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第37章 落ち葉掃きと焼き芋、そして静かに忍び寄る「選択」の季節

1.放課後の銀杏並木とマフラーの共有


 体育祭の熱気が冷めやり、季節は急速に冬へと向かっていた。

 通学路の銀杏並木は鮮やかな黄金色に染まり、風が吹くたびにハラハラと葉を散らしている。

 俺、鷹井順は、マフラーに顔を埋めながら、少し肌寒い空気の中を歩いていた。


 今日から冬服への衣替えだ。

 ブレザーの感触が、少し懐かしく、そして身が引き締まる思いがする。

 ……はずなのだが。


「……順、寒くない?」

「ご主人様、私の体温で温めてさしあげますわ」


 俺の両腕には、相変わらず二人の美少女が密着していた。

 右に白樺乃愛。左に相沢里奈。

 二人とも冬服に身を包み、それぞれの個性(乃愛はカシミアの黒ストール、里奈はチェック柄のマフラー)を出した防寒対策をしている。

 だが、その対策の半分は「俺にくっつくこと」で賄われている気がする。


「お前ら、自分のマフラーがあるだろ。俺にくっつくな」

「えー、だって順の体温が一番温かいんだもん」

「エコですわ。人体発熱を利用した暖房システムです」


 屁理屈だ。

 だが、正直に言えば、俺も少しだけ温かいと感じていた。

 夏のようなベタつく暑さではなく、服越しに伝わるじんわりとした温もり。

 それが、妙に心地よかったりする。……いや、気を許してはいけない。これはアプリによる吊り橋効果の亜種だ。


 ふと、里奈が立ち止まった。

 彼女は自分のマフラーを外し、俺の首に巻き付けてきた。


「はい、これ貸してあげる。順のマフラー、薄手で寒そうだし」

「えっ、じゃあ里奈は?」

「私は平気! ……あ、でもやっぱり寒いかも」


 里奈はそう言って、俺の首に巻かれた自分のマフラーの端っこを掴み、自分の首にも巻いた。

 一つの長いマフラーで繋がれた、いわゆる「カップル巻き」だ。


「……これで二人とも温かいね」

 里奈が上目遣いで微笑む。頬が少し赤いのは、寒さのせいだけではないだろう。

 心臓がドクリと跳ねる。


「……あら、抜け駆け?」

 乃愛が目を細める。

 彼女は自分の黒い手袋を外し、俺の右手に強引にはめた。

 そして、自分の素手を俺のコートのポケットに突っ込み、中で俺の手(手袋越し)を握りしめた。


「手袋は貸してあげるわ。その代わり、私の手は貴方のポケットで温めさせてもらうわね」

「……自由すぎるだろ」


 左首には里奈のマフラー。右ポケットには乃愛の手。

 俺は拘束された囚人のような、しかしどこか満たされたような奇妙な感覚で、黄金色の並木道を歩いた。


2.落ち葉掃きボランティアと隠された手紙


 放課後。

 俺はまたしても田中先生に捕まり、「落ち葉掃きボランティア」に参加させられていた。

 中庭には銀杏の葉が絨毯のように敷き詰められている。

 これを片付けるのは骨が折れる作業だ。


「鷹井くん、手伝います」

 そこに現れたのは、鉄輪カンナ先輩だ。

 彼女はジャージ姿に竹箒を持ち、やる気満々だ。


「先輩、ありがとうございます。風紀委員の仕事じゃないのに」

「……鷹井くんが一人でやっていると聞いて、放っておけませんでしたから」


 先輩が箒を動かす。

 サッサッという規則正しい音が心地よい。

 二人で黙々と作業をしていると、落ち葉の山の中から、一枚の封筒が出てきた。

 少し汚れているが、まだ新しい。


「……これは?」

 先輩が拾い上げる。

 封筒には『鷹井順様へ』と書かれていた。

 またラブレターか? 里奈のやつか?


 しかし、差出人の名前がない。

 そして何より、封筒から漂う微かな香りが、里奈のものでも乃愛のものでもない、独特のハーブのような香りだった。


「……怪しいですね。風紀委員として検閲します」

「いや、俺宛なんですけど」

「爆発物かもしれません!」


 先輩が強引に封を開ける。

 中に入っていたのは、一枚のカードだった。


 『アプリの調子はどうですか?

  そろそろ「冬」が来ますね。

  雪解けの前に、貴方は誰を選ぶのでしょうか。

  それとも、全てを失うのでしょうか。

  ――A』


「……え?」

 先輩が首を傾げる。

「何ですかこれ? いたずら?」


 俺の背筋に冷たいものが走った。

 開発者Aからのメッセージだ。

 メールではなく、物理的な手紙で送ってきた?

 どうやって? いつ?

 俺の行動範囲を完全に把握しているということか?


 俺は慌ててカードを奪い取った。

「あ、ただの迷惑メールみたいなやつです! 気にしないでください!」

「……そうですか? でも、何か意味深な……」


 先輩は不審そうだったが、それ以上は追求しなかった。

 俺はカードをポケットにねじ込んだ。

 『全てを失う』。

 その言葉が、秋の冷たい風と共に俺の心に重くのしかかった。


3.焼き芋パーティーと不穏な予兆


 落ち葉掃きが終わる頃、乃愛と里奈がやってきた。

 彼女たちはスーパーの袋を提げている。


「順、お疲れ! ご褒美にサツマイモ持ってきたよ!」

「集めた落ち葉で焼き芋をしましょう。許可は取ってあります(お金で解決しました)」


 中庭の焚き火スペース(特別許可)で、焼き芋大会が始まった。

 パチパチと燃える落ち葉の音。

 甘く香ばしい匂い。


 四人で火を囲み、アルミホイルに包まれた芋が焼けるのを待つ。

 炎の揺らめきが、彼女たちの顔を赤く照らしている。


「……ねえ、もうすぐ12月だね」

 里奈が膝を抱えて呟く。

「そうね。期末テストに、クリスマスに、大晦日……イベントが目白押しだわ」

 乃愛が紅茶(ポット持参)を注ぎながら答える。

「……修学旅行もありますね。2年生にとっては最大の行事です」

 カンナ先輩(3年)が少し寂しそうに言う。


 修学旅行。

 そういえば、行き先は京都・大阪だったか。

 本来なら楽しみなイベントだが、今の俺には「巨大なトラブルの予感」しかしない。


 そして、クリスマス。

 恋人たちの聖なる夜。

 このハーレム状態で迎えるクリスマスが、平和に終わるわけがない。


 俺はポケットの中のカードを握りしめた。

 『誰を選ぶのか』。

 Aの言葉がリフレインする。

 俺はまだ、誰とも付き合うつもりはない。二次元だけを愛すると誓ったはずだ。

 だが、今の俺は、本当にそう言い切れるだろうか?


 里奈の明るい笑顔。

 乃愛の不器用な献身。

 カンナ先輩の純粋な想い。

 そして、妹・美咲の……。


「……焼けたよ、順!」

 里奈が熱々の焼き芋を割って差し出してきた。

 黄金色の湯気が立ち上る。


「はい、あーん!」

「……ありがとう」


 俺は一口食べた。

 甘い。

 秋の味覚は、どこか切なく、そして温かかった。


4.アプリの沈黙と新たな機能の影


 その夜。

 俺は自室で、Aからのカードを読み返していた。

 ふと、スマホを見ると、アプリのアイコンが静かに明滅していた。

 通知はない。

 だが、『アップデート準備中』というステータスバーが、ゆっくりと進んでいるのが見えた。


 『進捗率:30%』


 アップデートが完了した時、何が起きるのか。

 俺にはわからない。

 だが、これまでの「お助け機能」のような生温かいものではない気がする。


 窓の外では、木枯らしが吹き始めていた。

 冬が来る。

 俺たちの関係を凍らせる冬か、それとも温め合う冬か。


 俺は布団を頭まで被り、考えないようにして眠りについた。

 夢の中で、誰かが泣いているような気がした。

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