表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/28

第18章 避暑地の夜は更けて、恋のバーベキューは黒焦げの味

1.テニスコートの殺陣たて


 白樺家の別荘は、別荘というより「城」だった。

 広大な敷地、手入れされた庭園、そしてプライベートテニスコート。


「さあ、まずは軽く汗を流しましょうか」


 テニスウェアに着替えた乃愛が、ラケットを構えて微笑んだ。

 白いスコートから伸びる美脚が眩しい。

 対戦相手は俺だ。


「俺、テニスなんて体育でやったくらいだけど……」

「大丈夫よ。手加減してあげるわ(物理的に死なない程度に)」


 試合開始。

 乃愛のサーブ。

 パァンッ!!

 ボールが消えた。

 次の瞬間、俺の足元の地面が爆発したような音を立てて土煙が上がった。


「……え?」

「あら、アウトかしら? 調子が悪いわね」


 殺人サーブだ! 手加減って何!?

 俺は逃げ出そうとしたが、審判席に座る里奈がマイクで叫んだ。


「逃亡禁止! 順が負けたら罰ゲームとして『乃愛の言いなり』、勝ったら『里奈とキス』だよ!」

「どっちも地獄じゃねーか!」

「私が勝ったら『風紀委員長の特別指導』です!」


 ボールガールをしているカンナ先輩まで参戦してきた。


 俺はスマホを取り出した。

 このままでは物理的に破壊される。アプリの力を借りるしかない。

 『機能:スポーツモード(身体能力強化)』……そんなものはない。

 あるのはこれだ。


『新機能:【ボール・イリュージョン】』

『効果:打ったボールが分裂したり、消えたり、変化球になったりします(テニヌ仕様)』

『消費:10P/回』


 これなら勝てるかもしれない!

 俺はアプリを起動し、ラケットを構えた。


 乃愛の第二サーブ。

 俺は適当にラケットを振った。

 カキーン!

 打ち返したボールが、空中で3つに分裂した!


「なっ!?」

 乃愛が驚く。

 さらにボールは不規則に軌道を変え、乃愛の足元へ。

 ズボッ。

 乃愛のスカートの中にボールが飛び込んだ。


「きゃっ!?」

「入ったー! スコア15-0!」


 里奈が判定を下す。

 乃愛は顔を赤らめながら、スカートの中をまさぐっている。


「……ご主人様のボール……温かい……」

「やめろ! 変な意味に聞こえる!」


 その後、俺の魔球アプリによるイカサマと乃愛の殺人サーブの応酬が続き、最終的にテニスコートはクレーターだらけの戦場と化した。

 結果はドロー。

 俺たちはボロボロになりながら、次のステージ「バーベキュー」へと向かった。


2.食材争奪戦と闇鍋バーベキュー


 夕暮れ時のガーデンテラス。

 高級食材が並ぶテーブル。和牛、伊勢海老、アワビ。

 しかし、俺たちの前にあるのは、なぜか「謎の食材ボックス」だった。


「これより、闇鍋ならぬ闇BBQを開始します!」


 里奈が宣言した。

 どうやら、普通のBBQでは面白くないということで、くじ引きで食材を決めるルールになったらしい。


「まずは順から引いて!」


 俺は恐る恐るボックスに手を入れた。

 引いたのは――『ピーマン』。

 普通だ。よかった。


 次に乃愛。

 『マツタケ』。

 さすがご令嬢、引きが強い。


 次にカンナ先輩。

 『マシュマロ』。

 可愛い。デザート用か。


 最後に里奈。

 『激辛デスソース』。

 ……終わった。


「焼くよー! 順、あーんして!」


 里奈がピーマンにデスソースを塗りたくり、炭火で焼き始めた。

 刺激臭が漂う。これは化学兵器だ。


「いらん! 絶対に食わん!」

「好き嫌いはダメよ、ご主人様。……じゃあ、私のマツタケをあげるわ」


 乃愛がマツタケを焼いて差し出してくる。

 だが、そのマツタケの形状が……なんというか、非常に……立派だ。

 乃愛はそれを愛おしそうに見つめ、意味深な視線を俺に送ってくる。


「……立派ね。ご主人様の『アレ』と、どっちが大きいかしら?」

「比較するな!」

「あむっ」


 乃愛がマツタケの先端を少し齧った。

 エロい。食べ方がエロすぎる。

 カンナ先輩が顔を覆って指の隙間から見ている。


「ふ、不潔です! ……でも、勉強になります……!」


 結局、俺はマシュマロを焼いて食べることにした。

 しかし、アプリがまた余計なことをした。


『環境検知:火気』

『パッシブスキル:【炎の妖精ファイア・ブースト】発動』

『効果:貴方が近づくと、火力が3倍になります』


 ボォォォッ!!

 俺が近づいた瞬間、コンロの火柱が上がった。

 マシュマロが一瞬で炭化した。

 前髪がチリチリになった。


「熱っ!?」

「きゃあ! 順が燃えてる!」

「消化します!」


 カンナ先輩がバケツの水をぶっかけてきた。

 バシャーン!

 俺はずぶ濡れになり、炭になったマシュマロを握りしめて立ち尽くした。

 高級リゾートでのBBQのはずが、ただの被災現場だ。


3.肝試しリベンジと星空の告白(未遂)


 夜。

 食事を終え(結局カップ麺を食べた)、俺たちは満天の星空の下にいた。

 高原の夜風が心地よい。

 だが、乃愛の提案で「肝試しリベンジ」をすることになってしまった。


「近くに古い教会があるの。そこまで行って、鐘を鳴らして帰ってくること」

「またかよ……」


 今回はペアではなく、一人ずつ行くルールだ。

 俺が一番手。

 懐中電灯を持って、森の中の小道を歩く。

 怖いというより、またアプリが変なものを見せるんじゃないかと警戒していた。


 案の定、スマホが震える。

 『心霊フィルター』起動……は、今回はしなかった。

 代わりに、


『新機能:【雰囲気ムードメーカー】』

『効果:周囲の照明や音響を操作し、最高の告白シチュエーションを演出します』


 またこれか!

 教会の前に着くと、ボロボロの廃墟のはずが、アプリのAR補正で「幻想的なチャペル」に見えるようになった。

 鐘の音が鳴り響く。

 カラン、コロン……。


 そこに、後から来たはずの三人が、なぜか先回りして待っていた。

 しかも、ウェディングドレス(風の白いワンピースやシーツを巻いただけ)を着ている。


「順……待ってたよ」

「ご主人様、誓いのキスを」

「鷹井くん……私をもらって……」


 チャペルの前。星空。ウェディングドレス。

 逃げ場のない「結婚式イベント」が発生した。


「なんで先回りしてるんだよ!」

「愛の力(近道)よ」


 三人が俺に詰め寄る。

 俺はスマホを取り出し、『緊急回避』ボタンを探した。

 ない。ポイントが足りない。

 昼間のテニスとBBQで使いすぎた!


「……覚悟を決めて、順」

「誰を選ぶの?」


 究極の三択。

 俺がパニックになりかけたその時。


 ゴゴゴゴゴ……。

 地面が揺れた。

 地震? いや、違う。

 教会の扉が、ギギーッと音を立てて開いたのだ。


 中から現れたのは――本物の神父さん(幽霊)ではなく、

 巨大なクマだった。


「グルルルル……」


 野生のクマだ!

 本物のクマだ!

 アプリの演出じゃない!


「キャアアアアア!!」

「ク、クマあぁぁぁ!」


 ヒロインたちが悲鳴を上げて逃げ出す。

 俺も全力でダッシュした。

 結婚式どころじゃない。サバイバルだ。


「死ぬー! 食われるー!」

「ご主人様、私を盾にしてー!」

「いやだ! 一緒に逃げるんだ!」


 俺たちは手を取り合い、夜の森を駆け抜けた。

 吊り橋効果なんてレベルじゃない。生存本能の共有だ。


 別荘に逃げ込み、鍵をかけた時、俺たちは全員汗だくで、笑い合っていた。


「……ははっ、死ぬかと思った」

「もう……順ってば、刺激的すぎるよ」

「こんなデート、初めてです……」


 恐怖の共有は、皮肉にも俺たちの結束を強めてしまったようだ。

 俺はスマホを見た。


『イベント:【野獣との遭遇】クリア』

『報酬:ヒロインたちの絆(結束力)がアップしました』

『ポイント:500P獲得』


 結束力アップとかいらないから!

 俺は床に倒れ込み、天井を見上げた。

 避暑地の夜は、熱く、そして命がけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ