第46章 初売り福袋は欲望の詰め合わせ、初詣は賽銭泥棒ならぬハート泥棒
1.元旦の朝、コタツからの強制退去
元旦の朝。
初日の出を見に行った後、俺たちは一度解散し、昼過ぎに再び集合することになっていた。
俺、鷹井順は、自宅のリビングで雑煮(美咲特製・関東風)を啜りながら、テレビの特番を眺めていた。
「……平和だ」
昨夜の除夜の鐘騒動(第45章)が嘘のように、家の中は静かだ。
美咲は自室で書き初め(という名の作戦計画書作成)をしているらしい。
俺はコタツに足を入れ、みかんの皮を剥きながら、この平穏が永遠に続けばいいと願っていた。
しかし、その願いはインターホンの音で打ち砕かれた。
ピンポーン! ピンポーン!
連打。相沢里奈だ。
ドアを開けると、そこには戦闘服(動きやすいダウンジャケットとスニーカー)に身を包んだ里奈と、優雅な着物コート姿の白樺乃愛、そして巫女服(!?)を着た鉄輪カンナ先輩が立っていた。
「あけおめ順! 行くよ! 初売り!」
「ごきげんよう、ご主人様。……新年の運試しですわ」
「鷹井くん……神社の手伝いの合間に来ました。……この格好、変ですか?」
先輩、なぜ巫女服? バイトか? それとも趣味か?
紅白の袴姿が似合いすぎていて直視できない。
「……行くって、どこに?」
「決まってるでしょ! 駅前のデパート! 福袋争奪戦だよ!」
俺は強制的にコタツから引き剥がされ、新春の街へと連行された。
2.福袋争奪戦とアプリの透視能力
駅前のデパートは、初売り目当ての客でごった返していた。
「タイムセールでーす!」「福袋残りわずかでーす!」という店員の絶叫が響く。
戦場だ。
「狙うは限定50個の『ブランドコスメ福袋』よ!」
里奈が目を血走らせて突撃する。
「私は地下の食品売り場で『高級スイーツ福袋』を確保しますわ」
乃愛が優雅に、しかし素早くエスカレーターへ消える。
「私は……『文房具福袋』を見てきます」
先輩は地味だが堅実だ。
取り残された俺は、メンズコーナーをぶらついていた。
『ゲームソフト福袋』『ガンプラ福袋』……。
魅力的なラインナップだが、中身が見えないのが怖い。
鬱袋(在庫処分品)を引く可能性が高い。
その時、スマホが震えた。
『環境検知:初売り会場』
『新機能:【中身透視(Xレイ・スキャン)】』
『効果:福袋の中身をリスト化して表示します』
『制限時間:10分』
神機能きた!
これさえあれば、当たりを引ける!
俺は片っ端から福袋をスキャンした。
『ゲーム福袋A:クソゲー詰め合わせ(在庫処分)』→ パス。
『ゲーム福袋B:周辺機器のみ(本体なし)』→ パス。
『ゲーム福袋C:最新ハード入り(大当たり)』
これだ!
俺は福袋Cに手を伸ばした。
その瞬間、横から伸びてきた手が、同じ袋を掴んだ。
「あ」
顔を上げると、そこにいたのは……神崎レン(第35章の転校生)だった。
あいつも生きていたのか。
「よお鷹井。奇遇だな。……これ、俺が先に目つけたんだけど?」
「いや、同時に掴んだだろ」
「譲れよ。お前みたいな陰キャに最新ハードは似合わねーよ」
相変わらず嫌な奴だ。
俺が引こうとしないと、レンはニヤリと笑った。
「じゃあ勝負しようぜ。……この袋を賭けて」
その時、背後から冷ややかな声がした。
「あら、また懲りずにご主人様に絡んでいるの?」
乃愛だ。彼女の両手には大量の高級福袋が提げられている。
里奈とカンナ先輩も戻ってきた。
「何あいつ! また順に意地悪してんの!?」
「不当な占有行為は許しません!」
ヒロインたちが俺の背後に立ち、レンを睨みつける。
レンはたじろいだ。
「ちッ、また女連れかよ……。やってらんねーな!」
レンは手を離して逃げていった。
俺は無事に福袋Cをゲットしたが、またしても「女の尻に敷かれる男」というレッテルを貼られた気がする。
3.巫女さんとのおみくじデート
買い物の後、俺たちは近くの神社へ初詣(二回目)に向かった。
カンナ先輩は神社の手伝いがあるため、一度社務所に戻り、正式に巫女として境内に立つことになった。
「鷹井くん……おみくじ、引いていきませんか?」
授与所の窓口で、先輩がはにかみながら言った。
巫女姿の先輩からおみくじを受け取る。
これだけでご利益がありそうだ。
「じゃあ、一つ」
俺は100円を渡し、箱を振って棒を出した。
『四十八番』。
先輩が棚から紙を取り出し、渡してくれる。
その時、先輩の指が俺の手に触れた。
冷たくて、でも温かい。
『吉』。
内容は……『待人:来る。ただし騒がしい』『恋愛:波乱含み。選ぶ時近し』。
当たってる。当たりすぎて怖い。
「……鷹井くんのは何でしたか?」
先輩が身を乗り出して覗き込んでくる。
彼女の巫女服から、おしろいのいい香りがする。
「吉です。先輩は?」
「私は……仕事中なので引けませんが、鷹井くんが大吉なら、私も大吉みたいなものです」
先輩がニコッと笑う。
破壊力が高い。
その様子を遠くから見ていた乃愛と里奈が、嫉妬の炎を燃やしていた。
「……あの巫女、職権乱用よ」
「順にお守り売りつけてるふりして、手握ってるし!」
二人はおみくじを引くふりをして割り込んできた。
「凶が出たら順が慰めてね!」
「大凶が出たら、ご主人様の家で厄払い(お泊り)しますわ」
結果は二人とも『大吉』だった。残念(?)。
4.甘酒と酔っ払いヒロイン
境内では、振る舞い甘酒が配られていた。
寒い中で飲む熱い甘酒は最高だ。
俺たちはベンチに座って甘酒を啜った。
「あったまる~」
里奈がほっこりしている。
「……少しアルコール分がありますわね。酔いそうですわ」
乃愛が頬を赤らめる。
甘酒のアルコールなんて微々たるものだ。酔うわけがない。
そう思っていたが、アプリが反応した。
『環境検知:アルコール摂取(微量)』
『パッシブスキル:【酔拳・ラブドランク】』
『効果:微量のアルコールでも、ヒロインたちの理性のタガを外し、「デレ上戸」や「泣き上戸」などの状態異常を引き起こします』
やめろ! ここは神聖な場所だぞ!
効果はてきめんだった。
里奈が俺の肩にもたれかかり、すりすりと猫のように甘え始めた。
「じゅ~ん……好きぃ……ぎゅってしてぇ……」
可愛いが、人目が気になる。
乃愛は急に泣き出した。
「うぅ……ご主人様ぁ……どうして私を見てくださらないの……? 私、こんなに尽くしているのに……」
泣き上戸か! 普段の女王様キャラが崩壊している。
そして、仕事を終えて戻ってきたカンナ先輩(彼女も休憩中に飲んだらしい)は、笑い上戸になっていた。
「あはは! 鷹井くーん! 巫女服、脱がしてみますかー? 風紀が乱れちゃいますよー!」
一番ヤバい! セクハラ発言連発だ!
俺は泥酔(?)した三人を抱え、タクシーを呼ぶ羽目になった。
運転手さんの「お客さん、大変だねえ(ニヤニヤ)」という視線が痛い。
5.夕暮れの帰り道と美咲の出迎え
なんとか三人をそれぞれの家に送り届け(乃愛は執事が迎えに来た)、俺はヘトヘトになって帰宅した。
玄関を開けると、美咲が待っていた。
「……お帰りなさい、兄官殿。随分と遅い帰還ですね」
美咲は腕組みをして仁王立ちしている。
だが、そのテーブルには、俺の分の夕食(おせちの残りとお雑煮)が用意されていた。
「色々あってな……」
「酒臭いです。……まさか、未成年飲酒ですか?」
「甘酒だよ! 彼女たちが酔っ払って……」
俺が事情を説明すると、美咲は呆れたように溜息をついた。
「……まったく。兄官殿の周りは、常識が通用しない魔境ですね」
美咲は俺のコートを受け取り、ハンガーにかけた。
そして、ボソッと言った。
「……私も、行きたかったです。初売り」
その言葉に、俺はハッとした。
美咲を置いてけぼりにしていた。
「……明日、行くか? まだセールやってるし」
俺が提案すると、美咲の目が輝いた。
「……本当ですか? 約束ですよ?」
「ああ。何でも買ってやるよ(予算の範囲内で)」
美咲は小さくガッツポーズをした。
「了解しました。作戦名は『兄妹デート・リベンジ』です」
俺は苦笑いしながら、温かいリビングの空気を吸い込んだ。
正月早々トラブル続きだったが、最後は悪くない一日だったかもしれない。
福袋に入っていた最新ゲーム機を、明日美咲と一緒にやろう。
そう思いながら、俺は新しい年の一歩を踏み出した。




