第36章 体育祭は愛のバトンタッチと二人三脚の地獄変
1.体育祭実行委員の憂鬱
里奈との和解(?)から数日後。
学校は体育祭ムード一色に染まっていた。
俺、鷹井順は、なぜか体育祭実行委員に任命されていた。理由は単純、「一番暇そうだから(クラスメイト談)」だ。
「はぁ……なんで俺がハチマキの仕分けなんか……」
放課後の生徒会室で、俺は大量の赤と白のハチマキを数えていた。
地味な作業だ。だが、ここならヒロインたちの喧騒から逃れられる。
そう思った矢先、ドアが開いた。
「失礼します。……鷹井くん、手伝いますよ」
鉄輪カンナ先輩だ。
彼女は実行委員長として、腕章をつけてビシッとしている。
だが、俺と二人きりになった瞬間、その表情が緩んだ。
「ふふっ、二人きりですね……密室……」
「先輩、顔が赤いです。仕事しましょう」
「はい。……でも、ハチマキっていいですよね。縛ったり、目隠ししたり……」
先輩がハチマキを手に取り、うっとりとしている。
妄想が暴走している。アプリのせいか、元々の素質か。
「鷹井くん、ちょっと試してもいいですか?」
「何をです?」
「二人三脚の練習です。……足を結んで、一体感を高めましょう」
先輩が強引に俺の足首にハチマキを結びつける。
机の下で密着する足。
先輩の体温が伝わってくる。
「いち、に、いち、に……きゃっ!」
先輩がわざとらしくバランスを崩し、俺に倒れ込んでくる。
抱き留める形になる。
先輩の柔らかい胸が押し付けられる。
「……あ、開いてますよ」
ドアの方から冷ややかな声がした。
白樺乃愛と相沢里奈が、ゴミを見るような目で立っていた。
「公私混同も甚だしいですわね、委員長」
「順! 私とも二人三脚してよ! むしろ二人羽織でもいいよ!」
結局、生徒会室は四つ巴の戦場と化した。
2.借り物競争は人間オークション
体育祭当日。
雲ひとつない快晴。
俺たち2年B組は赤組だ。
午前のハイライトは「借り物競争」。
くじ運の悪い俺は、選手に選ばれてしまっていた。
パンッ!
ピストル音が鳴り、俺はスタートした。
運動神経は皆無だが、借り物のお題次第では勝てるかもしれない。
俺はカードを拾い上げた。
『お題:大切な人』
……ベタすぎる! 少女漫画か!
だが、これはチャンスだ。
ここでヒロインの誰かを選べば、選ばれなかった他の二人が暴走して会場を破壊しかねない。
かといって男子を連れて行くのも味気ない。
俺が悩んでいると、観客席から声が飛んだ。
「順ー! 私を選んでー!」
里奈が手を振っている。
「ご主人様! 私こそが正解よ!」
乃愛が扇子を振っている。
「鷹井くん……公務として同行します!」
カンナ先輩が放送席からマイクで叫んでいる。
どうする。誰を選ぶ。
その時、アプリが震えた。
『アシスト機能:【クローン生成(AR)】』
『効果:一時的にユーザーの分身を作り出し、3人同時に連れて行く演出を可能にします』
『注意:あくまで見た目だけです』
これだ!
俺は機能を使い、3人の元へダッシュした。
傍から見れば、俺が高速移動して残像を生み出し、3人の手を取ったように見えたはずだ。
「「「えっ!?」」」
俺(本体)は里奈の手を、分身Aは乃愛の手を、分身Bは先輩の手を取った。
そして全員でゴールへ走る!
カオスだ! 4人で走る借り物競争なんて前代未聞だ!
「ゴール!」
審判の先生が困惑しながら旗を上げた。
「えー、鷹井。……判定は『ハーレム』により失格!」
ズコーッ!
失格になったが、3人は「順に選ばれた」という事実に満足げだった。
平和的解決……なのか?
3.応援合戦の悲劇
午後の応援合戦。
赤組の応援団長は、なんと乃愛だった。
彼女は黒い学ラン(長ラン)を羽織り、晒しを巻いた男装スタイルで現れた。
似合いすぎている。宝塚のトップスターみたいだ。
「フレー! フレー! ご・しゅ・じ・ん・さ・ま!」
応援の内容がおかしい!
赤組の応援じゃなくて、個人的な応援になっている。
乃愛の後ろで、チアガール姿の里奈とカンナ先輩(無理やり着せられた)が踊っている。
「L・O・V・E! ラブリー順くん!」
全校生徒の前で名前を連呼される羞恥プレイ。
俺は観客席の隅で小さくなっていたが、アプリが余計な演出を加えた。
『機能:【スポットライト(注目)】』
『効果:応援されている対象者に、天から光が降り注ぎます』
カッ!
太陽光がレンズで集められたように、俺だけにスポットライトが当たった。
眩しい! 熱い!
「おお! 鷹井が輝いている!」
「神々しい……!」
勘違いした生徒たちが拍手喝采を送る。
俺は光の中で蒸発しそうになりながら、早く終われと祈り続けた。
4.クラス対抗リレーとアプリの暴走
そして最後の種目、クラス対抗リレー。
俺はアンカーを任されていた(人数合わせで)。
バトンを受け取った時点で、2年B組は最下位だった。
トップとの差は半周以上。絶望的だ。
「順! 諦めないで!」
里奈の声援。
「ご主人様ならできますわ!」
乃愛の檄。
「鷹井くん、走って!」
先輩の祈り。
彼女たちの声援を受けて、少しやる気が出た。
俺は走り出した。
しかし、足が遅い。どんどん差が開いていく。
その時、アプリが反応した。
『緊急ミッション:逆転勝利せよ』
『報酬:ヒロインたちからの「ご褒美キス」』
『サポート機能:【ブースト・ダッシュ(ロケットエンジン)】』
『効果:背中から圧縮空気を噴射し、爆発的な加速を与えます』
ご褒美はいらないが、負けるのも悔しい。
俺は「イエス」を選択した。
シュゴォォォォォ!!
背中のリュック(いつの間にか装備されていた)から、白い煙と共にジェット噴射が始まった。
体が浮く! 足が回転についていかない!
俺は地面スレスレを低空飛行しながら、前の走者たちをごぼう抜きにした。
「うわあああ! 速すぎる!」
「あれは反則だろ!?」
「いや、あれは『気合い』の具現化だ!」
実況が錯乱している。
俺はゴールテープを切った。
そのまま勢い余って、ゴール地点にいた校長先生(カツラ着用)に突っ込んでしまった。
ドカーン!
砂煙が舞う。
静寂。
煙が晴れると、俺の手にはバトンの代わりに、校長先生のカツラが握られていた。
「……あ」
体育祭は、俺の土下座と、2年B組の優勝(反則スレスレ)で幕を閉じた。
ヒロインたちからは「かっこよかったよ!(最後以外は)」と慰められたが、ご褒美キスは校長先生の怒りによって無効化された。
夕暮れのグラウンド。
俺はボロボロになりながらも、少しだけ達成感を感じていた。
アプリの力とはいえ、全力で駆け抜けた青春の1ページ。
……まあ、カツラの感触は一生忘れないだろうが。




