ君、このプリントですが、親御さんに渡しましたか?」


 わたくしはフラヴィオ君にもプリントを見せた。


「ハッ、注意をするなら、マリサ嬢にしたらいい! 私は迷惑していたのだ!」


 フラヴィオ君って、本当に最低ね。


 すべてをマリサさんのせいにしようとするなんて。


「フラヴィオは王太子だ! そのマリサという女生徒を排除したら、それで済むだろう!」


「そんなこと、王立学園の責任ですわ! 職務怠慢よ!」


 国王陛下と王妃殿下が、こんな方たちだということは、なんとなく知っていたけれど……。


「お二人とも、適当なことばかり言わないでください。まずは、わたくしの話をお聞きください。マリサさんを排除するかどうか決めるのは、それからでも遅くはないはずです」


「あのような女は、娼館にでも落としては?」


 フラヴィオ君、なんてことを言うの!


「王太子にすり寄る下賤な女だ。娼館など、逆に喜ぶのではないか?」


 国王陛下も最低よ! ああ、国王陛下も、フラヴィオ君も、ニヤニヤ笑って気持ち悪い!


「国外追放が妥当ですわ!」


 王妃殿下がヒステリックに叫んだ。


 わたくしには、この三人がまともに話を聞いてくれるとは思えなくなった。


 お諫めしたところで、意味のない方だっているわよ……。


 ここでわたくしの命を懸ける必要なんてない……。


「では……、わたくしがマリサさんを国外に追放してもよろしいですか?」


「許可しよう。君にも責任のあることだ。マリサ嬢に付き添うがよい。戻ってくる必要はないぞ」


 国王陛下はそっけなく言った。


 わたくしまで追放するのね……。しかも、一介の教師に、人を国外に追放する許可まで与えてしまうのね……。


「承知いたしました」


 こうして、わたくしの王家への家庭訪問は終わったの。



「マリサ嬢を受け入れてくださったこと、感謝いたします」


 わたくしは今、隣国であるヴィア王国の謁見の間にいた。


 ヴィア王国の国王陛下と王妃殿下が玉座に座っており、王太子殿下、第二王子であるアウレリオ殿下がその横に立っている。


 アウレリオ殿下は、わたくしたちがヴィア王国を発つ少し前に、ヴィア王国に呼び戻されていたの。ヴィア王国の国王陛下が連絡帳を読んで、ミセリア王国を見限ったのよ。


 わたくしはマリサ嬢と共に、四人の前でひざまずいていた。


 サウル先生はいないわよ。ヴィア王国からの帰り道で、盗賊に襲われたらしいの。恐ろしいこともあるものね。


「先生、お礼を言うのは私の方です。マリサ嬢を無事にここまで連れてきていただき、ありがとうございました」


 アウレリオ殿下がおっしゃった。


「わたくしは、教師として当然のことをしたまで。真面目に勉学に励む者を守るのが、わたくしの務めですわ」


 マリサ嬢は優秀できちんとした生徒だったのだけれど、男爵家の庶子という身分のせいで、フラヴィオ殿下たちの標的となっていたのよ。


 そのせいで、ベアトリス嬢にまで目をつけられて……。


 さらに、そのことを相談したサウル先生にまでつきまとわれ……。


 マリサ嬢は、サウル先生に図書館の本棚の陰で襲われそうになったことまであるの。


 アウレリオ殿下は、そんなマリサ嬢を助けて、わたくしのところに連れてきてくれたのよ。


「ミセリア王国の国王と王妃は、対処してくれなかったのですか?」


 王妃殿下がおたずねになった。


「わたくしの予想通り、マリサ嬢を排除するようにと言われ……。それは教師として、わたくしにはできないことです。ですので、貴国を頼ったのです」


 排除すべきは、マリサ嬢に迷惑をかけていた生徒たちよ。


 マリサ嬢が悪いなら、もっと簡単で楽だったわ。わたくしの仕事は、マリサ嬢を退学させたら、それで終わりですもの。


「ロザンナ先生も、ミセリア王国になど戻らず、こちらに残られては……? もっとお話ししたいことがあります」


 わたくしたちの横から、国王陛下の末の弟であるケルヴィン殿下がおっしゃった。


 ケルヴィン殿下は王命により、国境までわたくしたちを迎えに来てくださった方なの。ヴィア王国の王族らしい黄金の髪と新緑の瞳を持つ、国王補佐官であり、王位継承権を持つ王弟殿下でもある方よ。お仕事が忙しすぎて、二八歳でまだ独身なのですって。


「先生、私からもお願いします」


 アウレリオ殿下まで……。


「わたくしも、先生がいてくれたら心強いです」


 マリサ嬢が小さな声で言った。


 そうよね。マリサ嬢も、知らない国で一人ぼっちは不安よね……。


「お二人とも、ご家族が心配でしたら、こちらに呼び寄せても良いのですよ」


 王妃殿下のお気遣いも、とてもありがたかった。


 わたくしは、こんな王族のいる国で生きていきたいと思った。


「マリサ嬢だけでなく、わたくしまで受け入れていただけるとは……。心から感謝いたします」


 こうして、わたくしとマリサ嬢は、家族を呼び寄せて、ヴィア王国の民となったの。


 さらに、わたくしはマリサ嬢と共に、ヴィア王国の侯爵家の養女になったのよ。


 マリサ嬢はヴィア王国の王立学園を卒業すると、アウレリオ殿下に嫁いだの。


 わたくしもマリサ嬢から一年遅れて、ケルヴィン殿下の妻にしていただいた。


 今では、わたくしも教育担当の国王補佐官なのよ。国王補佐官の仕事はとても忙しいけれど、気持ち的には王立学園の教師よりずっと楽ね。


 ミセリア王国がどうなったかですって?


 内乱が起きて大変なことになっているわ。


 フラヴィオ殿下はずっとマリサ嬢につきまとって、ベアトリス嬢のことはないがしろにしてきたのですもの。ベアトリス嬢のご実家だって、終いには蜂起するわよ。


 わたくしはそういうことになってほしくないから、問題を学園内で上手く収められるよう、動いていたというのに……。


 ミセリア王国の国王からは、『マリサ嬢の付き添いが終わったなら戻って来い』なんていう手紙や使者が何度も来たわ。


 だけど……、もう遅いわよ。


 戻るわけないじゃない。


 ミセリア王国が崩壊するのも時間の問題らしいわ。


 まあ、それも当然のことよね。

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国王は、ロザンナ先生を呼び戻して、どうしたいんだろうか。 公爵令嬢の追放ならまだわかるけど ただの教師では…?
教師ならそりゃあ、真面目だけど身分が低くて見た目が美しいせいで、クズに群がられたり変態教師に狙われたり、悋気を起こした女子生徒にいじめられたりしている生徒がいたら、こういう対応になりますよねぇw クズ…
王族が一番愚かでビックリしたw そりゃ滅びるわ
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