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第33章 ゴミ捨て場は、青春の墓場か愛の巣か

1.美化委員の代理と掃除ロッカーの罠


 放課後のホームルーム終了後。

 俺、鷹井順は、担任の田中先生に呼び止められた。


「鷹井。美化委員の佐藤が風邪で休んだんだ。代わりにゴミ捨てに行ってくれんか?」

「えっ、俺、帰宅部なんですけど……」

「頼むよ。内申点、プラスしとくから」


 その甘い言葉(内申点)に釣られ、俺は美化委員の腕章をつけさせられた。

 仕事は簡単。教室のゴミを集めて、校舎裏の焼却炉(今は分別収集所だが)へ持っていくだけだ。


 俺は両手に大きなゴミ袋を持ち、廊下を歩いていた。

 重い。雑誌やペットボトルが大量に入っている。2年B組のゴミ排出量は異常だ。


「……はぁ。早く終わらせて帰ろう」


 掃除用具入れの前を通りかかった時、中からガタゴトと物音がした。

 ネズミか?

 俺が近づくと、ロッカーの扉が少し開き、中から白い手が伸びてきた。


「……順?」

「うわっ!?」


 中から現れたのは、ホコリまみれの相沢里奈だった。

 彼女は体操服姿で、なぜかモップを抱きしめている。


「里奈!? なんでロッカーの中に?」

「あ、えっと……かくれんぼ? 順を驚かせようと思って!」

「待ち伏せかよ!」


 里奈は「えへへ」と笑いながらロッカーから出てきた。

 その拍子に、彼女の体操服のズボンに引っかかっていたバケツがひっくり返った。

 バシャーン!

 中に入っていた雑巾がけの水が、俺の足元にぶちまけられた。


「あーっ! ごめん順! 濡れちゃった!?」

「冷たっ! 靴下が!」

「すぐ拭くね!」


 里奈が自分の体操服の裾で俺の足を拭こうとする。

 しゃがみ込む彼女の胸元が無防備だ。

 俺は慌てて視線を逸らした。


2.ゴミ捨て場での分別(愛の選別)作業


 里奈に手伝ってもらい(というより、ついてこられ)、俺たちは校舎裏のゴミ捨て場に到着した。

 そこには先客がいた。


「……遅いですね、鷹井くん」


 鉄輪カンナ先輩だ。

 彼女はジャージ姿に軍手をはめ、ゴミの分別作業を指揮していた。

 風紀委員長は美化活動にも熱心らしい。


「先輩、お疲れ様です。これ、燃えるゴミです」

「はい。……ちょっと待って。中身を確認します」


 先輩が俺の持ってきた袋を開ける。

 中から出てきたのは、丸められたテスト用紙や、お菓子の空き箱。

 そして――


「……これは何ですか?」


 先輩が摘み上げたのは、ピンク色の封筒だった。

 裏には『鷹井順くんへ』と書かれている。

 ラブレターだ! 誰かが俺の下駄箱か机に入れたやつを、俺が気づかずに捨ててしまったのか!?


「えっ、知りません! 俺は捨ててません!」

「……未開封ですね。中身を確認する必要があります」

「プライバシーの侵害ですよ!」


 先輩が封を開ける。

 中から出てきたのは――


 『順、大好きだよ♥ ずっと見てるからね♥ by 里奈』


「あ! 私のじゃん!」

 横から里奈が叫んだ。

「お前かよ! いつ入れたんだ!」

「一週間前かな? 返事がないからおかしいと思ってたんだよねー」


 ゴミ箱直行だったのか。

 先輩が冷ややかな目で里奈を見た。


「校内での不純な手紙のやり取りは慎みなさい。……没収します」

「えーっ! 返してよ!」

「証拠品として風紀委員会で保管(熟読)します」


 先輩が封筒を懐にしまった。

 絶対に後で読む気だ。


3.アプリ機能『リサイクル・コンバーター』


 ゴミ捨てが終わらない。

 先輩が一つ一つのゴミを検閲し、里奈が「これ順の飲みかけのペットボトル!? もらっていい?」と奇行に走るからだ。


 俺はスマホを取り出し、作業を効率化する機能を探した。

 『機能:【リサイクル・コンバーター(錬金術モード)】』

 『効果:ゴミをスキャンし、有益な資源やアイテムに変換します(ただし変換率はランダム)』


 これだ。ゴミをアイテムに変えれば、分別する手間も省けるし、先輩も文句はないはずだ。

 俺はアプリを起動し、ゴミの山に向けた。

 スキャン開始。


 ウィーン……ピロン♪

 『変換完了:【大量のバラの花束】』


 ボフンッ!

 目の前のゴミ袋が爆発し、中から真っ赤なバラの花束が大量に出現した。

 ゴミ捨て場が、一瞬にしてプロポーズ会場のような華やかさに包まれる。


「えっ!?」

「な、何これ……?」

「順……これ、私へのプレゼント?」


 里奈が目を輝かせる。

 カンナ先輩も頬を染めて口元を押さえる。


「鷹井くん……ゴミ捨て場に呼び出して、こんなサプライズなんて……ロマンチックすぎます……!」


 違う! ゴミが花になっただけだ!

 そこに、もう一人の人物が現れた。


「あら、素敵な香り」


 白樺乃愛だ。彼女はゴミ捨てとは無縁そうなドレス姿で、優雅に歩いてきた。


「ご主人様。……私への愛の告白場所として、ここを選んだのね?」

「違います! なんで白樺さんがここに?」

「愛のセンサーが反応したのよ。……さあ、その花束を受け取ってあげるわ」


 乃愛が手を差し出す。

 里奈が割り込む。

「私のために用意したんだもん! 私がもらう!」

 カンナ先輩も一歩前に出る。

「不法投棄された花束は、風紀委員が回収します!」


 ゴミ(元)を巡って争奪戦が始まった。

 バラの棘が痛い。

 花びらが舞い散る中、俺は三人のヒロインに囲まれ、ゴミ捨て場の中心で愛を叫ばされそうになった。


4.夕暮れの焼却炉と焼き芋


 騒動の後、俺たちは疲れ果てて焼却炉の前に座り込んでいた。

 結局、花束は三等分され、それぞれが大事そうに抱えている。

 元の姿がゴミだったとは口が裂けても言えない。


 日が暮れて、肌寒くなってきた。

 焼却炉の余熱が暖かい。


「……お腹空いたね」

 里奈が呟く。

「そうですね。労働の後はカロリーが必要です」

 先輩が頷く。


 乃愛が懐からアルミホイルに包まれたものを取り出した。

 「実は、差し入れを持ってきたのよ。……焼き芋ですわ」

 「おお! さすが白樺さん!」

 「ただし、ご主人様には特別に……『口移し』で食べさせてあげます」


 余計なオプションがついた。

 俺は丁重にお断りし、普通に手で受け取って食べた。

 熱々の焼き芋は、甘くてホクホクしていた。


「美味しいね、順」

「ええ。……ゴミ捨て場でのティータイムも、悪くありませんわ」

「不純ですが……今回だけは見逃しましょう」


 四人で並んで焼き芋を食べる。

 背景はゴミの山だが、不思議と居心地は悪くなかった。

 アプリの通知画面には、

 『ミッション達成:ゴミ拾い(ヒロイン回収)』

 『報酬:好感度アップ(不可避)』

 という文字が表示されていた。


 俺は最後の芋を飲み込み、ため息をついた。

 美化委員の代理は今日で終わりだが、彼女たちとの腐れ縁は、どうやらリサイクル不可能なくらい頑丈に結ばれてしまったようだ。

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