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御伽血戦  作者: 藤本由真
2/7

金太郎

夕の都 イブニング


むかーしむかし、そのまたむかし。ニッポニアのあるところに、筋骨隆々の青年がいました。


その青年は、なんと上裸のまま逆立ちをし、池のまわりを器用に歩いていました。


「こんにちはー!」


青年は、すれ違う人々に大きな声で挨拶をします。人々もそれがすっかり日常の光景らしく、笑顔で会釈をしたり、挨拶を返したりしていました。


その青年の後ろを、これまた筋肉ムキムキの別の青年が、同じく逆立ちで追いかけています。


「ちょっ! 金太郎さーん!」


後ろの青年が、前を行く青年に声をかけました。


「早いですよー! 僕にペース合わせてくださいよー!」

「なんだなんだちから! そんなんじゃ逆立ちでニッポニア一周なんてできないぞ!」

「するつもりないですから」


前を行く青年は金田金太郎かねだきんたろう。追いかけている青年は郷田力太郎ごうだちからたろうで、金田からは「力」と呼ばれています。


「よし! わかったぞ力!」


そう言うと金田は、腕でぴょんと跳ね、足で着地しました。郷田も同時に逆立ちをやめます。


「ここからは兎跳びで勘弁してやろう!」

「兎跳びは一周目でやりましたよ」


どうやら二人は、すでに池のまわりを一周どころか、何周もしているようです。


「そんなんじゃプロ・ウサギトビャーにはなれないぞ!」

「なるつもりもないですし、そもそもそんな職業ありませんから……」


郷田は腕を組み、高らかに笑いました。


「?」


そのとき、金田がふと何かに気づきます。


「なぁ、力。ありゃなんだ?」

金田が空を指さしました。


「え? んん?」

郷田も空を見上げます。


するとそこには、青く光る“何か”が、ニッポニアへ向かって落ちてきていました。


「あれは!? 隕石じゃないですか!?」

「そうみたいだな! 受け止められるか!」

「無理に決まってるでしょ!」


二人が睨みつけると、突然夕暮れの空が曇りだし、雲の中に稲妻が走りました。


そしてーー

ドゴォォォン!

「うぉっ!!」

轟音とともに雷が落ちました。


稲妻は空中の“何か”に直撃し、それは制御を失って、どこかへ落下していきました。


その瞬間、雲は割れ、空は再び夕暮れを取り戻します。


「うわ……すっごい落雷」

「はっはっは! ニッポニアを守る神様の力よ!」

「金太郎さん! 隕石、見に行きましょう!」

「おう! ニッポニアに近づいた罰としてボコボコにしてやる!」

「……相手、隕石ですよ」


二人は“何か”が落ちたであろう場所へ急ぎました。



「多分、このあたりだと思うんですけど……」


二人がたどり着いたのは、夕闇ゆうやみもりでした。


「金太郎さん! あれ!」

「おう! あれが隕石だな!」

「いや、あれって……」


そこにあったのは、岩というより金属のような、不思議な球体でした。


ドガッ

「!?」


球体の内側から音がします。天井部分がぼこりと盛り上がり、何者かが内側から押しているようでした。


ガッ、ガッ


何度も衝撃音が響き、二人は身構えます。


ドガァ!


ついに天井に穴が開きました。


「いやー。えらい目にあったわ」


中から現れたのは、十代ほどの少年でした。口の中では、クチャクチャとガムを噛む音がしています。


金田と郷田は、拳を握ったまま動きません。


「ん? 誰、あんたたち。この星の人?」

二人は答えません。


「勘弁してよ。長旅で疲れてるんだよ。あとで戦うから、ちょっと休ませて」


少年はそう言って、球体にもたれかかって座りました。


「ねぇねぇ、お兄ちゃん」

球体の中から、今度は女の子の声がします。少女がひょこっと顔を出しました。


「中の人たち、出すの手伝って」

「ん? あぁ……そいつら戦闘は得意だけど、頭が弱いんだよな」


少年は立ち上がり、ガムを吐き出しました。そのガムで球体を引っ張ると、球体が回転し、穴が横向きになります。


「はい。あとはなんとかして」

少年は新しいガムを口に放り込みました。


「貴様ら、何者だ!」

ついに金田が口を開きます。


「ん? まだいたの。あんまり大きな声出さないで」

「ニッポニアに危害を加える気なら容赦しねえ!」

「だから休むって言ってるでしょ。……あ、こいつらなら相手になるよ」


少年は球体を指さしました。

そこから、謎の男女二人と、ペロペロキャンディーを持った少女が降りてきます。


「さっさと探しに行くよ。お兄ちゃん」

「あーそうだな、ここでは休ませてもらえないみたいだし。あんたら、続きはこいつらとやっといてー」


そう言い残し、少年と少女は森の奥へ歩いていきました。


「待てぇ!」


金田が少年たちを追おうと一歩踏み出した、その瞬間でした。謎の男と女が、すっと前に出て道を塞ぎます。


「んんん……くそ!」


金田は苛立ちを隠そうともせず、低く唸りました。


「どけぇ!」


金田は迷いなく、謎の男の顔面めがけて拳を突き出しました。しかし男は、首をわずかに横へ傾け、その拳を軽々とかわします。


次の瞬間、男の拳が金田の腹部へと叩き込まれました。

ドスッ


確かな手応えがあったはずでしたが、金田の身体は微塵も揺れません。


金田は男の頭を両手でがっしりと掴みました。


「おぅら!」

膝が鋭く跳ね上がり、男の顔面を打ち抜きます。

男は後方によろめき、膝をつきました。


「おお……」

金田は、感心した様子で頷きました。


一方そのころ、郷田は謎の女と向き合っていました。

「うおーっ!!」


郷田は気合一声、駆け寄りながら大ぶりの拳を三発放ちます。

しかし女は、まるで舞うようにそれらをかわしました。


ドゴォッ

鋭い蹴りが郷田の顎をとらえます。


「っんく!」

郷田はのけぞりながらも、蹴り足を掴みました。


「んおぅらぁ!!」

全身の力を込め、女を反対側へ投げます。


四人は一瞬、互いに距離を取って向かい合いました。金田と郷田は背中合わせに立ち、それぞれ別の敵を睨みます。


「こいつら……結構やりますね」

「おぉう! 俺の膝を食らって倒れねぇとはなかなかだ!」


郷田は荒く息をついていました。金田はその様子を、ちらりと横目で見ます。


「力!」

「はい」

「女は俺がやる! お前は男を!」

「……はい。ありがとうございます」


2人は同時に振り返ります。


そのときでした。

謎の男と女は、同時に腰へ手を伸ばし、拳銃を取り出しました。


「あれは……鉄砲!」

「鉄砲への対処は教えた通りだ! 力!」

「……教わってません!」

「んお? そうだっけか!んっとだな、避けられるなら避けろ! 無理なら――」


金田は一拍置き、胸を張ります。

「――肉体で受けろ!」

「えぇ!?」

「日々の筋トレは裏切らない!」


金田は両腕を交差させ、堂々と構えました。郷田も半ば呆然としながら、同じように構えます。

「もう、めちゃくちゃですよ!」


バァン!


銃声が夕闇の森に響きました。


金田の右腕に弾丸が命中します。しかし弾丸は、盛り上がった筋肉に阻まれ、貫通することはありませんでした。

一方、郷田の腕にも弾が当たります。こちらは筋肉で逸らしたものの、わずかに血がにじみました。


「っ……!」


金田は走りながら、腕にめり込んだ弾丸を指でつまみ取ります。


「ふんっ!」


弾丸を女へ投げつけました。弾丸は女の肩を撃ち抜き、女はよろめきます。


金田は体勢を低くし、一気に距離を詰めました。

女が慌てて銃口を向け、引き金を引きます。

しかしその瞬間、金田は身体を起こしました。本来、顔があった位置に、鍛え抜かれた胸筋が現れます。

弾丸は胸筋に当たり、薄皮を削っただけで止まりました。


「おらぁ!」

バギィ

金田は大木に手刀を叩き込み、丸太をへし折ります。それを軽々と持ち上げ、女へと投げつけました。


ドガァァ!

女は丸太ごと吹き飛ばされ、地面に沈みました。


金田はすぐに女の元へ駆け寄り女の足を掴みます。


「おぅらぁ!」

そのまま、郷田のほうへ投げ飛ばしました。


「かがめぇ! 力ぁ!」

「!!」


郷田は即座にしゃがみます。視界が開けた男の目前へ、女の身体が飛び込みました。


ドンッ!


女は男の腹に激突し、二人まとめて吹き飛びます。


「力ぁ! 頼むぞぉ!」


郷田は少し戸惑いながらも歯を食いしばり、拳に力を込めました。

男はふらつきながらも拳銃を構え、郷田へ発砲します。弾は郷田の肩を撃ち抜きましたが、郷田は止まりません。


「うおおおお……!」


郷田の拳が、男の腹部へ叩き込まれます。

「剛腕武術!人壊砲じんかいほう!!」

ドガァッ!!


男の身体は宙を舞い、大木に激突しました。


それでも男は、最後の力を振り絞り、銃口を郷田へ向けます。

――そのとき。

ガシッ


金田が銃口を掴み、下へ向けました。


バァン!

弾丸は地面に突き刺さります。


「なんで今のパンチで倒れねえんだよ!」


金田は謎の怒りを男にぶつけます。


「悪いな、力」

金田は静かに拳を握ります。

「空気の読めねぇ奴は……俺の拳で終わらせる」


男には逃げ出す余力ももはや残っていませんでした。


「はぁぁぁぁぁ!」

金田の拳に力が溜まっていきます。

「剛腕武術!人壊砲!!」


ドガッ!!

ミシミシミシミシ

男の背後の大木がきしみます。


ドガァァ!

大木が砕け散り、男は何本もの木をなぎ倒しながら、森の奥へと吹き飛んでいきました。


吹っ飛んでいく男を見送ると金田は郷田のもとへ歩み寄りました。


「いい筋肉だった」

郷田はただ、黙って頷きます。


「今日は美味い飯を食って、筋トレは.......レストだな!」

「……はい!」

その声には、反省と尊敬が、しっかりと混じっていました。

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