22.希望の光
地下水路の入り口を塞ぐ瓦礫の山を前に、カケルとイヴァンは立ち尽くした。プラントは轟音を上げ、崩壊の速度を速めている。自爆までのカウントダウンは、無慈悲に時間を刻んでいた。
「くそっ、この期に及んで……!」
イヴァンが瓦礫に拳を叩きつける。ミリアムを抱きかかえたカケルは、閉ざされた出口と、崩れ落ちてくる天井を交互に見上げた。しかし、彼の瞳には、まだ諦めの色はなかった。彼は、この状況が読まれていたことを信じていたのだ。
その時、ノアの焦燥に満ちた声がインカムに響いた。
「カケル!イヴァン!上だ!頭上に注意しろ!」
ノアの言葉に、二人が顔を上げた瞬間、プラントの天井が激しい音と共に大きく崩れ落ちた。だが、それは瓦礫の落下ではなかった。巨大なコンクリートと鉄骨の塊が、瓦礫の山を押し潰し、地下水路への新たな、しかし危険な開口部を作り出したのだ。そして、その開口部の向こうから、まばゆいサーチライトの光が差し込み、見慣れたシルエットが姿を現した。
「全隊、突入!コレクターとその部隊を拘束!チームYを救出する!」
重厚な声が、崩壊するプラントに響き渡った。その声の主は、GRSIのアラン局長だった。彼の背後には、最新鋭の装備に身を包んだGRSIの特殊部隊が、無数の武装艇と共に展開していた。彼らは、プラントの天井を強行突破し、まさに最終段階に入ったチームYを支援するために降下してきたのだ。
「局長!」
カケルは、安堵の表情を浮かべた。彼らの作戦は、アラン局長への事前連絡と連携の元に行われていたのだ。
「ノア、エミリー、よくやった!君たちの情報が、我々を正しい場所に、そして最高のタイミングで導いてくれた!」
アラン局長は、プラントの混乱と瓦礫の中を、一切の躊躇なく突き進んでくる。彼の指揮の下、GRSIの特殊部隊はコレクターの残党たちを一掃し、麻薬精製プラントの主要機能を停止させるために、迅速に行動を開始した。
プラントの奥から、捕らえられたコレクターの叫び声が聞こえてくる。
「くそっ、なぜだ!なぜ私の邪魔をする!私の夢は……!」
コレクターは、GRSIの特殊部隊に取り押さえられながらも、狂ったように叫び続けていた。彼の足元には、彼が押したはずの自爆スイッチが、虚しく点滅していた。
「アラン局長!コレクターの自爆シークエンスを確認!残り2分です!」
ノアの声が、緊急の状況を伝える。
「自爆システム、ロックダウン!この施設は、重要な証拠物件として完全に押収する!」
アラン局長が鋭く指示を出す。GRSIのシステム専門家が、コレクターのシステムに侵入し、自爆シークエンスの停止を試みる。プラントの警告音がけたたましく鳴り響くが、徐々にそのトーンが変化し、最後に「自爆シークエンス、停止。全システム、ロックダウン」という無機質な合成音声が流れた。
「ミリアム・ホロウェイを速やかに医療班へ!」
アラン局長の指示が飛ぶ。GRSIの部隊は、迅速にコレクターの部下たちを拘束し、重要なデータや証拠を回収していく。
「ミリアム、医療班だぞ。もう少しだけ頑張れ」
カケルは、ミリアムを医療班に引き渡した。ミリアムの顔にはまだ苦痛の色が残るが、安堵したようにカケルを見つめていた。
「みんな、よくやった」
アラン局長がカケルの肩を叩いた。その目は、労いと、そして深い信頼に満ちている。
「局長、完璧なタイミングでした」
カケルが言うと、アラン局長は静かに頷いた。
「君たちの報告を受けてから、今回の作戦はGRSI全体を巻き込んだものだった。コレクターの動き、ミリアムの能力が悪用される危険性、そしてこの廃鉱山施設の存在。全てを総合し、君たちがコレクターを追い詰めるタイミングを見計らって、我々が最終突入する段取りだったのだ」
アラン局長は、かつてコレクターがリゾート開発で利用していた企業ネットワークの裏側に、不審な資金の流れと、この廃鉱山施設の購入記録を特定し、GRSI総力を挙げての作戦を計画していたのだ。チームYの精緻な情報収集と、局長自身の長年の経験、そしてGRSIの組織力が、この作戦を成功に導いた。
プラント内は、未だ混乱と煙が充満しているが、自爆の危機は去り、コレクターの闇の計画は完全に阻止された。チームYは、疲労困憊しながらも、互いに顔を見合わせ、安堵と達成感の表情を浮かべた。ミリアムは助けられ、コレクターの悪事は暴かれ、彼の秘密工場はGRSIの管理下に置かれた。そして何よりも、彼らの仲間への強い絆と、GRSIの揺るぎない連携が、この絶望的な状況を乗り越えさせたのだ。
GRSIの部隊は、重要な証拠となる麻薬精製プラントを完全に押収し、この廃鉱山施設からコレクターの闇の痕跡を一掃していく。惑星リュミエールの夜空の下で、GRSIの光が、再び銀河の平和を守るために輝きを放っていた。




