第15章 プールサイドは水着という名の布面積との戦い
1.灼熱のプールサイドと監視員の憂鬱
夏休み初日。
気温35度を超える猛暑日。アスファルトの上では目玉焼きが焼けるんじゃないかという熱気の中、俺、鷹井順は学校のプールサイドに立っていた。
なぜここにいるのか。
それは、アプリの『ポイント稼ぎミッション』のためだ。
『夏休み特別ミッション:プールの監視員バイトを完遂せよ』
『報酬:1000P(これでバリアの強化や新アイテムが買えます)』
1000Pという破格の報酬に釣られたのだ。
仕事内容は簡単。夏休みのプール開放に来た生徒たちの安全を見守るだけ。
俺は高い監視台の上に座り、麦わら帽子を目深に被って「仕事してます感」を出していた。
「ふふっ……いい眺め」
「順くーん! 見て見てー!」
「……監視員さん、溺れたら助けてくれますか?」
……まあ、来るよな。
俺がいるところに、彼女たちがいないわけがない。
プールサイドには、三人の水着美女が降臨していた。
白樺乃愛は、大胆なカットの白いビキニ。銀髪と白肌が太陽光を反射して眩しすぎる。まさに「氷姫」。
相沢里奈は、元気いっぱいなトロピカル柄のビキニ。健康的なスタイルが強調されている。
そして鉄輪カンナ先輩は、競泳用の紺色スクール水着。だが、そのタイトな質感が逆にボディラインをエロティックに際立たせている。
男子生徒たちの視線が釘付けだ。
俺への殺意もセットで飛んでくる。
「おい鷹井! 監視員ならちゃんと監視しろよ! 特にあそこの美少女たちを!」
「いや、俺は全体の安全を……」
「ご主人様、私の『安全』もチェックして? ほら、紐が緩んでないかしら?」
乃愛が監視台の下まで来て、ビキニの紐を指差して挑発してくる。
やめろ! ほどくな! 公共の場でポロリしたら俺の責任問題だ!
2.アプリの新機能『スプラッシュ・ブースト』
俺は必死に視線を逸らそうとしたが、スマホがブルッと震えた。
『環境検知:水辺』
『サマーイベント機能解放:【スプラッシュ・ブースト(水鉄砲強化)】』
『効果:手持ちの水鉄砲の威力を「高圧洗浄機」並みに引き上げ、さらに着弾した相手の衣服を「透けやすく」します』
……ろくな機能がないな、このアプリ!
誰が使うかそんなもん!
俺は無視しようとしたが、運命は残酷だった。
「順、勝負しよ! 水鉄砲バトル!」
里奈が巨大な水鉄砲(バズーカ型)を持って監視台に登ってきた。
彼女は容赦なく俺に向けて発射した。
ビシャーッ!
冷たい水が顔にかかる。
「おい! 監視員への攻撃は禁止だ!」
「えー、いいじゃん! 順も撃ち返してよ!」
里奈が俺の足元に落ちていた「子供用のかわいいイルカの水鉄砲」を拾い、俺に渡してきた。
俺は反射的に受け取ってしまった。
「撃たないぞ。俺は大人だ」
「撃ってよー! 撃って撃ってー!」
里奈が水着を揺らして迫ってくる。
その時、俺の指が誤ってイルカのトリガーを引いてしまった。
アプリの機能がONになったままの状態で。
ズドンッ!!!!
イルカの口から、レーザービームのような極太の水流が噴射された。
その威力は凄まじく、里奈を吹き飛ばし、そのままプールへ叩き落とした。
ザッバーーン!!
盛大な水しぶきが上がる。
「り、里奈!?」
「ぷはっ! ……す、すごぉい……」
水面に浮かび上がった里奈は、目を輝かせていた。
そして――彼女の水着が、アプリの効果で「透け透けモード」になっていた。
「キャー! 透けてる!?」
「うおおおお! 神よ!」
男子生徒たちが歓喜の雄叫びを上げる。
俺は慌ててホイッスルを吹いた。
「全員目を閉じろ! 見るな! 退水!」
3.スク水先輩のガチ泳ぎと溺れる氷姫
騒ぎが一段落した後、鉄輪先輩がプールサイドに上がってきた。
彼女は透け効果を受けていない(競泳水着の防御力が高いからか?)。
「ふぅ。やっぱりプールは泳ぐためのものね。……鷹井くん、タイムを計ってくれる?」
「あ、はい」
先輩はストイックにクロールの練習を始めた。
美しいフォームだ。
だが、ターンをするたびに、なぜか俺の方を見てウインクをしてくる。
「見ててくれた?」「褒めて?」という心の声が聞こえるようだ。
集中しろよ。
その横で、乃愛がビート板を持って漂っていた。
「……ご主人様、私、泳げないの」
「えっ、カナヅチ?」
「ええ。だから手取り足取り教えてくださる?」
乃愛が流し目で訴えかけてくる。
しかし、その優雅な浮き輪姿の裏で、彼女はこっそりと足をバタつかせ、わざと深いエリアへ向かっていた。
「あっ、足がつかない……! 溺れる……!」
明らかに演技だ。棒読みだ。
だが、監視員として無視はできない。
俺はため息をつきつつ、監視台を降りようとした。
その瞬間。
俺の足が滑った。
さっきの水鉄砲バトルのせいで、床が濡れていたのだ。
「うわっ!?」
俺は空中で体勢を崩し、そのままプールへダイブした。
ドボーン!
乃愛のすぐ近くに着水する。
「きゃっ! ご主人様、助けに来てくれたのね!」
「違う! 落ちたんだ!」
乃愛が俺にしがみつく。
水中で密着する白い肌。浮力でさらに柔らかく感じる感触。
さらに、水音を聞きつけた里奈とカンナ先輩も寄ってくる。
「順! 大丈夫!?」
「溺れてるの!? 人工呼吸しなきゃ!」
三人が俺を取り囲む。
俺は泳げる。だが、三人に拘束されて身動きが取れない。これぞ本当の「溺れる」だ。
「離せ! 沈む! ブクブク……」
「じっとしてて! 今マウス・トゥ・マウスを……!」
「泥棒猫! ファーストキスは私よ!」
「風紀委員長として救命処置を優先します! 唇を奪います!」
水中で始まるキスの奪い合い。
俺は酸欠で意識が遠のきかけた。
このままでは、夏の思い出が「プールでの溺死未遂(ハーレム心中)」になってしまう。
4.最強の救世主、再び
その時。
ザブンッ!
何者かがプールに飛び込んできた。
凄いスピードで俺たちに接近し、三人を鮮やかに引き剥がした。
「確保! 救助対象を回収します!」
スクール水着の上に、なぜかラッシュガードとゴーグルを完全装備した美咲だ。
またお前か! なんでここにいるんだ!
美咲は俺の首根っこを掴み、プロのライフセーバー顔負けの泳ぎでプールサイドまで運んでくれた。
「ゲホッ、ゲホッ……助かった……」
「兄官殿、不覚を取りましたね。水辺は敵の独壇場です」
美咲が俺の背中をさする。
プールの中では、ヒロインたちが「ちっ、またあの妹か」「邪魔しないでよ!」と悔しがっている。
俺は空を見上げた。
太陽はまだ高く、セミの声がうるさい。
監視員のバイトはクビになるかもしれないが、命拾いはした。
スマホを見る。
『ミッション:監視員バイト(途中リタイア)』
『報酬:50P(参加賞)』
『おまけ:水着画像フォルダ(自動撮影)を入手しました』
いらねえよ! 消去だ消去!
……いや、ちょっとだけ画質を確認してから消そうかな。
俺のそんな煩悩を見透かしたように、美咲がジト目でこちらを見ていた。
「兄官殿。そのフォルダ、後で検閲しますからね」
「……はい」
夏休みはまだ始まったばかり。
次なるイベントは「夏祭り」か、それとも「避暑地合宿」か。
どちらにせよ、俺の平穏は水底より深く沈んでしまったようだ。




