23.リュミエールの夜明け
夜が明けた惑星リュミエールには、いつもの穏やかな朝が訪れていた。夜間の激しい戦闘の痕跡は、GRSIの迅速な処理部隊によって既に一掃され、ルナ・パレス駅を行き交う人々は、昨夜の出来事など何も知らぬまま、平和な日常を謳歌している。遠く、かつてコレクターの闇の拠点だった廃鉱山施設の方角には、GRSIの巡回艇が静かに上空を旋回しているのが見える。
GRSIの特別列車が、朝日にきらめくレールの上を滑るように進んでいた。チームYのメンバーたちは、疲れ切った体をシートに預けながらも、それぞれの顔に達成感と、かすかな安堵の色を浮かべている。
列車は、惑星リュミエールの景色をゆっくりと横切っていく。きらびやかなリゾート地帯が遠ざかり、かつての寂れた鉱山惑星だった頃の、荒々しい自然の姿が窓の外に広がっていく。
窓際には、カケルが静かにミリアムに寄り添っていた。彼女はまだ少し顔色が悪いものの、意識ははっきりとしており、安らかな寝息を立てている。カケルは、その小さな手をそっと握りしめていた。彼の表情には、仲間を救い出せたことへの深い安堵と、優しさが滲んでいる。
「ミリアム、本当によく頑張ったな……」
カケルが呟くように言うと、ミリアムは微かに身じろぎ、彼の肩に頭を預けた。彼女の横には、小さなクッションが置かれており、それが彼女の疲れた体を支えている。
少し離れた席では、イヴァンが大きな体を縮こませて、ぐっすりと眠りこけていた。彼の隣に座るエミリーは、タブレット端末で今回の作戦報告書に目を通しながらも、時折、ちらりとミリアムとカケルの様子に目を向けている。彼女の表情は、普段の冷静さの中に、仲間への温かい眼差しを含んでいた。
「ノア、報告書はもういいのか?」
エミリーが尋ねると、ノアは小さくため息をついてタブレットを閉じた。
「ああ、コレクターのシステムは完璧にロックダウンした。彼が再起することはないだろう。しかし、ミリアムの能力が悪用されたこと、そして麻薬が精製されていた事実は、GRSIにとって大きな課題だ」
ノアの声は、いつも通り論理的だが、その顔には少しの疲労と、ミリアムを案じる気持ちが隠せない。
「今は、ゆっくり休もうぜ、ノア。あとはGRSIのお偉いさんが何とかするだろ。俺たちは、ミリアムを助け出すって任務を果たしたんだ」
イヴァンが寝返りを打ちながら、うめき声のような声で言った。
「そうね。今回のことで、ミリアムの能力の特殊性が改めて浮き彫りになった。彼女のケアと、今後彼女がどう自身の能力と向き合っていくかが重要になるわ」
エミリーが、静かに付け加える。
カケルは、窓の外を流れるリュミエールの景色に目を向けた。この惑星には、表と裏の顔があった。華やかなリゾートと、暗い闇の拠点。しかし、自分たちがその闇を暴き、再び光を取り戻したのだ。
ミリアムの規則正しい寝息が、カケルの胸に温かい安堵をもたらす。この平和な朝は、彼らが命を懸けて勝ち取ったものだ。チームYは、これからも銀河の平和を守るため、様々な困難に立ち向かうだろう。しかし、どんな時も、彼らはお互いを信じ、支え合う。この固い絆こそが、GRSIチームYの、揺るぎない強さなのだ。
特別列車は、リュミエールの空を横切り、銀河の彼方へと吸い込まれていく。彼らの旅は、これからも続いていく。




