第50章 ホワイトデーは3倍返しの法則、時間は有限でも愛は無限大?
1.デートプランの策定と朝の緊張
3月14日、ホワイトデー。
この日は朝から雲ひとつない快晴だったが、俺、鷹井順の心模様は複雑だった。
俺は昨夜、徹夜で組み上げた「デートスケジュール表」をスマホで確認していた。
『09:00~12:00 相沢里奈(遊園地エリア)』
『13:00~16:00 白樺乃愛(美術館・カフェエリア)』
『17:00~20:00 鉄輪カンナ(夜景・ディナーエリア)』
完璧だ。移動時間を含めてもギリギリだが、これなら全員と平等に時間を共有できる。
美咲のアドバイス「時間を贈る」を実践するための、過酷なワンオペ・デート作戦だ。
場所は、様々な施設が集まる複合エンターテインメント施設『東京ドームシティ』を選んだ。移動ロスを減らすためだ。
「……行くか」
俺は少しお洒落なジャケット(美咲監修)を羽織り、家を出た。
玄関で美咲が見送ってくれる。
「兄官殿。武運を祈ります。……生きて帰ってきてくださいね」
「戦場に行くわけじゃないぞ」
「女の執念は戦場より恐ろしいものです。……これ、持っていってください」
美咲が渡してくれたのは、栄養ドリンク3本だった。
「スタミナ切れは許されませんから」
重い。物理的にも意味的にも。
2.午前:相沢里奈との全力アクティビティ
午前9時。遊園地エリアの入り口。
相沢里奈はすでに待っていた。
春らしいパステルイエローのニットに、白いミニスカート。髪をハーフアップにしており、いつもより大人びて見える。
「順ー! おはよー!」
里奈が駆け寄ってきて、俺の腕に抱きつく。
「お、おはよう。早いな」
「楽しみすぎて眠れなかったもん! ……ねえ、今日の順、なんかかっこいい!」
里奈が俺の服を褒めてくれる。美咲のコーデが効いているようだ。
「さあ、行こう! 今日は遊び倒すよ!」
里奈が選んだのは、絶叫マシンではなく、のんびり楽しめるアトラクションだった。
メリーゴーランド、ティーカップ、そしてシューティングゲーム。
彼女は俺の手を離さず、ずっと笑顔で隣にいた。
「ねえ順。……私、お返しなんて期待してなかったんだよ?」
観覧車の中で、里奈がふと言った。
「えっ?」
「だって、バレンタインのチョコ、重かったでしょ? ヤンデレとか言っちゃったし……。引かれてるかなって思ってた」
里奈が少し俯く。
俺は首を横に振った。
「そんなことないよ。嬉しかった。……だから今日は、里奈が一番楽しいと思うことをしたかったんだ」
里奈が顔を上げる。その瞳が潤んでいる。
「……順。大好き」
彼女が俺の頬にキスをする。
「これが最高のお返しだよ」
時間が来るまで、俺たちは手と手を重ねて窓の外の景色を見ていた。
3.午後:白樺乃愛との芸術的対話
午後1時。美術館エリア。
白樺乃愛は、絵画の前で静かに待っていた。
黒のシックなワンピースに、真珠のネックレス。美術館の雰囲気に溶け込みすぎていて、もはや展示品の一部のようだ。
「ごきげんよう、ご主人様。……時間通りね」
乃愛が振り返る。その表情は穏やかだが、目には強い光が宿っている。
「お待たせ。……美術館なんて、柄じゃないけど」
「いいえ。貴方と美しいものを共有したかったの」
乃愛の案内で、館内を巡る。
彼女は博識で、絵画の背景や作者の意図をわかりやすく解説してくれる。
ただの独占欲の塊だと思っていた彼女の、知的で繊細な一面。
「この絵を見て。……『愛の寓意』というタイトルよ」
乃愛が一枚の絵の前で足を止める。
男女が絡み合うように描かれた、少し官能的な絵画だ。
「愛は、時に人を狂わせ、束縛し、そして……救うこともある。私はそう思うわ」
乃愛が俺の方を向く。
「私の愛は重くて、暗いかもしれない。……それでも、貴方は受け止めてくれる?」
試されている。
俺は彼女の目を見つめ返した。
「……重いけど、嫌いじゃないよ。乃愛のそういうとこ」
乃愛が目を見開く。そして、頬を赤らめてそっぽを向いた。
「……バカ。調子に乗らないで」
彼女の手が、俺の服の裾をギュッと掴んだ。
カフェでのティータイムも、いつもより甘く感じられた。
4.夕方:鉄輪カンナとの夜景と決意
午後5時。展望レストラン。
鉄輪カンナ先輩は、窓際の席で夜景を見下ろしていた。
淡いブルーのワンピースに、白いカーディガン。清楚そのものだ。
だが、その手は小刻みに震えている。
「……お待たせしました、先輩」
「あ、鷹井くん! ……こ、こんばんは」
先輩が立ち上がり、椅子に躓きそうになる。緊張している。
「今日はありがとうございます。……こんな素敵な場所に連れてきてもらえて、夢みたいです」
「先輩への感謝の気持ちですから」
ディナーが運ばれてくる。
先輩は一口食べるごとに「美味しいです」「幸せです」と繰り返す。
だが、食後のコーヒーが出た時、先輩の表情が真剣になった。
「鷹井くん。……私、もうすぐ卒業します」
「はい」
「卒業しても……こうやって会えますか? 風紀委員じゃなくなっても、先輩後輩じゃなくなっても……」
先輩の手がテーブルの上で俺の手に重なる。
「……女として、見てくれますか?」
俺はその手を握り返した。
「もちろんです。……先輩は、俺にとって大切な人ですから」
恋人という言葉はまだ言えない。でも、関係を切りたくないという思いは本物だ。
先輩の目から涙がこぼれた。
「……嬉しい。……卒業式の日、待ってますから」
レストランを出ると、外は完全に夜になっていた。
イルミネーションが輝く中、俺たちは並んで駅へ向かった。
5.一日の終わりとアプリの評価
夜9時。帰宅。
俺はリビングのソファに倒れ込んだ。
疲れた。精神力も体力も使い果たした。
だが、心は満たされていた。
誰か一人を選ぶことはできなかったが、それぞれと向き合い、想いを伝えることはできたはずだ。
美咲が冷たいお茶を持ってきてくれた。
「……お疲れ様でした。生還しましたね」
「ああ。……なんとかな」
「皆さんの反応は?」
「……悪くなかったと思う」
スマホが震える。
アプリからの通知だ。
『ホワイトデー・ミッション完了』
『総合評価:Sランク(ハーレムルート継続)』
『報酬:ヒロインたちの「愛の深さ」が限界突破しました』
『副作用:今後、彼女たちの独占欲がさらに激化する恐れがあります』
……やっぱりか。
平穏な日常は遠のいたかもしれない。
だが、俺はスマホを握りしめ、小さく笑った。
「まあ、それも悪くないか」
美咲が不思議そうに俺を見る。
「……兄官殿、ニヤニヤして気持ち悪いです」
「うるさいよ」
俺は目を閉じた。
瞼の裏には、三人の笑顔が焼き付いていた。
春休みが始まる。そして、新学期、先輩の卒業。
物語はまだまだ続く。俺たちの青春は、ここからが本番だ。




