攻撃準備
前の更新からだいぶ時間が経ってしまいましたが久々の更新です。
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シャットたちを追い払ったヌーンは、現在、事後処理に追われていました。
「いやぁ、こりゃあ、ずいぶん激しくやってくれたなぁ」
「ええ。ただ、人に被害が出なかったのは不幸中の幸いですね」
荒らされた庁舎内を整理しながら言葉を交わしているのは、名取参元と工藤一寸です。どうやら、庁舎の外での戦いも、一段落したようでした。
「どーもー。作業、捗ってる?」
「おっ、佐久間の親父。おつかれっす!」
「お疲れ様です」
現れた佐久間開桜に、二人は会釈しながら応じました。
「佐久間さん、さっきの連中は何者だったんでしょうか」
「うーん。まだ、はっきりしないね。今、六ちゃんに色々と調べてもらってるところだよ」
二人は「そうですか」と、軽く相槌を打ちました。
すると佐久間は、近くにいた隊員二人に声をかけます。
「おーい。そこのお二人」
声に気づいた隊員たちは、素早く佐久間のもとへ駆け寄りました。
「そこはもう大丈夫だから、こっちの整理をお願いできるかな?」
そう言って、先ほどまで名取と工藤が片付けていた部屋を指差します。隊員たちは「わかりました」と答え、作業に取りかかりました。
「庁舎自体も、思ったより甚大な被害はなさそうだしね。隊長格のお二人さんには、逃亡兵の捜索をお願いできるかな」
佐久間の言葉に、名取と工藤は顔を見合わせます。その表情は、どこか嬉しそうでした。
「よろこんで!」
二人は声を揃えて答えました。
ちょうどそのとき、百田桃太郎が庁舎へ戻ってきました。
「名取さん、一寸さん、おつかれっす」
「おう!」
「お疲れ様です」
三人は一通り挨拶を交わします。
「あ、佐久間さん」
「モモちゃん、お疲れさま〜」
「うす」
百田は軽く会釈しました。
「敵の首と乗り物の破片、届けてくれてありがとうね」
「いえ……しかし、この有り様は……」
「んー。まあ、ここも襲撃を受けてね」
「そうですか……被害は? 敵の目的は?」
「被害は、建物以外はほとんどなし。目的は現在調査中、ってところかな」
「なるほど……。何かできることがあれば……」
「いや、いいんだ。それより、ステ爺が呼んでたよ」
「父様が?」
「地下の道場だろ。行ってやりな」
「……わかりました」
百田は小走りで地下へと向かいました。
「父様、お呼びで」
道場に入ると、中央で座禅を組む百田捨吉の姿がありました。庁舎でシャットと激戦を繰り広げた、ニッポニア随一の剣豪です。
「……あぁ。来たか」
捨吉は、ゆっくりと立ち上がって言いました。
「桃太郎...俺と手合わせしろ」
「父様と……?」
「俺は木刀を使う。お前は真剣でいい」
「……死んじまいますよ」
「大丈夫だ。お前に、俺は殺せない。殺す気でかかってこい」
その眼差しは、異様な気配を帯びていました。
「……わかりました」
桃太郎は静かに腰へと手を伸ばします。
カチャ
「はぁぁぁっ!」
抜刀と同時に斬りかかりますが、捨吉はその連撃を軽やかにかわします。
ドガッ
「っ……!」
一瞬の隙を突き、捨吉の木刀が桃太郎の腹に強烈な一撃を叩き込みました。
「それが殺す気か……俺の息子が聞いて呆れる」
「はぁ……はぁ……おらぁっ!」
再び放たれた斬撃は、虚空を切ります。
ドガッドカッバキッ
「ぐぅっ……くそがぁぁ!」
そこにあるのは、圧倒的な戦力差でした。道場には、桃太郎の荒い息遣いと、木刀の鈍い音だけが響いています。
――稽古開始から数十分後。
「……はぁ、はぁ……」
「……もういい」
「まだ、やれる」
「もういい。次もある」
「次……?」
「目を隠せ」
「……え?」
「目を閉じたまま、俺の攻撃を避けてみろ」
「そんなの……」
「できんか?」
「……くそ。やってやろうじゃねえか」
いつの間にか、桃太郎の口調は荒れていました。
彼は捨吉から布を受け取り、目を覆います。
視界は完全な闇。桃太郎は、視覚以外のすべての感覚を研ぎ澄ませました。
ドガッ
「んぐっ!」
木刀が腹を捉えます。
それでも稽古は続きました。
――数十分後。
「……はぁ……」
「桃太郎」
「……はい」
「目隠しを取れ」
布を外すと、再び捨吉が告げます。
「もう一度だ。真剣でいい。全力で来い」
「……はい!」
痛む身体に鞭を打ち、桃太郎は斬りかかりました。
手合わせと目隠しを、五度ほど繰り返したところで――
「……っ、はぁ……はぁ……」
「今日はこの辺りでいい」
「……」
もはや、桃太郎は言葉を発することもできません。
「よくやった。また明日、同じ稽古をつけてやる」
「……はい」
「行け」
桃太郎は、ふらつきながら道場を後にしました。
地下から階段を上がると、そこには大塩花の姿がありました。痣だらけの桃太郎を見て、慌てて駆け寄ります。
「ええええっ!? 桃太郎さん! どうしたんですか、この痣! まさか師匠に!? ブチギレですか!? カチーンですか!?」
「うるせぇ。父様はキレちゃいねえよ」
大塩は桃太郎に肩を貸します。
「いやいや! この傷、稽古の域を超えてますよ! 師匠にガツンと言ってきますから!」
「いい。端から、ガツンと言う気なんてねぇだろ」
「へへへ」
「父様は無意味なことはしない……この稽古にも、必ず意図がある」
「……そうなんですかね。私は、敵を逃した自分への怒りによる、ブチギレカッチーン斬りだと思いますけど」
「うるせぇ……悪いが、母様のところへ連れて行ってくれ」
「はいっす!」
同刻、庁舎三階では、木節かぐやと、木節昴が刀を抜いて竹でできた稽古台を見つめていました。
「よいか、かぐや。自分に危険が迫ったときは、自分で身を守らねばならん。護身のため、今一度わしの剣術を叩き込むぞ」
「……はい、じいちゃん」
「パパと言いなさい」
昴は一瞬咳払いをしてから、改めて語りかけます。
「……よいか。わしらの剣術の強みは切断力じゃ。相手に対し、刃を垂直に立てること。斬撃の瞬間だけに力を込めること。それが肝心じゃ」
かぐやは無言のまま、竹を見つめていました。
「どうした? 竹を斬らぬのか?」
「……さっきの戦い。なんで、私を行かせなかったの?」
昴の手が、わずかに止まります。
「……意味などない」
「……本当に? 何か隠してること、ない?」「…………ない」
かぐやは刀を強く握りしめました。
「今度は、私も戦わせてね。自分を守るためじゃなくて……みんなを守るために」
「…………」
「あの赤毛の男、目出川の方へ行った! 私も追いかけたい!」
「……かぐや。その赤毛の男を、どこで見た?」「部屋にいたとき。窓から見えたの。……目が、合った」
しばしの沈黙ののち、昴は深く息を吐きました。
「……そうか。皆のためにも、稽古を詰まねばならんな」
「はい!」
「とりあえず、わしの教え通り、この竹を斬ってみなさい。少し……出てくる……」
言葉の端が、微かに濁りました。
一方その頃、赤毛のシャットは庁舎から少し離れた高架下に身を潜めていました。
「ふぅ……追手は来てなさそうですにゃ。さて、まずはっと……」
ポケットから取り出したのは、小さな女神像でした。それを軽く放り投げると、眩い光とともに、足元に小さな池が出現します。
ザブン
「ふぅ……助かりましたよ、シャットさん」
池から姿を現したのは、シーバルドでした。
「助かりましたじゃにゃいですにゃ〜! 何を逃げてるんですにゃ〜!!」
「申し訳ないです……ですが、それはシャットさんも同じでは?」
「吾輩は、ちゃんと種を蒔いてきましたにゃ〜」「……たしかに、そうですね」
シャットは肩をすくめると、装置を取り出します。
「まぁ、次に備えるにゃ。よっこらにゃっと……」
「それは……空間転移装置、ですね。どなたを呼ぶのですか?」
「ボスには、許可をもらってますにゃ〜」
バヂバヂバヂバヂ
装置は激しく光を放ち、空気を震わせました。
やがて光が鎮まると、そこには複数の人影が立っていました。
「ほぉ……これは、頼もしい限りですね」
まず響いたのは、掠れた男の声でした。
「あー、痛てぇ……まじできついな、これ」
続いて、軽やかで明るい女の声が重なります。
「ちゃんと準備しておかないと、ですよ?」
そして最後に、腹の底に響くような、低く重たい男の声が場を支配しました。
「敵は、この私が根絶やしにする」
シャットは愉快そうに笑います。
「にゃっにゃっにゃ……じきに援軍も来ますにゃ。時が来たら、庁舎へ攻め込み……あの女を、奪いますにゃ〜」




