侍女の悩み事(6)
秋の早朝。
五時過ぎには空が明るくなっていた夏とは近い、五時を過ぎても空はまだ宵の名残り。
ですが今日の天気はコルディア公爵が調べた結果通り、快晴になりそうです。
頭上に広がる雲はゆっくりと流れており、この後、陽が上れば間違いなく青空になりそうでした。
でも気温はヒンヤリ。
冬ほどの寒さではないですが、上着が欲しい冷たさです。
コルディア公爵はパールシルバーのセットアップ、ティナお嬢様はラベンダー色のドレスに短い白のケープを羽織り、私もグレーのワンピースに白のエプロンですが、黒のカーディガンを着ています。さらに護衛でついている騎士もウールのマントを羽織っていました。
「そろそろかと思います」
離れの裏口が見えるよう、私たちは裏庭の一角に待機していました。裏庭にはオークの木やセイヨウボダイジュがあるので、隠れてそこにいるのは最適だったのですが……。
バサバサッという音に「ギャア」という叫び声のようなものも聞こえます。
寒さではなく、恐怖で鳥肌が立った時。
離れの裏口でキラッと光るものが見えました。
ガラス片が置かれています。
同時に。
犯人の姿もハッキリと捉えることになったのです。
◇◇◇
「えええええ、あの嫌がらせをする犯人とその理由をコルディア公爵が解明した!?」
昼の休憩時間を使い、私はメイド長に今朝の件を報告することにしました。
犯人が分かったと伝えると、メイド長はビックリです。
「一体、誰なんだい!? その犯人は!」
そこで私は今朝見た全てを話しました。
「な……犯人は人間じゃなかったの……!」
「はい。犯人はカササギです。しかも悪意などなしです」
「悪意はない……では何のために……?」
そこから先は名探偵コルディア公爵が語ったことを私が伝えることになります。
「マルティウス伯爵家の紋章にはツバメが描かれ、毎年のように彼らが巣作りを行います。よってマルティウス伯爵家といえば、ツバメのイメージですが、彼らは渡り鳥。春に飛来し、ヒナを育て、秋になると温かい地へ渡ってしまいます。ツバメがいない伯爵家ですが、裏庭にはオークの木やセイヨウボダイジュが生えており、そこは鳥にとってはいい寝床です」
これにはメイド長は「ああ、なるほど」と窓から外を見ます。
離れの食堂からも裏庭の木々を眺めることができるのです。
「日中は別の場所にいますが、夜になるとこの裏庭の木々に身を潜めて休む。つまり秋冬のマルティウス伯爵家はツバメ以外の鳥……街中でもよく姿を見かけるカササギの住処になっているのです。そしてカササギは一度つがいになった相手と添い遂げます。仲のいいつがい同士は贈り物行動をとるそうです。つまり裏口で見かけた動物の骨、虫の死骸、釘、ガラス片などは、カササギがつがいに贈ったギフトだったのですよ!」
「えええ、そんな物がギフトなの!?」
メイド長が驚きの声をあげますが、それは無理もありません。
人間にとっては不気味だったり、ただのごみでも、カササギにとっては違います。
「遊び道具だったり、餌だったり。それにカササギはその習性で光るものを好みます。そこは……なんだか人間と似ていますよね」
「ガラス片に血がついていたのは……」
「本当に血だったのでしょうか。それこそ、ペンキだったのかもしれません。なんだか怪しい物という先入観で、ただのペンキが血に見えたに過ぎないのでは……とコルディア公爵様はおっしゃっていました」
これを聞いたメイド長はハッとして私に尋ねます。
「ギャアという悲鳴が聞こえたというのは……」
「カササギの鳴き声がまさにギャアギャアですよね。でも人間の声とは全く違います。それでも早朝で、音が反響した時。遠くで聞こえた鳴き声が悲鳴に思えた……のではないでしょうか」
「そう言われると、まさにその通りね。それに考えて見ると、雨の日に置かれていないのも、納得できるわ」
ギフトとしてする贈り物であり、切羽詰まったものではありません。天気もよく余裕がある時に行われている行為だったのです。
「そしてカササギはフクロウとは違い、夜行性ではありません。とはいえ日中、お屋敷の敷地内は人が多いですし、カササギ自身も別の場所に行っています。だからこそ早朝、つがいへのギフトのプレゼントが行われたのでしょうとコルディア公爵様は結論づけました」
「なんだ、そう言うことだったのね。ハンナやお嬢様、コルディア公爵様は今朝、その現場を見たの?」
「はい。今日は天気も良いと予報されたので、夜明け前に裏庭に集合して、カササギが現れ、ギフトをつがいに贈る様子をバッチリ目撃しました」
そんな早朝から犯人捜しをしていたと知ると、メイド長はさらにビックリです。
「でも頑張ってくれたおかげで謎は解明した。これで使用人のみんなも不気味がることがなくなるわね。逆にカササギのつがいへの愛情深い行動に、自分の恋人の不甲斐なさを思い出すかもしれない……」
そんな笑い話で、この不可解な事件は解決したのでした。
お読みいただき、ありがとうございます!
次の事件簿は校正が追いつかず(汗
十話ほどのお話になる予定です。
更新まで少々お時間くださいませ。
更新しましたら、連載中の作品やX、活動報告でもお知らせしますが、ブックマークもぜひご活用ください☆彡
お待ちいただく間は、ページ下部のバナーから本屋で気になる一冊を探す気分で、未読の作品を発掘してみるのはいかがでしょうか?
連載中以外は全て完結ハッピーエンド作品です。
一気読みもオススメです〜!














