彼の推理(第一夜)
発売前から何かと注目を集めたサファイアティー。
無事、発売日を迎え、その売れ行きはうなぎ登り。
私が広告塔にになり、どうこうしなくても、もはや商品が独り歩きしている状態。
お披露目イベントはその人気に拍車をかけるだけであり、ついにサファイアティーは三年先まで予約販売が完売という状況だった。
(その売り上げの十パーセントをもらう契約になっていたけど……。今となってはとんでもない金額になっているわ!)
おかげで私は婚約式のためのドレスや宝飾品など、すべて自分のお金で手に入れることができた。親に甘えず自分の力でなんとかできたのは……うん、私、よくやったと思うわ!という感じだった。
そんないろいろあったが雨降って地固まるな日々を送っている私のところへ、王都警備隊のライズ隊長が訪ねて来た。
「ライズ隊長、どうされたのですか?」
ローズ色のデイドレスの私は、隊服姿のライズ隊長を応接室に通し、ソファに座るように勧めた。ソファに腰を下ろしたライズ隊長は、対面に私が着席すると、真剣な表情で話し始める。
「実はティナ嬢とコルディア公爵に、お知恵を借りたい事件が起きているのです」
「え、そうなのですか?」
「はい。実は……」
そこでライズ隊長が語った事件は、ここ最近王都で聞かれるようになった違法薬物の件だった。
「大陸の東ではアヘンによる薬物被害が出ており、違法な薬物の取り締まりは強化されています。ですがどうも最近王都では、怪しい薬が出回っているようなのです」
その薬物はセリカと呼ばれ、服用すると陶酔感を覚え、軽い幻覚症状を引き起こし、人を陽気にさせるという。元々は奴隷制のある国で、奴隷を酷使するために飲ませていた薬がセリカだったが、どこの国も奴隷を廃止する動きが高まっている。セリカに関わり益を得ていた者たちは、買い手が大幅減となり、非常に困った。そこで買い手を求めて、あちこちで暗躍を始め、この王都でも違法販売をしているというのだ。
「セリカは薬草なので、一見すると茶葉のように見える。よって『これは茶葉です』ということで輸入されてしまう。しかも国内でも隠れて栽培している者までいて……。セリカ工場と言われる栽培業者がいくつも摘発されているのですが、問題はその販売の手口なんです」
「販売の手口……売人が売りさばいているんですよね?」
「はい。売人が売りさばいているのですが、大口での取引をしないのです」
これには「どういうことですか?」と尋ねることになる。
「貧民街の子どもなどを使い、小口での販売をするんですよ。アヘンに比べ、セリカは依存性が低いと言われていますが、リピートする者は多い。組織的販売ではなく、販路を個人にして裾野を広げている状態なんです」
「ということは売り子を捕まえても、黒幕までたどり着けない、ということですか?」
「まさにその通りです。貧民街の子どもたちは街中で声をかけられ、日雇いで売り子となる。その場限りの雇用なので、雇い主が誰かなんてわからない。そんな売り子をいくら捕えても、替えはいくらでもいる。セリカの違法販売をなかなか取り締まることができないのです」
ライズ隊長はかなりの難問にぶち当たっているように思えた。
「事情はわかりました。ですがなぜ、私に……コルディア公爵に相談を?」
「恥ずかしながら、藁にも縋る思いなんです」
「!」
「お二人は警備隊の人間でもないのに、実は二つの難事件を解明されている。特にコルディア公爵の推理力は……プロ顔負けです。何か助言をいただけないかと、参った次第で……。本当は公爵を尋ねたかったのですが、彼は多忙ですよね。アポをとるのに一カ月待ち……が当たり前です。そこで少しズルをしました」
これには苦笑するしかない。
(ライズ隊長がアポをとろうとしているわかったら、アレスはちゃんと時間を作ると思うわ。でもきっとライズ隊長はそれで自身が優先されるのを、申し訳なく思ったのね。婚約者である私なら、アレスと会う機会が必ずある。その際、この件を話して欲しいと思ったわけね)
律儀で真面目なライズ隊長の頼みだ。ここは快諾の一択だろう。
「なるほど。わかりました。コルディア公爵には私から話してみますわ」
「ありがとうございます、ティナ嬢!」
◇
「……ということでライズ隊長は、セリカという薬物を販売する黒幕になかなかたどり着けず、何か起死回生の策がないか、アドバイスを求めたのです」
婚約者であるコルディア公爵……アレスの元を尋ね、私はライズ隊長から聞いた話を打ち明けた。
「なるほど。王都警備隊は、治安維持の名目で、街で起きるありとあらゆる事件を担当しています。ですが警備隊の隊員が全員、捜査のプロというわけではない。尋問が得意だけど捜査は苦手、仲裁は得意でも交通整理は不得意と、得手不得手があります。ゆえにライズ隊長が助言を求める気持ちは理解できてしまいます」
アレスは私の話を聞き、しばし考え込む。そして――。
「わたしからアドバイスをするなら、貧民街の子どもたちを売り子として使っている売人。つまりは元締めを押さえ、セリカの販路を掴むべきだと思います」
「つまりいきなり黒幕の逮捕を目指すのではなく、販路を潰していくわけですね?」
「はい。元締めの上には卸元があるはず。元締めを捕らえ、情報を聞き出し、卸元を叩くことで、元売を炙り出す。最終的に黒幕へたどり着くシナリオです」
需要と供給の世界では、供給が断たれれば、いくら大量の売り子がいてもどうにもならない。それに販路を潰されれば、黒幕だって黙ってはいないというわけだ。
そこでアレスはさらにこう付け加える。
「実際にその売買の場を見ていませんが、売り子がセリカを持っている可能性は低いと思います」
「! それはどういうことですか……?」
「セリカを持ち、買い手に渡すのは、売り子たちの雇い主であり、売人の可能性が高いと思っています」
「売り子……と呼ばれていますが、実際は間をつなぐ役割をしているだけ、ということですか?」
私の問いにアレスは「そうです」と頷く。
「その場限りの雇用関係に信頼なんてあり得ない。セリカを持ち逃げされたり、お金を持って売り子が消えたら困りますからね。ゆえにセリカを持ち、現金を受け取るのは、売人かと」
「言われてみるとそれが正解に思えます」
「これまでは売り子を捕らえ、雇い主は知らない人と言われたら、それで捜査が行き詰ったと思っていたかもしれません。ですがそうではない。売り子から売人を見つけ、販路を叩く。そのためには……おとり捜査しかないでしょうね」
お読みいただき、ありがとうございます!
明日からの三連休のお楽しみで、三話読み切り作の公開です♪
コーヒーや紅茶など、温かい飲み物と一緒に推理しながらお楽しみくださいませ☆彡
ちなみに今回の更新までに新作が登場しています。
ある日、マクドナルト卿と会話をした瞬間、前世記憶が覚醒した私。
なんてこと! 乙女ゲームの悪役令嬢に転生している!と気づき……
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