1.状況把握は大事
A2XX年 この国は魔物に侵されつつあった。
一昔前までは、開放的で盛況な町や村で人々は伸び伸び生活をしていた。
だが、昨今では魔物が人々の生活を脅かし、そして破壊するというなんとも言い難い現状が続いている。
その影響から人々は次第に生活圏を高く大きい壁で覆うようになり、まるでかごの中のような生活を送るようになった。
だがしかし、その現状を黙って見過ごせない人間たちがいたのだ。
魔物に立ち向かう勇敢な人間が次々と現れ、この人間のことを皆、口をそろえてこう呼ぶようになる。
そう、勇者様と。
勇敢に魔物に立ち向かう勇者様。
この地で生まれ育った男なら誰もが想い・憧れ将来は自分も勇者様のように人々を守りたい。
とそんなことを考えるのだが・・・。
ここに一人そんなことは頭の片隅にもないであろう平凡な男が。
「おばちゃん!今日も新鮮な野菜を頼むよ!」
「あら、リュン。今日も元気ね!ちょっと待ってな」
周りが果敢に勇者様を目指す中、この男 リュン・イース は今日も今日とてのんびりと生活を送っている。
「あいよ、おまたせ!これで足りるかい?」
「おう!ありがとう!!またくるよ」
リュン・イース これがここの世界で生活するうえで俺がもらった名前だ。
実は俺はこの地で生まれ育った人間ではない。
もとは地球という世界で、魔物とかも縁がないようなそんな平和な世界で生活をしていた。
だけど、ふとしたことからこの世界、いわゆる 異世界 という地に気づいたら飛ばされていたんだ。
この世界にはどうやら、魔物という化け物と人間、それと魔物を狩る勇者様っていうのがいるらしい。
この地に来てから町や村でよく言われたのだが、どうやら大半の男はその魔物ってやつを
倒す勇者様っていうのに憧れてそれを目指すのが当たり前らしい。
が、俺は正直その勇者ってやつに興味がない。
ていうか、わざわざ危険を冒してまで魔物っていう化け物に立ち向かうなんてことを
俺はしたくないんだ。
そもそも俺がこの地に来たのは1年前。
生活に慣れるのも精一杯な俺はそんなものを相手にする余裕なんて1ミクロンもないんだ。
まずここでの通貨は基本、住民の手伝いをしていわゆる小遣いのような形で稼ぐらしい。
もちろん稼いだ通貨は食べ物・物品等そういったものを購入することができる。
ただその稼ぎがなかなか大変だ・・・。
住民の手伝いといっても本当に様々で、俺みたいな名誉も地位もないどこの馬の骨かもわからん人間は
一般的な住民の小遣い稼ぎのみできるようになっている。
虫の退治や農業の手伝いそれに家の掃除とか、そういうものが基本的な手伝いだ。
1日5件から10件その手伝いをしても、もらえる通貨は10フェリから50フェリ。
俺がもといた世界でいう100円から500円といったところだ。
それでいて市場にでているものの野菜とか物品とかは最低でも30フェリからのものが多い。
そう、1日頑張って稼いでやっとその日暮らせる程度の収入ってことだ。
「なかなか、鬼畜な世界だよな。」
本来もとからここの住人であれば、もう少し上の階級で手伝うことが許される。
その手伝いの報酬はなんと1日5件のみでも 100フェリはもらえると噂だ。
ただその手伝いをするのにはこの町で生まれた証、出生証明バッジが必要になるらしい。
まあこの地に1年前に来た俺には関係のない話ってことだ。
とはいうものの、俺はこの生活を苦だと思っていない。
結婚もしてないし子供もいないから金に関しては余裕ではないが生活はできるし、
なんだかんだ町の人たちもよくしてくれている。
たまに様子を見におっさんたちも来てくれるから生活をするうえでそこまで不満も不安もないんだ。
「はあ、それでももう少し町に近いところで家を借りるんだったな。」
はははっとリュンの乾いた笑いが宙に舞う。
リュンの家は町の外壁の外、そこから数メートル離れたところにある借家だ。
たとえ一人分でも野菜やらなんやら持ってこの距離を歩くのは結構つらい。
なにせ手伝いをした後だから尚更、つらい。
「まあこの距離のおかげで、体の筋肉は少しはついたから文句は言えないな。」
手伝いは様々なため、もちろん力仕事もある。
かといって金額が金額な分、俺たちみたいな一般の手伝い人が選ぶ余裕なんてものもない。
だからこそ、どんな手伝いもできるように筋肉は少しでもつけておいたほうがいいということだ。
そんなこんなで
家に帰ってきたリュンは、一先ず汗を流してそれから男飯を作りゆったりとした時間を過ごす。
一人だからこその、この悠々自適な生活を俺はきっとこれから先も譲れないと思う。




