第29章 部活勧誘は拉致と監禁のプロローグ
1.帰宅部の危機と放課後のハンターたち
風邪も治り、完全復帰した放課後。
俺、鷹井順は、教室から昇降口へ向かう最短ルートを脳内でシミュレーションしていた。
今日のミッションは「速やかな帰宅」だ。録画した深夜アニメの消化が溜まっている。
「鷹井くん、ちょっといいかな?」
担任の田中先生に呼び止められた。
嫌な予感がする。
「お前、まだ部活入ってないだろ? 2年からでも遅くないぞ。何か入らないか?」
「いえ、俺は『帰宅部』のエースとして全国を目指しているので……」
「そうか。まあ強制じゃないが、内申点にも響くぞ?」
先生との会話でタイムロスをしてしまった。
廊下に出ると、そこにはすでに「ハンター」たちが待ち構えていた。
「順! 待ってたよ!」
「ご主人様、お話がありますの」
「鷹井くん……少し時間をいただけますか?」
相沢里奈(軽音部幽霊部員)、白樺乃愛(茶道部部長)、鉄輪カンナ(風紀委員会委員長)だ。
三人はそれぞれ、勧誘のチラシ(という名の脅迫状)を手に持っている。
「順、軽音部に入らない? バンド組もうよ! 私がボーカルで、順は……タンバリン!」
「タンバリンかよ! 地味だな!」
「ご主人様、茶道部はいつでも歓迎しますわ。お抹茶を点てて差し上げます(私が口移しで)」
「不衛生です! 茶道を冒涜するな!」
「……風紀委員会に入りませんか? 毎日私と一緒に校内を見回って……不純異性交遊を取り締まりましょう(マッチポンプ)」
「俺が一番の不純物だろ!」
三者三様の勧誘。
俺は首を横に振った。
「悪いけど、俺は部活には入らない。自分の時間を大切にしたいんだ」
俺が歩き出そうとすると、乃愛が冷やりとした声で言った。
「あら、そう。……それなら、新しい部活を作るしかないわね」
「は?」
「『鷹井順観察部』よ」
また変なものを!
2.軽音部室での密室ライブ
「まずは体験入部からだよ!」
里奈に腕を引かれ、俺たちは軽音部の部室(防音室)に連行された。
中にはドラムセットやアンプが置かれている。
部員は里奈だけらしい(他の部員は里奈の圧に負けて帰ったとか)。
「順、これ持って!」
里奈が俺にエレキギターを持たせる。重い。
「私、順のためにラブソング作ったんだ! 聞いて!」
里奈がマイクを握り、アンプのボリュームを最大にした。
ジャカジャーン!!
爆音が響く。
「♪順~! 大好き~! 他の女は見ちゃダメ~! 私だけを見て~! 監禁したい~!」
歌詞がヤンデレだ! メロディはポップなのに歌詞が怖い!
しかも、狭い防音室の中で大音量。耳がおかしくなる。
その時、アプリが反応した。
『環境検知:大音量ライブ』
『オートスキル:【絶対音感】』
『効果:歌詞のヤバい部分を自動的に「甘い言葉」に変換して聞こえさせます』
アプリが起動すると、里奈の歌声が変わった。
「♪順~! 愛してる~! 未来を誓い合おう~! 結婚しよう~!」
……あ、ちょっとマシになった? いや、結婚は重いけど。
里奈は歌い終わると、汗だくで俺に抱きついてきた。
「どう? 私の想い、届いた?」
「うん、鼓膜に直接届いたよ……(物理的に)」
3.茶道部室でのお点前プレイ
次は茶道部だ。
和室に入ると、そこには静寂があった。お香のいい匂いがする。
乃愛が着物に着替えて待っていた。本格的だ。
「ようこそおいでくださいました。……お座りになって?」
乃愛が指定したのは、彼女の目の前の座布団……ではなく、彼女の膝の上だった。
「なんでそこなんだよ!」
「最高の上座ですわ。さあ、遠慮なさらず」
「座れるか!」
俺は普通の座布団に座った。
乃愛は不満げに茶筅を振り始めた。
シャカシャカシャカ……。
優雅な手つきだ。見とれてしまうほど美しい。
「どうぞ」
差し出された抹茶椀。
中身は……ピンク色だった。
「白樺さん、これ抹茶ですよね?」
「ええ。ストロベリーフレーバーの抹茶に、媚薬を少々……嘘ですわ、愛を込めましたの」
「成分が怪しい!」
俺が躊躇していると、アプリが起動した。
『アイテム解析:【謎のピンク茶】』
『成分:抹茶、食紅、練乳、そして「微量のアルコール」』
『警告:飲用すると理性が緩む恐れがあります』
酒が入ってるじゃないか! 未成年だぞ!
俺は丁重にお断りしようとしたが、乃愛が「飲まないなら、私が口移しで……」と迫ってきたため、一気飲みするしかなかった。
甘い。そして熱い。
俺の顔がカッと熱くなった。
4.風紀委員会室の尋問
最後は風紀委員会室だ。
殺風景な部屋に、長机とパイプ椅子。
カンナ先輩が眼鏡を光らせて座っている。
「鷹井くん。貴方には『複数の女子をたぶらかした罪』の疑いがあります」
「部活勧誘じゃなかったんですか!?」
「取り調べも業務の一環です。……さあ、そこに座りなさい」
俺は椅子に座らされた。
先輩が電気スタンドの光を俺の顔に当てる。刑事ドラマかよ。
「吐きなさい。……誰が一番好きなの?」
「えっ」
「相沢さん? 白樺さん? それとも……私?」
先輩が机に身を乗り出す。
これは勧誘じゃない。尋問だ。しかも私情まみれの。
「お、俺は……二次元が好きです!」
「却下します。……三次元の選択肢から選びなさい」
先輩が竹刀で床をドンと叩く。
怖い。
その時、酔いが回ってきたのか(さっきのピンク茶のせいだ)、俺の視界がふらついた。
「うぅ……気持ち悪い……」
「えっ、鷹井くん!? どうしたの?」
先輩が慌てて駆け寄ってくる。
俺はそのまま先輩の胸に倒れ込んでしまった。
柔らかい感触。石鹸の香り。
「きゃっ! ……も、もう。甘えん坊なんだから……」
先輩が俺の頭を撫でる。
意識が遠のく中、アプリの通知音が聞こえた。
『状態異常:【泥酔(微量)】』
『ラッキーハプニング発生:【風紀委員長の膝枕】』
結局、俺は風紀委員会室で爆睡してしまったらしい。
目を覚ました時には、外は真っ暗で、俺の頭の下には先輩の太ももがあった。
そして、部屋の入り口には、般若の面を被った乃愛と里奈が仁王立ちしていた。
「……カンナ先輩? 随分と楽しそうですね」
「抜け駆けはずるいよー!」
その後、俺を中心とした「第二次部活戦争」が勃発したのは言うまでもない。
俺は帰宅部のままでいることを、より強く心に誓ったのだった。




