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第40章 嵐山の竹林は迷宮、着物は拘束衣、そして夜の密会

1.着物レンタルと帯の締め付け


 修学旅行2日目。

 朝から俺たち(俺、乃愛、里奈、田中)の班は、京都市内の着物レンタル店『京小町』に来ていた。

 女子たちの強い希望(という名の命令)によるものだ。


「順、どれがいいかな? ピンク? 水色? それとも……赤?」

 相沢里奈が、色とりどりの着物を鏡の前で合わせてくる。

 彼女が選んだのは、鮮やかな桃色に桜柄の振袖風着物。ギャルっぽい明るい髪色と意外にマッチして、華やかさが際立っている。


「……どれでもいいよ」

「もー、ちゃんと見てよ! 順のために選んでるんだから!」


 一方、白樺乃愛は店員さんを困らせていた。

「もっと上質な生地はありませんの? 西陣織の特注品とか……」

「お嬢様、うちはレンタル店でして……」

「仕方ないわね。では、この黒地に金糸の牡丹柄で妥協しましょう」


 乃愛が選んだのは、極道の妻も裸足で逃げ出しそうな、妖艶かつ迫力満点の着物だった。

 銀髪とのコントラストが美しすぎて、周囲の客が息を呑んでいる。


 俺と田中も、男子用の着物に着替えさせられた。

 俺は地味な紺色、田中はなぜか緑色(カッパみたいだと言われていた)。


「さあ、ご主人様。……帯を締めてくださる?」

 着付けが終わった乃愛が、俺に背中を向けた。

「えっ、店員さんがやってくれただろ?」

「仕上げよ。……貴方の手で、私を縛り上げてほしいの」


 乃愛が振り返り、妖しい目で俺を見る。

 アプリの【赤い糸・可視化モード】が発動する。

 乃愛の腰から伸びる黒い鎖が、俺の手首に巻き付き、ギチギチと音を立てているように見えた。

 『拘束願望:レベルMAX』のテロップ。


「……わかったよ」

 俺は形だけ帯をギュッと引っ張った。

「んっ……♥」

 乃愛が艶かしい声を上げる。店内の視線が痛い。

 里奈も負けじと「私も! 順、帯直して!」と背中を向けてくる。

 朝から着物プレイを強要される修学旅行。先が思いやられる。


2.嵐山・竹林の小径での迷子と遭遇


 着物姿の一行は、嵐山へと向かった。

 渡月橋を渡り、竹林の小径へ。

 空高く伸びる竹が日光を遮り、緑色の静寂が広がる幻想的な空間だ。


 だが、その静寂はすぐに破られた。


「キャー! 順、人力車乗ろうよ!」

「歩くのが風流ですわ。……ご主人様、手をお貸しになって」


 砂利道で歩きにくい着物姿の二人が、俺の両腕にしがみつく。

 重い。物理的に歩きにくい。

 田中はいつの間にか外国人観光客に捕まり、記念撮影のシャッター係にされていた。


 竹林の奥深くへ進むと、人通りが少なくなってきた。

 その時、向こうから見覚えのある人物が歩いてきた。

 制服姿に「風紀委員」の腕章をつけた、鉄輪カンナ先輩だ。

 彼女は修学旅行には同行していないはずだが……?


「……先輩? なんでここに?」

「あ、鷹井くん!?」


 先輩がビクッとして立ち止まる。

 彼女は慌てて何かを隠そうとした。

 手には『縁結びのお守り(野宮神社)』と『大吉のおみくじ』が握られている。


「こ、これは……現地の風紀状況を視察するために……プライベートで来ました!」

「自腹ですか!? どんだけ暇なんですか!」

「暇じゃありません! ……鷹井くんが心配で……」


 先輩が顔を赤らめて俯く。

 その首元からは、透明なワイヤー(アプリで見える糸)が伸びており、俺の首にしっかりと巻き付いていた。

 ここまで追いかけてくるとは、執念がすごい。


「せっかくだから、先輩も一緒に回りますか?」

「えっ、い、いいんですか? ……お邪魔では?」

「泥棒猫が増えただけですわ」

 乃愛が冷たく言い放つ。

「でも、先輩も着物着ればいいのにー」

 里奈が無邪気に提案する。


 結局、カンナ先輩もレンタル着物店に連行され、数十分後には紫色の矢絣やがすり着物姿の「大正ロマン風美女」に変身して戻ってきた。

 これで着物美女3人+俺(付き人)のハーレムパーティ完成だ。


3.天龍寺の庭園と心の声


 天龍寺の庭園で、俺たちは縁側に座って休憩した。

 目の前には曹源池そうげんち庭園が広がり、紅葉が水面に映り込んでいる。

 美しい景色だ。

 だが、俺のアプリには別の景色が見えていた。


 『機能:【心の声テロップ・京都編】』

 『効果:風流な景色に刺激されたヒロインたちの「本音ポエム」を表示します』


 乃愛の頭上に文字が浮かぶ。

 『(この美しい庭園……ご主人様と二人で眺めたい。そして、池の鯉のように、彼を私の庭で飼い殺しにしたい……)』

 → 怖い! 監禁願望がブレない!


 里奈の頭上。

 『(順の横顔、かっこいいな……。着物も似合ってるし……。ねえ、私の振袖、可愛いって言ってよ……)』

 → いじらしい。ちょっとキュンときた。


 カンナ先輩の頭上。

 『(ああ……鷹井くんと並んで座っている……。太ももが触れそう……。このまま時間が止まればいいのに……。そして夜は……)』

 → そこで止まれ! その先はR18だ!


 三人の心の声(妄想)に囲まれ、俺は居心地の悪さを感じていた。

 ふと、里奈が俺の袖を引いた。


「ねえ順。……私、似合ってる?」

 小声で聞いてくる。

 俺は少し躊躇したが、正直に答えた。

「……ああ。似合ってるよ。可愛い」


 里奈の顔がパッと輝いた。

 「へへっ……ありがと」

 その笑顔を見て、乃愛と先輩が嫉妬の炎を燃やしたのは言うまでもない。

 「ご主人様、私の評価は?」「私にはないんですか?」と詰め寄られ、俺は庭園の静寂を乱すことになった。


4.夜の男子部屋、秘密の作戦会議


 夜。旅館の大広間での夕食を終え、男子部屋に戻った。

 田中は早々に爆睡している。

 俺は布団に入り、天井を見上げていた。

 修学旅行も折り返し地点だ。明日は大阪への移動日。


 その時、部屋の襖が「コンコン」と小さくノックされた。

 こんな時間に誰だ? 先生か?

 俺がそっと襖を開けると、そこにいたのは浴衣姿の里奈だった。


「……順。起きてた?」

「里奈!? 先生に見つかったら殺されるぞ!」

「大丈夫、見張り(乃愛)がいるから」

 廊下の角で乃愛が腕組みをして仁王立ちしているのが見えた。

 共犯かよ!


 里奈が部屋に入ってくる。

 彼女は正座して、真剣な顔で俺を見た。


「順。……明日のUSJユニバーサル・スタジオ・ジャパン、自由行動だよね?」

「ああ」

「私と……二人きりで回ってくれない?」

「えっ」

「乃愛とも話したの。明日は『デート権』を懸けた勝負をしようって」


 里奈が続ける。

「午前中は乃愛とデート。午後は私とデート。……そして、最後に順がどっちが楽しかったか選ぶの。どう?」


 勝手なルールを決めるな。

 だが、彼女の目は真剣だった。

 断れば、もっと面倒なことになりそうだ。


「……わかった。付き合うよ」

「やった! 約束だよ!」


 里奈が俺に抱きつき、頬にキスをした。

 「おやすみ、順♥」

 彼女は風のように去っていった。


 残された俺は、頬の感触に呆然としていた。

 乃愛とのデート。里奈とのデート。

 そして、まだ見ぬ大阪での波乱。

 修学旅行の夜は、まだ終わらない。俺の心臓は、明日への不安と少しの期待で早鐘を打っていた。

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