彼の推理(第三夜)
それは貴族のタウンハウスが並ぶ通りで、春~夏は人通りも多く、馬車の往来もある。だが冬の今、通りは閑散としていた。それでも屋敷には管理人が住んでいる。ゆえに完全に無人化した通りになることはないが……。
夜間や早朝はとても閑散とする。
そんな通りに現れた一台の荷馬車。積み荷は木箱で、あるタウンハウスの前で止まると……。
木箱をいくつか下ろす。
そのまま管理人を呼び出すのかと思ったら……。下ろした木箱をそのまま通りに置き、御者は荷馬車に戻り、去って行く。
タウンハウスの管理人はここに荷物が置かれていることを知っているのか? この後、管理人がこの木箱を取りに現れるのか。しばらく様子を見るが、管理人が出てくる気配はない。
「確認、してみましょうか」
コルディア公爵の問いにライズ隊長は「そうですね」と頷き、馬車道を横断し、そのタウンハウスの勝手口へと向かう。ドアノッカーを叩き、管理人を呼び出すと、初老の男性が姿を現した。
「夜分遅くに申し訳ありません。王都警備隊、第一方面隊長のライズです。先程、このタウンハウスの前に木箱が置かれました。何か配達の予定がありましたか?」
ライズ隊長に問われた初老の男性は二つのことで驚く。
「えええっ、王都警備隊!? ライズ隊長!? 木箱……? 配達の予定は……ありません」
そこでライズ隊長とコルディア公爵が目配せし、通りに置かれた木箱のところへ向かう。管理人の初老の男性もタウンハウスから出てきて、木箱を改めて見るが……。
「ワインの購入の予定もありませんし、この時期、タウンハウスに主はいません。そして主から荷物が届く予定がある……そんな連絡は来ていません。わたし自身が私的に配達を頼んわけでもありませんので、この木箱は……配達間違いとしか思えませんが……」
これを聞いたライズ隊長は部下を呼び木箱を開けるように指示する。釘抜きを手にした王都警備隊の隊員が木箱を囲む。すぐに釘が抜かれ、木箱の一つの蓋が開けられる。
「ライズ隊長、ご覧ください。中身は缶に入った紅茶の茶葉のように思えますが……」
「確認しましょう」
コルディア公爵は木箱の中から缶の一つを取り出し、蓋を開けた。そして香り、茶葉らしき葉を手に取り、じっと眺める。
「茶葉の発酵香に混ざる僅かな青臭さ……。茶葉の中に混ざるオリーブ色の葉片……。この缶の中には紅茶の茶葉以外のものが混入しています。アカデミーに持ち込み、詳細な分析をされるといいでしょう」
その言葉を聞いたライズ隊長は「コルディア公爵、捜査へのご協力、ありがとうございます!」と敬礼する。それを見た管理人は「えっ、公爵!?」と目を丸くする。
「この木箱を回収しろ」
ライズ隊長が命じ、隊員が一斉に動いた。
◇
冬晴れの日曜日。
公爵邸のサンルームには白いテーブルクロスが広げられ、そこにはキッシュやフィンガーフードなどのセイボリー、スコーンやマカロンなどのスイーツが並ぶ。そして芳醇な香りを漂わせる紅茶が用意されている。
柔らかな陽射しにより、ぽかぽかと温かいサンルームに着席したのは、隊服姿のライズ隊長、濃紺のセットアップを着たコルディア公爵ことアレス、そしてティナ嬢こと私だ。侍女のハンナは入口近くで控えている。
「コルディア公爵のおかげで、セリカの密売ルートの全容が明らかになりました」
ライズ隊長はメイドが淹れた紅茶の香りを楽しむように鼻をひくひくさせながら、口火を切った。それを聞いたアレスは「わたしの予想通りだったでしょうか?」と尋ねる。
「はい。コルディア公爵の予想通りでした。売人は『卸元からはセリカが入荷次第、連絡がくる。指定された場所に取りに行くが、場所は毎回違う。連絡はいつくるかわからない』と言っていましたが、それは大ウソでした。本来の彼らのやり方は公爵の予想通りで、売人が卸元に手紙で連絡を行う。すると卸元から、紅茶の茶葉にセリカを混入させた缶を詰めた木箱を卸す日時が知らされる。売人はその日時にその通りへ向かい、木箱を回収。摘発に備え、紅茶の缶に入れたまま、買い手に販売していました」
それを聞いたアレスは「やはりそうでしたか」と頷く。それを受け、ライズ隊長はこう続ける。
「セリカは液体に溶けやすい性質を持つので、紅茶を淹れる要領で飲料として摂取が可能です。そして茶葉に混入させると、コルディア公爵のように詳しくなければ、なかなか見破ることができません。『ハーブティーです』と言われ、出されてしまえば、信じてしまう……。ある意味、ティーカップに入れた状態で出されたら、それがセリカ入りの紅茶であるとは気が付かず、飲んでしまう可能性が大きい状態でした」
つまりはもしここでライズ隊長がセリカの販売を押さえることができなかったら、大勢がセリカによる薬物中毒になる可能性があったのだ。
「でもまさか、秋冬は管理人しかいないタウンハウス、空き家となっている民家や商店がセリカの受け渡し場所に選ばれていたなんて……。コルディア公爵はよく分かりましたね」
ライズ隊長に問われたアレスは、煌めくようなアイスブルーの髪を揺らし、紺碧色の瞳を細めて微笑む。
「卸元としては都度場所を変えることで、足がつかないようにしていたのでしょう。でもわたしから見ると、一年の大半を地方領で過ごす貴族のタウンハウスがある通りばかりが受け渡し場所に選ばれているように見えました。そこを突破口に、商店街の通り、裏道などの受け渡し場所が、どんな場所であるのか。調査したのです。その結果、共通項として、どれも空き家だった期間がある……ということが判明しました。そこでピンときたのです。タウンハウスは春~夏以外は家主がいない。管理人しかいないため、その通りは閑散とする。そこに木箱を荷物を届けたようなふりをして置けば……あらかじめそこに置くと知らされている売人はすぐに回収できますし、まさかそこでセリカの密売されているとは……気が付かない。犯人はなかなかの策士だと思いますよ」
そう、そうなのだ!
アレスは私が地図につけた印を見て、すぐにそこがどんな通りであるか見破った。そして即調査を行い、セリカの卸元が管理人しかいないタウンハウス、街中の空き家の人のいない時間を使い、セリカ入りの紅茶缶の入った木箱を卸していると予想したのだ。そして売人にこの事実をつきつけ、次の取引を行うよう、手紙を書かせた。その結果、アレスの予想通りとなったわけだ。
「卸元もこれで判明し、元売りもわかりました。元売りから辿り着いた商会は……黒幕は隣国の侯爵家でした。そうなると国際問題となり、王都警備隊の手を離れ、外交部と国王陛下が動くことになります。ですがきっと裁きの鉄槌は下されるでしょう」
そういうとライズ隊長は背筋を伸ばす。
「我が国が薬物により汚染されずに済んだのは、コルディア公爵のおかげです。本当にありがとうございました」
「王都に暮す貴族の一人して、当然のことをしたまでです。それに紅茶を悪用するのは……許せないですからね。皆が日常的に口にするもの。平民も貴族も関係なく、飲む機会があり、誰が被害者になってもおかしくない。老若男女問わず薬物被害を受けるところでした。大火となるまえに鎮火できてよかったです」
アレスの見事な推理により、セリカ薬物事件は幕を下ろすことになった。
お読みいただき、ありがとうございます☆彡
彼の推理はこれにて完結!
事件が発生したらのんびりまた更新しますね~














