碧色は死を招く色(10)
ジャックの告白が終わり、シンとしたこの場で声をあげたのはアレスだ。
「オルニオン殿。君はセシリアから打ち明けられたのでは? 妊娠しているが、あなたの子ではないと。あなたは避妊していたが、ジャックはしていない。助産師もジャックの子どもの可能性が高いと。それを聞いて、君は逆上したのではないですか? 自分以外の男と同時進行で関係を持っていたことに。執着していた女性の裏切りが許せなかった。貴族である自分が平民の娘にこけにされたことが許せないと感じた。身分も容姿にも恵まれた自分が好きになってやったのに、他の男の子どもを身籠るなんて、許せないと思ったのでは?」
アレスに問われ、ライアスはくわっと勢いよく口を開け、唾を散らしながら反論する。
「違う、違う、違う! 断じてそんわけがない! 僕のような恵まれた人間が、平民の女に執着なんてするわけがない。全部あの女の妄想だ。ちょっと親切にしてやったら勘違いして、自分が僕から好かれている、執着されているなんて言い出して! いい迷惑だ。というか名誉棄損だぞ、これは!」
そんなライアスを見て、アレスはため息をつく。
「まだ、何も感じないのですか?」
「えっ……」
あくまで冷静沈着なアレスの一言に、ライアスはひるむ。
「君はセシリア嬢から身籠っているという話を聞き、その父親はジャック氏だと言われた。その瞬間、可愛さ余って憎さ百倍になってしまったのでしょう。許せない、セシリア嬢とお腹の赤ん坊諸共殺してやる――そう決意したのでは? そしてサファイアティーだと偽り、ほぼ硫酸銅を溶かしただけのお湯を飲むように仕向け、セシリア嬢とお腹の赤ん坊を毒殺した。そう、君が毒殺したのはセシリア嬢だけではなく、赤ん坊も含まれる。そしてその赤ん坊、本当の父親は君なんですよ。君は、我が子をも毒殺した。そのことに何も感じないのですか?」
その瞬間のライアスの表情は……。
愛しているのに愛してもらえず。憎いけれど愛する気持ちがあり。その相手との間に授かった命を、自らが摘んだことを自覚し――。
「うわぁ、うわあぁぁぁぁぁ――――」
ライアスの絶叫が部屋中に響き渡った。
◇◇◇
「いやあ、別人ですよ。憑き物が落ちたかのようです。我が子までを毒殺した事実にオルニオンは打ちのめされ、全てを明かしました」
アレスの屋敷……コルディア公爵邸へ足を運んだ隊服姿のライズ隊長は、ライアスの取り調べで分かったことを報告をしてくれた。今回の逮捕劇にはアレスが多大に協力している。ゆえに事の顛末を教えてくれることになったのだ。
こうして公爵邸の応接室のソファにはライズ隊長が腰掛け、その対面にアレス、その隣に私が着席。間に挟んローテーブルには、サファイアティーとマロンタルトが置かれていた。
「一体どういう触れ込みであの偽物のサファイアティーを、家族には飲ませず、彼女だけに飲ませることに成功したのですか? それにオルニオンの手前、サファイアティーだと信じ切って飲んだことにしていましたが……実際はほぼ硫酸銅を溶かしただけのお湯です。それを致死量まで飲むなんて……いくらバイアスがかかっていても不思議でなりません」
ライトブルーのセットアップ姿のアレスの問いに、ライズ隊長は「そこなんですが」と悲しい事実を打ち明ける。ローズ色のドレスを着た私は気になる真相を聞くため、少し前のめり気味でソファに腰掛けていた。
「オルニオンはセシリア嬢からお腹の赤ん坊の父親がジャック氏であると言われ、もうつきまとわないことを約束したそうです。そしてこれまでのお詫びとして、巷で話題のサファイアティーを贈ると、セシリア嬢に渡したのですが……。オルニオンは自身に足がつかないようにするため、硫酸銅は従者に買いに行かせたそうです。その従者とオルニオンはあるヒソヒソ話をしたそうです」
「ヒソヒソ話?」とアレスが首を傾げ、それは私も同じで頭に「?」が浮かぶ。
「なぜ硫酸銅が必要なのか。従者は純粋な疑問で尋ねたようです。まさか従者からそんなことを聞かれると思わず、オルニオンは焦ったのでしょう。従者はオルニオンとセシリア嬢の関係を知っていた。そこでオルニオンは咄嗟の嘘でこんなことを口にしたらしいのです」
そこでライズ隊長はライアスを真似るようなキザな口ぶりをする。
「この薬剤には流産を促す効果があるらしい。僕を裏切ったセシリアを許すつもりはない。ジャックとの赤ん坊なんて……この世に誕生する必要はないんだ。お腹の赤ん坊は流産させてやる……。このことは他言無用だ。それにこれを買ったお前は共犯になる。誰にもこの薬剤を買ったことを話すなよ」
ライズ隊長の今の言葉を聞き、私は思わず尋ねてしまう。
オルニオンは根も葉もない嘘をついている。だがセシリアは――。
「まさか偶然このヒソヒソ話を聞いてしまったセシリアは、嘘だとは知らず、オルニオンの赤ん坊を堕胎したいと考えた。そして流産を促す薬剤入りの茶葉だと信じ、飲んだということなのですか……!?」
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