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第30章 休日のショッピングモールは私服品評会という名の公開処刑

1.秋服を求めて三千里(駅前イオン)


 10月の日曜日。

 俺、鷹井順は、駅前のショッピングモール『イオン・プラザ』に来ていた。

 目的は単純。季節の変わり目で着る服がなくなったため、秋服を調達することだ。

 いつもならユニクロで済ませるところだが、今日は少し冒険してセレクトショップを覗いてみようという気になっていた。

 それが間違いだったのかもしれない。


「うーん……どれがいいんだ?」


 メンズフロアで、俺はチェックのシャツと無地のパーカーを手に取って悩んでいた。

 ファッションセンスなど皆無の俺には、何が「正解」なのかわからない。

 店員さんに話しかけるのも怖い。


 その時。

 背後から、ふわりと香水の香りが漂ってきた。


「……そのチェックのシャツ、少し子供っぽくないかしら?」

「えっ?」


 振り返ると、そこにはサングラスをかけたセレブ風の美女が立っていた。

 つばの広い帽子に、トレンチコート。

 変装しているつもりだろうか? バレバレだ。


「白樺さん……?」

「あら、バレてしまったわね。……偶然よ、偶然」


 白樺乃愛がサングラスを少しずらしてウインクする。

 絶対につけてきただろ。GPSか?


「順ー! おっまたせー!」


 さらに、反対側から元気な声が飛んできた。

 相沢里奈だ。彼女はニットのワンピースにブーツという、秋のデートコーデ全開の格好だ。


「待ってない。呼んでない」

「またまたー! 順が服選べなくて困ってるっていうテレパシーを受信したから!」

「電波かよ!」


 そして、とどめの一人が現れる。


「……鷹井くん。奇遇ですね」


 鉄輪カンナ先輩だ。

 彼女はロングスカートに眼鏡、そして手にはなぜか『メンズファッション誌』を持っていた。予習済みか。


「風紀委員として、校外での服装の乱れもチェックする必要がありますので」

「休日まで仕事熱心ですね……」


 結局、三人に囲まれてしまった。

 俺の「一人ショッピング計画」は崩壊した。


2.アプリ機能『辛口ファッション・チェック』


 「順にはこれが似合うよ!」

 里奈が持ってきたのは、派手なロゴが入ったストリート系のパーカー。

 「いいえ、ご主人様にはもっとシックなものが……」

 乃愛が選んだのは、高級そうな黒のタートルネック。

 「清潔感が一番です」

 先輩が持ってきたのは、真っ白なワイシャツとスラックス。就活か。


 三者三様のコーディネートを押し付けられ、俺は試着室と売り場を往復する羽目になった。

 どれを着ても「似合う!」「かっこいい!」「結婚したい!」と絶賛される。

 彼女たちのフィルターがかかっているから参考にならない。


 俺はスマホを取り出し、客観的な意見を求めた。

 『機能:【辛口ファッション・チェック(AIスタイリスト)】』

 『効果:着ている服のセンスを100点満点で採点し、辛辣なコメントを添えます』


 これだ。AIなら忖度なしで評価してくれるはずだ。

 俺は試着室の鏡の前で、里奈が選んだストリート系コーデを自撮りした。

 ピロン♪


『採点:15点』

『コメント:似合ってないにも程がある。中学生のヤンキーか? その服を着て外を歩く勇気に乾杯。通報レベル』


 辛辣すぎる!

 次は乃愛の黒タートル。

 ピロン♪


『採点:30点』

『コメント:スティーブ・ジョブズのコスプレですか? 顔が平凡すぎて服に負けている。ただの怪しい手品師に見える』


 手品師!

 最後に先輩の白シャツ。

 ピロン♪


『採点:5点』

『コメント:休日のお父さん? いや、量産型サラリーマンの休日出勤? 哀愁が漂いすぎて涙が出る。直ちに着替えろ』


 全滅だ!

 俺は何を着てもダメなのか!?

 俺が膝から崩れ落ちていると、カーテンが開けられた。


「順? 遅いよー。開けるねー!」

「ちょ、待て!」


 里奈が顔を出し、俺の白シャツ姿(点数5点)を見て、目を輝かせた。


「キャー! 順、爽やか! 王子様みたい!」

「え?」

「ご主人様……その無防備な白シャツ、汚したくなりますわ……(ワインとかで)」

「鷹井くん……清潔感があって素敵です。ネクタイを締めてあげたい……(首輪代わりに)」


 AIの評価と真逆だ!

 彼女たちの目には、俺が何を着ても「SSRスーパースペシャルレア」に見えるらしい。

 恋は盲目とはよく言ったものだ。


3.ランジェリーショップの罠


 結局、俺は無難なカーディガンを買って(三人に選んでもらった)、店を出た。

 帰り際、乃愛が足を止めた。


「あら、素敵な下着屋さん」

 彼女が見ていたのは、セクシーなランジェリーショップだった。


「ご主人様。……私の下着も選んでくださる?」

「はあ!? 無理です!」

「順なら何色がいいと思う? ピンク? 黒? それとも……紐?」

 里奈が乗ってくる。

「鷹井くんの好みを把握しておくのも、風紀委員の務め……かもしれません」

 先輩まで顔を赤くしてショーウィンドウを見つめている。


 俺は全力で拒否したが、乃愛に「選ばないなら、この場で試着して見せてあげるわ」と脅され、店内に連れ込まれてしまった。

 男一人。周囲は女性客とブラジャーだらけ。

 地獄だ。視線のやり場がない。


 スマホが震える。

 『環境検知:下着売り場』

 『新機能:【透視スケスケモード・妄想Ver】』

 『効果:手に取った下着を、ヒロインたちが着用している姿(妄想)としてAR表示します』


 バカ野郎!

 俺が手に取った(取らされた)レースのブラジャーを見ると、スマホの画面越しに、それを着た乃愛の姿が浮かび上がった。

 リアルすぎる! 3Dモデルのクオリティが無駄に高い!


「どう? ご主人様」

 乃愛が耳元で囁く。

「……似合うと思います」

 俺は鼻血が出そうになるのを堪えて答えた。


「じゃあ、これにするわ。……今夜、着てあげるから楽しみにしていてね?」

 乃愛がレジへ向かう。

 里奈と先輩も、それぞれ俺が(適当に)選んだ下着を購入していた。

 俺のポイントカード(精神的な意味での)は満タンだ。


4.フードコートの争奪戦


 買い物を終え、フードコートで休憩することになった。

 俺はクレープを注文した。甘いものが食べたかったのだ。

 席に着くと、三人が俺のクレープを凝視している。


「順、一口ちょうだい?」

「ご主人様、毒味が必要ですわ」

「鷹井くん、糖分の摂りすぎは体に毒ですよ。私が半分引き受けます」


 デジャヴだ。コロッケの時(第26章)と同じだ。

 だが今回は違う。俺には対策がある。

 『機能:【マズバリア】』

 『効果:対象の食べ物を、他人には「激マズ」に見えるように幻覚を見せます』


 俺はアプリを起動した。

 すると、俺の手元のクレープが、彼女たちの目には「ドブ色のヘドロが乗った何か」に見え始めたはずだ。


「……うっ」

 里奈が口を押さえる。

「……ご主人様、それは……廃棄物?」

 乃愛が眉をひそめる。

「鷹井くん、そんなものを食べては……お腹を壊しますよ」


 成功だ! これで俺のクレープは守られた!

 俺は悠々とクレープを頬張った。美味い。


 しかし。

 乃愛が意を決したような顔をした。


「……いいえ。ご主人様が食べるなら、私も食べるわ。毒皿サラまで食らってこそ、真の従者よ!」

「えっ?」


 乃愛が俺の手を掴み、ヘドロ(に見える)クレープに齧り付いた。

 ガブッ。

 彼女は顔をしかめるかと思いきや、パァッと表情を輝かせた。


「……美味しい! 見た目は最悪なのに、味は天国だわ! これがギャップ萌え!?」

「私も食べるー!」

「私も!」


 結局、里奈と先輩も参戦し、俺のクレープは跡形もなく消え去った。

 愛の力は、視覚情報すら凌駕するらしい。


 俺は空になった包み紙を見つめながら、深いため息をついた。

 休日のショッピングモール。

 俺が得たものは、無難なカーディガンと、精神的疲労と、彼女たちの下着の知識だけだった。

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