表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GRSI-03 歓楽惑星の闇取引  作者: やた


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/23

08.舞台の裏で

 コスモ・ボールルームは、アダム・クロスが姿を現したことで、さらに熱気を帯びていた。カケルとミリアムは、その華やかな喧騒の中で、コレクターとその秘書たちの動きを追っていた。


「ねぇ、カケル、あの人、ずっと誰かと視線で合図してるみたい」


 ミリアムが囁いた。彼女は、星空のようなドレスをまとった姿で、シャンパンを片手に、まるで初めてのパーティに戸惑うかのようにカケルの腕にそっとしがみつく。その仕草は、まさに初々しいカップルそのものだ。しかし、彼女の視線は、アダム・クロスの一団と、時折意味ありげな視線を交わす特定の人物に釘付けになっていた。


 カケルは、ミリアムの言葉に頷きながら、さりげなくその人物を視界に収める。ドレスコードを完璧に着こなした、しかしどこか堅苦しい雰囲気の男。彼もまた、アダム・クロスの一団と、時折意味ありげな視線を交わしているように見えた。


「ノア、聞こえるか?」


 カケルは、耳元の極小のインカムに、ほとんど無意識に聞こえるほどの声で話しかけた。


「クリアに聞こえる。何か動きがあったか?」


 隠れ家でモニターを見つめるノアの声が、クリアに返ってきた。


「ああ。ミリアムが特定の人物の動きを察知した。コレクターの一団と頻繁に視線を交わしている。彼の服装や振る舞いから見て、彼も取引に関わっている可能性が高い」


「了解。その男の顔、今解析する。エミリー、イヴァン、そちらの状況は?」


 ノアは、カケルからの情報を瞬時に処理しながら、他のメンバーに呼びかけた。


 エミリーは、パーティ会場に隣接する「エトワール」のバックヤードで、皿を磨く手を止めずにインカムに答えた。


「会場への食材搬入リストと、撤収ルートのセキュリティを再確認したわ。不審な点はいくつかあるけれど、明確な麻薬の持ち込みは見当たらない。ただ、パーティ会場の警備体制が、通常よりも少しばかり緩いように感じるわ」


「緩い、だと?それは妙だな」


 ノアが訝しげに呟いた。


「ええ。要人警護というよりは、形式的なものね。裏を返せば、内部の人間が関わっているか、あるいは別のルートを使っている可能性が高い。引き続き、警備員の配置と不審な動きを監視するわ」


 一方、駅の地下貨物エリアは、パーティが始まったことで、むしろ静けさを増していた。多くのスタッフはパーティ会場への搬入作業を終え、休憩に入っているか、別の持ち場へと移動している。イヴァンは、その閑散とした空間で、駅の倉庫スタッフとして、監視を続けていた。彼のくたびれた作業着は、照明の少ない地下通路に溶け込んでいる。


「こっちもだ。物量は減ったが、その分、不自然な動きが目立つようになってる。さっきから、普段は使われねぇ裏の搬出口から、中身が空のコンテナが頻繁に運び出されてやがる。しかも、そのうちのいくつかは、昨日ノアが言ってた偽装タグつきのやつだった」


 イヴァンの報告に、ノアの声が、少し険しくなった。


「空のコンテナが、裏の搬出口から?パーティ中に動き出すとはな……」


「ああ。まるで、運び出すための準備でもしてるみてぇだ。もしや、パーティ中に麻薬を運び込んで、それに紛れさせて持ち出すつもりか、あるいは、すでにどこかに運び込まれているものを、パーティ後に回収する準備かもしれない。人手がない今だからこそ、動きやすいって魂胆か」


 イヴァンは、身を隠しながら、誰もいないはずの通路の奥を凝視する。彼の視線は、貨物を運ぶ小型ロボットの動きや、換気扇の音に紛れるわずかな異常を捉えようとしていた。


 ノアは、集まる情報と、ルナ・パレス駅の構造を脳内で高速にシミュレートしていた。空のコンテナ、緩い警備、そしてミリアムが感知する「音」の微細な変化。すべての情報が、パーティ会場、そして駅の地下に集中していく。


「ノア!今、会場の奥、噴水があるアートスペースの裏側で、あの『音』がすごく強く感じる!移動してるみたい……小刻みに、だけど確実に、場所を移してる!」


 ミリアムが、カケルに寄り添いながら、興奮した声でインカムに報告した。カケルもその通信を耳にしながら、自然にその方向に視線を向けた。


「移動している?まさか、パーティ会場に麻薬が持ち込まれているのか……それも、秘匿通信システムを使って位置を知らせながら」


 ノアは、ミリアムの報告を受け、パーティ会場のレイアウト図をモニターに映し出し、同時にそのエリアの監視カメラ映像を拡大する。彼の指がキーボードを叩く速度が上がる。


「ミリアムの証言通り、噴水のアートスペース周辺で、秘匿通信の反応が強まっている。そして、監視カメラの映像と照合した結果……カケル、ミリアム、君たちが最初に言っていた、コレクターの一団と頻繁に視線を交わしていた堅苦しい雰囲気の男の動きと、その『音』の発生源が一致する」


 ノアの声に、カケルとミリアムはハッとした。


「その男の情報だが、GRSIの要注意人物リストに該当はなかった。だが、最近ルナ・パレス駅周辺で暗躍している、小規模な情報屋『シャドウ』と接触していた履歴が複数確認できた。コレクターの麻薬取引における、運び屋の可能性が極めて高い」


 ノアからの報告に、カケルの表情が引き締まる。華やかなパーティの裏で、危険な取引がまさに今、行われようとしている。


「了解。ミリアム、俺たちはそのアートスペースの近くへと向かう。怪しまれないように、自然に」


 カケルは、ミリアムの手を優しく握り、パーティを楽しむふりをして、噴水のあるアートスペースの方へとゆっくりと歩き始めた。煌びやかな会場の喧騒の中で、彼らの心臓の鼓動だけが、静かに、しかし確実に高鳴っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ