表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/28

第13章 相合傘は濡れた制服と透明化の罠

1.梅雨前線とアンラッキーボーイ


 中間テストの悪夢から数日後。季節は梅雨に突入していた。

 朝から降り続く雨が、アスファルトを黒く濡らしている。


 俺、鷹井順は、昇降口で立ち尽くしていた。

 傘がない。

 天気予報では「晴れ」だったはずだ。あのポンコツアプリの天気予報(第9章参照)を信じた俺が馬鹿だった。


「……詰んだ。走って帰るか?」


 しかし、外は土砂降りだ。濡れ鼠確定だ。

 ため息をついていると、背後から足音が近づいてきた。


「あら、ご主人様。雨宿り?」

「順くん、傘ないの?」


 白樺乃愛と相沢里奈だ。

 二人はそれぞれ、可愛らしい傘を手に持っている。乃愛は高級そうなフリルのついた白い傘、里奈はポップな水玉模様の傘だ。


「入れてってあげようか?」

「私の傘にお入りなさい。光栄に思いなさい?」


 これは……いわゆる「相合傘イベント」の発生だ。

 ラブコメならご褒美だが、俺にとっては地雷原だ。

 どちらかを選べば、選ばれなかった方が闇落ち(ヤンデレ化)して修羅場になる。両方断れば、ずぶ濡れになって風邪を引く。


 俺は思考を巡らせた。

 そうだ、アプリだ。傘を召喚する機能とかないか?

 俺はこっそりスマホを操作した。


『ショップ:【ステルス・レインコート(透明傘モード)】……50P』

『効果:雨を弾く見えない力場を展開します。手ぶらで雨の中を歩けます』


 安い! これだ!

 俺は即座に購入し、起動した。


「悪いな二人とも。俺には『心の傘』があるから」


 俺はドヤ顔で、傘も差さずに土砂降りの外へ一歩踏み出した。

 二人が「えっ!?」と驚く中、俺の体は濡れない――はずだった。


2.透明化の副作用:透けるのは雨だけじゃない


 ザアアアア!

 雨音が俺を包む。だが、俺の体は濡れていない。

 見えないドーム状のバリアが雨を弾いているのだ。

 完璧だ。これなら濡れずに、しかも誰ともフラグを立てずに帰れる。


「ふふん、科学の勝利だ」


 俺は余裕の足取りで歩き始めた。

 背後で二人が呆然としているのがわかる。

 しかし、数メートル歩いたところで、すれ違った女子生徒が悲鳴を上げた。


「キャアアアッ!?」

「え、何?」


 彼女は俺を見て、顔を真っ赤にして目を逸らした。

 なんだ? 俺のイケメンオーラにやられたか?

 いや、違う。彼女の視線は、俺の顔ではなく、もっと下……体の方に向けられていた。


 嫌な予感がして、俺は自分の体を見下ろした。

 制服が……透けている。

 いや、正確には「レインコートの力場が、俺の衣服を『雨と同じ障害物』と認識して、透過処理をしている」のだ!


 つまり、今の俺は、周囲から見れば「制服が半透明になって、下着がうっすら見えている状態」なのだ!


「うわあああああ!?」


 俺は絶叫してしゃがみ込んだ。

 なんという羞恥プレイ! 全裸ではないが、シースルーだ! セクシーすぎる!


「順!? 何やってんの!?」

「ご主人様……まさか、露出狂のが……?」


 乃愛と里奈が駆け寄ってくる。

 二人の目には、雨に濡れていないのに、なぜかスケスケのシャツを着ている俺の姿が映っているはずだ。


「見ないでくれ! これは違うんだ! ファッションじゃない!」

「いい体してるじゃない……。鍛えてないけど、そこがまた……」

「やだ、順のパンツ、こないだ私が選んだクマさんパンツだ……ぷぷっ」


 見られてる! クマさんまで見られてる!

 俺はカバンで前を隠し、カニ歩きで逃げようとした。


3.三人相合傘の密室


 逃げ場はない。

 乃愛がため息をつき、俺の上に自分の傘を差し出した。


「まったく……世話が焼けるわね。ほら、入りなさい」

「ちょ、白樺さん! 順はずぶ濡れ(に見える)なんだから、私のタオル使いなよ!」


 里奈も反対側から傘を差しかけ、さらにタオルで俺の体を拭き始めた。

 二つの傘が頭上で重なり、即席のテントができる。

 その中で、俺は二人の美少女に密着された。


 右には乃愛。香水のいい香り。

 左には里奈。シャンプーの甘い香り。

 そして真ん中に、スケスケの俺。


「……ねえ、順。寒くない?」

「体温で温めてあげるわ。……密着すれば、濡れないでしょ?」


 二人の体が、左右からギュッと押し付けられる。

 柔らかい感触。

 雨音だけの閉鎖空間。

 これはまずい。アプリのせいで「透けている」俺に対し、二人の母性本能(と劣情)が刺激されている。


 乃愛の手が、俺のシャツのボタン(透けている)に触れる。


「ねえ、ご主人様。この際だから、全部脱いじゃえば? 家まで私が送ってあげるから」

「そうだよ順! 私の家なら近いし、シャワー貸してあげる!」


 連れ込み確定フラグだ。

 俺は必死に首を振った。


「だ、大丈夫だ! 俺は自力で帰る!」

「ダメよ。風邪引いたらどうするの(私が看病できないじゃない)。責任持って管理してあげるわ」


 乃愛の瞳がハイライトを失っていく。

 ヤンデレモード起動。


 その時。

 バシャーン!

 一台の車が横を通り過ぎ、巨大な水しぶきを上げた。


「きゃっ!」

「つめたっ!」


 三人まとめて、泥水を頭から被った。

 乃愛の白い制服も、里奈のカーディガンも、泥だらけでびしょ濡れだ。

 俺の「ステルス・レインコート」も、泥水という「不純物」には対応できず、普通に濡れた。


「……最悪」

「……終わった」


 美少女二人の髪から、泥水が滴り落ちる。

 さっきまでのロマンチック(?)な雰囲気は霧散し、ただの「泥んこコント集団」と化した。


4.コインランドリーの悲劇


 仕方なく、俺たちは近くのコインランドリーに避難した。

 乾燥機を回す間、ベンチに並んで座る。

 濡れた制服を乾かすため、俺たちは体操服(里奈のカバンに入っていた予備と、乃愛が「たまたま」持っていた順サイズのジャージ)に着替えていた。


 ガコン、ガコン、と乾燥機の音が響く。

 気まずい沈黙。


「……ごめんな、二人とも。俺のせいで」


 俺が謝ると、乃愛がふっと笑った。


「いいのよ。……ご主人様と同じ汚れにまみれるのも、悪くないわ」

「そうそう! 泥だらけの順もワイルドでよかったよ?」


 こいつら、ポジティブすぎる。

 あるいは、脳内フィルターが強力すぎるのか。


 その時、スマホが震えた。

 アプリからの通知だ。


『イベント:【吊り橋効果・ウェット】達成』

『報酬:ポイント100P』

『おまけ機能:乾燥機の中身を「透視」できます』


 いらねえよ!

 誰が回転する洗濯物を見たいんだ!

 俺がツッコミを入れる間もなく、乾燥機がピーッと終了音を鳴らした。


 ふかふかに乾いた制服を取り出す。

 しかし、ここで最後のトラブルが発生した。

 乃愛と里奈の制服が……縮んでいた。


「あれ? スカート短くない?」

「ブラウスのボタンが……弾けそう……」


 乾燥機の熱が強すぎたのか、高級素材がデリケートだったのか。

 二人が着替えて出てくると、そこには「ピチピチの制服を着たエロい女子高生」が二人爆誕していた。


「……順、どう? 変じゃない?」

「ご主人様……あまりジロジロ見ないで。興奮しちゃうから」


 俺は天を仰いだ。

 雨は上がっていたが、俺の心には別の嵐が吹き荒れていた。

 この格好で二人を連れて歩けば、俺はまた「変態王」の称号を更新することになるだろう。


 帰り道、夕日が水たまりに反射してキラキラと輝いていた。

 俺の両腕には、ピチピチ制服の美少女二人がしっかりと絡みついていた。

 

「明日も雨だといいな」

「そうね。また濡れましょう?」


 俺は心の中で絶叫した。

 梅雨明けはまだ遠い。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ