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GRSI-03 歓楽惑星の闇取引  作者: やた


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20.覚醒

 プラント全体を揺るがすコレクターの嘲笑と、絶望的な電磁バリアの光が、カケルとイヴァンを包み込んだ。ミリアムが拘束されているカプセルの中では、彼女の体が激しく痙攣し、その顔は苦痛に歪んでいる。あと一歩、もう一歩なのに、バリアが彼らの行く手を完全に阻んでいる。


「ミリアムッ!ミリアム、聞こえるか!?しっかりしろ!負けるな!」


 カケルは、電磁バリア越しに、血が滲むほど拳を握りしめながら、必死にミリアムの名前を叫び続けた。彼の声は、プラントの轟音にかき消されそうになりながらも、その切望と仲間への想いは、確実にミリアムへと届いた。


 その時だった。


 ミリアムの瞳に、かすかな光が宿った。彼女の脳裏に、カケルの、イヴァンの、エミリーの、ノアの、大切な仲間たちの顔が次々と閃光のように駆け巡る。そして、今まで感じたことのない、強烈な「音」が、彼女の身体の奥底から込み上げてきた。それは、コレクターが強制的に引き出そうとしていた精製のための『音』とは異なる、彼女自身の、魂の奥底から発せられる覚醒の『音』だった。


「ぁぁぁぁああああああ!!!」


 ミリアムの口から、悲鳴とも叫びともつかない、しかし空間を震わせるような高周波の音が、強制的に開放されたかのように発せられた。それは、耳に聞こえる音ではない。彼女の空間認識能力が、限界を超えて覚醒し、プラント内のあらゆる周波数を吸収し、増幅し、そして破壊するほどの力を持ったのだ。


 ミリアムから放たれた『音』は、精製プラント全体を狂わせた。透明なカプセルが不気味に軋み、無数の配管がガタガタと音を立てる。青白い液体が逆流し、プラント内の機械類が一斉にショートし始めたのだ。火花が散り、煙が立ち上る。プラントのシステムが、制御不能なエラーを乱舞させ、大混乱に陥った。


「なんだと!?」


 監視室のコレクターが、信じられないものを見るかのように目を見開いた。彼の完璧なシステムが、ミリアム自身の能力によって、内側から破壊されようとしている。


 この一瞬のチャンスを、チームYは見逃さなかった。


「ノア!今だ!ハッキングしろ!」


 カケルが叫んだ。


「もちろん!!ミリアムの『音』がシステムに致命的なエラーを発生させた!この隙に、最終防衛ラインのプロトコルを強制解除する!」


 ノアの指が、キーボードの上で目にも止まらぬ速さで動き、コレクターが想定していなかったバックドアを突き破る。メインモニターに表示されていた電磁バリアの発生源を示す赤いラインが、瞬時に緑へと変わった。


「バリアが消えるぞ!イヴァン!」


 カケルの叫びと同時に、目の前の電磁バリアが、パチパチと音を立てて消滅した。


「まかせろぉぉぉっ!!」


 イヴァンは、まるで解き放たれた猛獣のように咆哮した。彼は、ミリアムのカプセルへと一直線に突進すると、彼女を拘束するケーブルを、その鍛え上げられた拳で叩き壊し始めた。金属が歪み、火花が散る。強靭なケーブルが、イヴァンの力の前では紙切れ同然だった。


 その間にも、プラント内は混乱の極みにあった。コレクターの重武装部隊が、何が起こったのか理解できないまま、次々とエラーを起こす機械に気を取られている。


「エミリー!援護を頼む!」


 カケルの声が響く。


「分かってるわ!」


 屋上から狙撃の機会を伺っていたエミリーは、この絶好のチャンスを逃さなかった。彼女の狙撃ライフルから放たれる麻酔弾が、コレクターの重武装部隊の急所を正確に捉える。弾丸は、彼らのヘルメットの通信システムや、身体に装備されたセンサーを破壊し、彼らを次々と無力化していった。敵は反撃する間もなく、その場に倒れ伏していく。


「カケル!ミリアムを頼む!」


 イヴァンが最後のケーブルを破壊し、ミリアムの身体を抱きかかえた。ミリアムは意識が朦朧としていたが、確かにカケルの方に手を伸ばそうとしている。


「ミリアム!」


 カケルは、イヴァンからミリアムを受け取ると、その華奢な身体を抱きしめた。彼女の体が震え、その呼吸はまだ浅い。


「よくやった、ミリアム……もう大丈夫だ。俺たちが来たぞ」


 カケルの優しい声が、ミリアムの耳に届く。彼女の表情から、わずかに苦痛の色が和らいだ。


「よくもやってくれたな、コレクター!」


 カケルは、ミリアムを抱きかかえたまま、監視室のコレクターを睨みつけた。コレクターは、まさか自分たちがここまでの反撃を受けるとは想像していなかったかのように、驚愕と怒りの表情で彼らを見つめていた。彼の計画は、まさにミリアム自身の能力によって、崩壊寸前だった。


 プラント内は、未だ警報が鳴り響き、機械のショート音と煙が充満している。だが、チームYの連携が、絶望的な状況を打ち破ったのだ。彼らの目は、コレクターへと向けられていた。最終決戦の火蓋が、今、切って落とされようとしていた。

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