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GRSI-03 歓楽惑星の闇取引  作者: やた


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17/23

17.プラント

 巨大な送水パイプの中を進むカケルとイヴァンは、その閉塞感と、パイプの奥から響く微かな機械音に神経を研ぎ澄ませていた。


 数分後、パイプは大きなT字路に差し掛かった。ノアの指示通り、二人は古いメンテナンス用のハッチを光学迷彩を解除して開け、内部へと滑り込んだ。そこは、廃鉱山施設の深い地下、まさにコレクターの闇の心臓部だった。


 目の前に広がっていたのは、想像を絶する光景だった。広大な地下空洞には、無数の金属製の配管が複雑に絡み合い、試験管のような透明な容器の中では、不気味な青白い液体がゆっくりと脈動している。まるで、巨大な生体組織が呼吸しているかのようだ。


 これが、麻薬『ドリーム・クラウド』の精製プラント。異様な化学物質の匂いが鼻をつく。


「これが……ドリーム・クラウドの製造工場か……」


 カケルが息を呑んだ。プラントの中央には、ひときわ巨大な透明なカプセルがあり、そこから無数のチューブが伸びていた。そして、そのカプセルの中には……ミリアムがいた。


 彼女は、複数のケーブルで拘束され、巨大な機械の中央に吊るされていた。苦痛に顔を歪ませ、意識は朦朧としているようだったが、微かに体が震えているのが見て取れる。彼女の周波数感知能力が、強制的に麻薬の精製反応に利用されているのだ。彼女の姿は、まるで実験台のようだった。


「ミリアム!?」


 イヴァンが思わず声を上げそうになるが、カケルが素早く口を塞いだ。


「静かにしろ!見つかるぞ!」


 カケルは、ノアにインカムで指示を出す。


「ノア、ミリアムの状態はどうだ?救出は可能か?」


 ノアの声が、緊迫した状況を伝える。


「彼女の生体反応は不安定だ。高負荷の『音』を強制的に感知させられている。このままだと、彼女の脳に深刻なダメージが残る。救出は可能だが、彼女を拘束している装置はコレクターのシステムと完全に連動している。迂闊に触れれば、警報が鳴るか、ミリアムにさらに危害が及ぶ可能性がある」


 ノアの言葉に、カケルの顔から血の気が引いた。


「コレクターはどこだ?ノア、奴の居場所を特定しろ」


「コレクターの信号は、このプラントのさらに奥、監視室と思われる場所から発信されている。だが、そこまでのルートは、かなりの数の警備員が巡回している。エミリー、そっちの状況は?」


 その頃、エミリーは施設の屋上から、狙撃ポイントを確保していた。彼女は光学迷彩を解除し、廃墟の鉄骨の影に身を隠すと、超高倍率の暗視スコープを覗き込んだ。スコープのレンズ越しに、プラント内部の広大な空間が鮮明に映し出される。


「ノア、カケル。私の位置からは、プラント内の大部分が見通せるわ。監視室への主要な通路も、巡回する警備員も確認できる。ただし、ミリアムが拘束されているプラント中央のカプセルは、一部の構造物に遮られて、正確な狙撃は難しい。不測の事態に備え、主要な警備員を無力化できるポイントを確保しておくわ」


 エミリーの声は、感情を抑え、冷静に状況を報告した。彼女の狙撃ライフルからは、非殺傷性の麻酔弾が装填されている。その一発一発が、ミリアムの命を左右する。


「了解した、エミリー。無理はするな。あくまで隠密に、万が一の際の援護を頼む」


 カケルの指示に、エミリーは小さく頷いた。彼女の任務は、味方の侵入を支援し、敵の数を減らすこと。そして、最悪の事態に備えることだった。


 カケルとイヴァンは、光学迷彩を最大限に活用しながら、精製プラントの複雑な構造の中を静かに進んでいく。彼らは、プラントの稼働音や警備員の足音に紛れて、ミリアムが囚われている中央のカプセルへと接近を試みる。


「くそっ、ミリアムのやつ……こんな場所に……!」


 イヴァンは、目に映る光景に怒りを抑えきれない様子だったが、カケルの冷静な指示に従い、静かに進む。彼らは、コレクターがミリアムを『生きた調整器』として利用しているというノアの説明を思い出し、胸中で怒りを燃やしていた。


 彼らが、ミリアムの拘束されているカプセルに最も近い、アクセスポイントと思われる場所へと辿り着いたその時だった。


 ノアのインカムから、警告音が鳴り響いた。


「カケル!イヴァン!まずい!コレクターが精製プラントのセキュリティレベルを上げた!センサーの感度が上昇している!すぐに身を隠せ!」


 ノアの警告と同時に、プラントの照明が一段と明るくなり、警備員たちが不自然な動きを見せ始めた。彼らの巡回ルートが変化し、これまで死角だった場所にも目が光る。どうやら、コレクターは、彼らの侵入を察知したか、あるいは何らかの異変に気づいたようだった。


「見つかったのか!?」


 イヴァンが叫んだ。彼らの光学迷彩は、強化されたセンサーの前では、もはや完全ではないかもしれない。


 カケルは、冷静な判断を試みる。このまま進めば、正面から警備員と衝突することになる。それでは、ミリアムに危害が及ぶ可能性が高まる。


「くそっ……!」


 カケルは、近くの巨大な機械の影に身を隠しながら、次なる手を模索した。プラント内のどこかで、コレクターが彼らの動きを監視している。ミリアムの命を握られている以上、安易な行動はできない。

今、彼らは、コレクターの罠に、完全に足を踏み入れていた。

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