彼の推理(第二夜)
「ティナ嬢、コルディア公爵のアドバイスに従い、おとり捜査を行いました。その結果……とんでもない事実がわかったのです!」
アレスからのアドバイスをライズ隊長に伝えた数日後、彼が私のところを再び訪ねて来た。ちょうどアレスは商会の仕事で王都を数日離れているので、私がおとり捜査の成果を聞くことになった。
「まさにコルディア公爵の言う通りでした。これまで貧民街の子どもたちが売り子をしているということで捕らえ、売人が誰なのか尋問し『知らない人』『これまで街で見かけたことがない人』『毎回違う人だよ』と言われてしまい、諦めていました。ですが今回、おとり捜査を行った結果……売人を捕えることができたのです!」
前回と同じ応接室のソファに座るライズ隊長は、いつもの隊服姿で興奮気味で語りだす。クリーム色のデイドレスを着た私は彼の対面に座り、その話に相槌を打つ。
「売り子を何人も捕らえましたが、まずは『雇い主は誰だ?』と問い、『知らない人』と答えられると、捜査は行き詰まる。その繰り返しでした。買い手と売り子がどんな交渉をしているのか。そこを細かく調べたことはありませんでした。今回、おとり捜査をする前に、以前捕え、釈放していた貧民街の子どもに改めて買い手とのやりとりについて聞いたのです。すると実に用意周到に交渉が行われていたことが判明しました」
ライズ隊長によると、まず買い手は貧民街でたむろしている子どもに「流しの馬車を探している」と声をかける。通常、貧民街の子どもに馬車について尋ねることはない。つまりはここでいう馬車=セリカのことになる。声をかけられた子どもは「それなら」と馬車がいる場所を説明。買い手は言われた場所へ向かうと、そこには確かに馬車がいる。
「その馬車の中に、売人がいるんですよ! 買い手は何食わぬ顔で馬車に乗り、そこで金を売人に渡し、セリカを受け取る。その間に馬車は移動。売り子はその様子を確認し、新たな買い手から声をかけられたら、馬車の位置を教える。そうやって売り子はセリカにも現金にも触れず、売人が直接販売をしていたのですよ! しかも移動するから悪目立ちすることもない。本当にただの流しの馬車に見えるんです」
まさかの馬車で販売をしていたとは! 売り子はただ馬車の場所を伝えるだけだから、もし本当に捕まっても「何も知らない」で済む。いくら聞いても何も情報は出てこない。
そして貴族の馬車なら紋章が描かれていることもあったが、流しの馬車はそれもない。馬車乗り場に乗り入れる馬車は、組合登録もしているから、持ち主も判明するが……。流しだとそれもない。
実に悪賢いが、売人をおさえたのだ。
「売人をおさえたなら、販路もすぐに判明ですね」
「それが……そういうわけでもないんですよ」
「!? さすがに逮捕されているのですから、白状しますよね?」
「はい。白状はします。でも……わからないのです!」
わからないとはどういうことなのか。
詳しく話を聞くと……。
「卸元からはセリカが入荷次第、連絡がくる。指定された場所に取りに行くが、場所は毎回違う。連絡はいつくるかわからない……そんなことしか白状しないんですよ!」
家宅捜査をしても、卸元につながる情報はない。それは当然と言えば当然。卸元から連絡が来ても、その手紙を残しては証拠となる。内容を確認したらすぐに暖炉にくべて焼いてしまう──証拠隠滅を日常的に行うのは、ごく当たり前のことだった。
「受け取り場所に何か共通項はないのですか?」
「主に路上のようですが、人目のつかない時間を選んでいるのでしょう。目撃情報もありません。届けにくる人間も毎回違うというのですから、売り子と同じかも知れないです。中身が何であるか知らされず、運び屋として利用されている……」
売人を押さえたら、販路はすぐにわかる……という考えは甘かったのか。
「……状況は理解しました。アレスが…… コルディア公爵が王都に戻ったら、話しておきます。一応、その売人が話した受け取り場所の情報、全て教えていだだけますか?」
「もちろんです! もしコルディア公爵が何か気づいてくだされば、我々としても非常に助かります」
そこで判明している十二ヶ所の通りを教えてもらい、ライズ隊長は帰って行く。一方の私はハンナに頼み、王都の地図に受け渡し場所の印を入れることにしたが……。
「お嬢様、本当にバラバラの場所ですよ。貴族の邸宅が並ぶ通りもあれば、平民の家が立ち並ぶ通りもあります。商店の並ぶ通りでも受け渡しをしていたなんて……大胆不敵ですね」
「そうよね。王立公園は敷地も広いし、林だってあるわ。そういう人目のつかないところではなく、時間帯によっては普通に往来もある通りでセリカの受け取りをしているなんて……何だか怖いもの知らずに感じるわ」
結局、地図に印は入れたものの。何かヒントが見つかるかというと、ハンナと私では無理だった。だが──。
王都に戻ったアレスにライズ隊長の話を共有し、地図を見せると……。
「なるほど。売人は……悪知恵が働くようですね。見えてきましたよ。真相の一部が」
アレスは地図を見て何かに気がついたようだった。
お読みいただき、ありがとうございます。
晩秋ミステリー第二夜です~
明日が最終夜。
真相に皆さま、気づきましたか!?














