表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/51

第34章 カラオケボックスは愛の叫びと音痴の地獄

1.逃げ場のない放課後と強制連行


 放課後の教室。

 俺、鷹井順は、帰りのホームルームが終わるや否や、忍者さながらの身のこなしで裏門へ向かおうとした。

 今日のミッションは「誰にも見つからずに帰宅し、限定配信のアニメを一気見する」ことだ。


 しかし、俺の逃走ルートにはすでに先客がいた。

 昇降口の柱の陰に隠れている相沢里奈。

 校門の前で優雅に紅茶を飲んでいる白樺乃愛。

 そして、なぜか裏門の鍵をチェックしている鉄輪カンナ先輩。


 完全に包囲されている。

 『鷹井順捕獲網』は日に日に精度を上げているようだ。


「……諦めるしかないか」


 俺が観念して姿を現すと、三人が同時に駆け寄ってきた。


「順! 今日こそカラオケ行くよ!」

「ご主人様、喉の調子はいかが? 私のためにセレナーデを歌ってくださいまし」

「鷹井くん……たまには息抜きも必要です。監視(同伴)します」


 結局、俺は三人に両腕と背中を押され、駅前のカラオケ店『歌広場』へと連行された。

 受付で「4名様、フリータイムで」と里奈が慣れた手つきで注文する。

 俺の財布の中身(小遣い)が心配だ。


2.密室のリサイタルと選曲バトル


 通された部屋は、四人で入るには少し狭い個室だった。

 ソファに座ると、自然と俺の両隣に里奈と乃愛が座り、カンナ先輩が対面の椅子に陣取った。

 密着度が高い。


「じゃあ、私がトップバッターね!」


 里奈がデンモクを操作し、曲を入れる。

 イントロが流れる。アップテンポなアニソンだ。

 『恋する乙女の暴走列車』。タイトルからして不穏だ。


「♪順のこと~! 好きすぎて~! GPSつけちゃった~!」


 替え歌だ!

 しかも歌詞がリアルすぎて笑えない!

 里奈はタンバリンを叩きながらノリノリで歌い上げ、サビの部分で俺にマイクを向けてくる。


「はい順! ここで愛のレスポンス!」

「無理だ!」


 次は乃愛の番だ。

 彼女が選んだのは、重厚なオペラ曲。『魔王』。

 ドイツ語か?


「……ご主人様、聴いてください。これは『愛の狩人』の歌ですわ」


 乃愛が朗々と歌い始める。

 上手い。無駄に上手い。プロ級の声量だ。

 だが、その眼力が怖い。俺を見据えながら、低い声で「お前を捕まえる……逃さない……」と歌っている(ような気がする)。

 部屋の照明が暗くなり、彼女の背後に黒い翼が見える幻覚まで見えた。


 最後にカンナ先輩。

 彼女は恥ずかしそうにマイクを握り、昭和歌謡を入れた。

 『セーラー服と機関銃』。


「♪か・い・か・ん……」


 先輩が恍惚の表情で歌う。

 普段の堅物キャラはどこへ行った。

 歌声は可愛らしいのだが、時折チラッと俺を見ては頬を染める仕草が、完全に「恋する乙女ムッツリ」だ。


3.アプリ機能『オート・チューン(強制美声)』


 三人が歌い終わり、ついに俺の番が回ってきた。


「さあ順! 歌って!」

「ご主人様の美声を独占したいですわ」

「鷹井くんの歌……録音の準備はできています」


 逃げ場はない。

 だが、俺には致命的な欠点があった。

 音痴なのだ。

 音程が来ない。リズムがズレる。ジャイアンリサイタルレベルだ。

 ここで歌えば、彼女たちの幻想をぶち壊せるかもしれない……!

 いや、逆に「下手なのも可愛い」とか言われそうで怖い。


 俺は震える手でマイクを握った。

 その時、スマホが震えた。


『環境検知:カラオケボックス』

『アシスト機能:【オート・チューン(絶対美声モード)】』

『効果:喉の振動を強制的に補正し、プロ歌手並みの美声と完璧なピッチに変換します』

『副作用:歌詞が勝手に「愛の言葉」にアレンジされます』


 ……え?

 副作用がヤバそうだが、音痴を晒すよりはマシか?

 俺は機能をONにし、無難なバラード曲を入れた。


 イントロが流れる。俺は口を開いた。


「♪(本来の歌詞:雨上がりの空に~)」

 ↓

「♪(変換後:君たちの愛に溺れて~)」


 !?

 勝手に歌詞が変わった! しかも声がイケボすぎる!

 俺の地声じゃない。人気声優みたいな甘い声だ。


「♪(本来:虹がかかるよ~)」

 ↓

「♪(変換後:ハーレムを作るよ~)」


 最低だ!

 俺は歌うのを止めようとしたが、喉が勝手に振動を続ける。アプリに乗っ取られた!


「♪(本来:明日へ向かって~)」

 ↓

「♪(変換後:今夜は寝かせない~)」


 俺が歌い終わると、室内は静まり返っていた。

 やらかした。ドン引きされたか?

 恐る恐る顔を上げると、三人は顔を真っ赤にして震えていた。


「……順……かっこよすぎ……」

「ご主人様……そんなに情熱的だったなんて……濡れましたわ(瞳が)」

「鷹井くん……責任、取ってくださいね……?」


 逆効果だった!

 俺の評価が「隠れ歌うまイケメン(肉食系)」に爆上がりしてしまった!


4.デュエットという名の戦争


 その後は地獄だった。

 「デュエットしよう!」という提案により、俺は三人全員とラブソングを歌わされることになった。


 里奈とは『愛が生まれた日』。

 彼女は俺の腰に手を回し、チークダンスのように密着してくる。

 乃愛とは『オペラ座の怪人』。

 彼女はファントム役(俺)を支配するクリスティーヌのように、俺の顎を掴んで歌い上げる。

 カンナ先輩とは『3年目の浮気』。

 なぜか俺が「浮気男」役で、先輩が「本妻」役だ。先輩の「バカ言ってんじゃないわよ」のセリフに実感がこもりすぎていて怖い。


 さらに、アプリが『盛り上げ機能(ライブ演出)』を発動させ、室内にスモークを焚いたり、ミラーボールを高速回転させたりしてカオスに拍車をかけた。


 フリータイム終了の電話が鳴った時、俺は喉も精神も枯れ果てていた。

 店を出ると、外はもう真っ暗だった。


「楽しかったね、順!」

「ええ。ご主人様の新たな一面(音痴じゃなかった)を知れて満足ですわ」

「……録音データは家宝にします」


 三人は満足げだ。

 俺は空っぽになった財布と、嗄れた喉をさすりながら、トボトボと歩き出した。

 

 帰り道、コンビニでのど飴を買おうとしたら、里奈が「私が舐めてから口移しであげる!」と言い出し、乃愛が「ハチミツを直接流し込みますわ」と割り込み、カンナ先輩が「ネギを首に巻きましょう」と提案してくるという、新たな騒動が勃発した。


 俺の喉が癒える日は遠そうだ。

 スマホの画面には、『カラオケミッション達成:伝説のライブ』という文字が虚しく輝いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ