65:動機を持つ者
これにはライズ隊長が「契約婚!? 白い結婚!?」と驚いているが、それは私やコルディア公爵、さらにはヴィオレットまでもが驚いている。
「僕は亡くなった妻のことを、忘れることが出来なかった。よって再婚は出来ない、しないと思っていた。しかしアマリアは、こんな提案を僕にしている。『自分はティナの母親代わりとなり、彼女を支えてあげたい。そして伯爵夫人として、安定した身分があれば、それで十分です。亡くなった奥様を忘れられないあなたに、抱いてくれとは言いません。愛する必要はないのです。契約婚をしましょう。これはお互いの利害のための結婚です』と」
これを聞いたライズ隊長は「なるほど」と唸る。そしてこう続ける。
「それは何とも斬新。ですが伯爵は、母親がティナ嬢にいた方がいいと思っていた。そしてアマリア夫人は、伯爵夫人と言う安定の身分を欲しかった。そこで男女の関係ではなく、契約として再婚をされたのですね?」
問われた父親は即答する。
「まさにその通り。その契約の中には、外聞もあるので、お互いに愛人などは持たないという約束のはずだった。しかしアマリアはそれを破ろうとした。事もあろうに、僕が留守中に、弟に関係を迫った。それは僕の弟であるトムから直接聞いている。『契約婚、白い結婚をしたけれど、寂しくてならない。慰めて欲しい』そう弟に頼んだんだ!」
父親の話にアマリアは「あなた、そんな話を娘の前でする必要はないでしょう!」とヒステリックに叫ぶ。しかも握りしめた拳で父親に殴りかかろうとするので、慌てて隊員がアマリアの肩を掴んだ。
「トムからその話を聞き、またコルディア公爵の件もあった。アマリアの本性を見た気がして、離婚を提案したのが、昨晩のこと。その時は激しい口論になり、アマリアは『離婚なんてしないわよ!』と怒鳴って、部屋を出て行った」
「二人が喧嘩していた様子は、私とバトラーも目撃しています」
私もここは見たことを思い出し、そう伝えると、アマリアは苦々しい表情になる。
「なるほど。アマリア伯爵夫人は、ティナ嬢より、ヴィオレット嬢をコルディア公爵の婚約者に推薦したいと思った。だが伯爵はそうではなかった。そこで意見の相違があり、さらに契約婚で約束したことを、夫人は反故にしようとした。それを踏まえ、伯爵は離婚を提案。しかし反対されたと。……そこで伯爵の毒殺を思い立ったのなら……それは遺産目当て、と言うことでしょうか?」
ライズ隊長の言葉に、アマリアの頬はひきつり、ヴィオレットは唇を噛み締めている。
「契約婚の中で、もしもの件も触れている。つまり遺言。爵位は僕の弟であるトムが継ぐことになる。しかし動産や現金などは、長女であるティナに分配は多くなるがアマリアやヴィオレットにも渡るように記していた」
父親はため息をつき、話を続ける。
「何より寡婦となっても伯爵夫人と名乗れるし、再婚だってしやすくなる。もし離婚となれば財産もなければ醜聞が立つ。アマリアは離婚はしたくない。ヴィオレットは公爵との婚約希望を無視されたこと、頭に来ているのだろう。つまり私の殺害動機、ティナにはなくても、この二人にはある」
「お父様! 公爵との婚約なんて、お義姉様でさえ、実現するか分からないのよ! 無視されたぐらいで私が」
「ヴィオレット。聞いたはずだ。お前の割り当て金を減らすと。これまで欲しいものがあれば、何でも買えるようにして来た。だが、ティナの毎月の支出に対し、お前の支出は六倍だ。ティナは勉強に必要な本の代金がほとんど。だがお前は宝飾品やドレスばかり。割り当て金が減ったことに頭に来て、花瓶を投げつけたことは、ヘッドバトラーから聞いている」
父親がピシャリと言うと、ヴィオレットの顔色はサーッと青ざめた。
「動機がある二人に対し、動機がないティナの部屋から瓶が発見された。そこに作為的なものを感じませんか?」
コルディア公爵がダメ押しのようにライズ隊長に告げると「それは……まさか侍女は」と言うと、彼はシャロンを見る。
「シャロンは元々伯爵家にいた使用人ではない。アマリアが連れて来た侍女だ。ずっとアマリアに仕えていたと聞いている。彼女だったらティナのクローゼットに瓶を忍ばせることも出来るはず」
父親がそう言うと、コルディア公爵を見る。
コルディア公爵は頷き、口を開く。
「それにライズ隊長。疑問に思いませんでしたか? なぜ医師のサムが、そこまで有名ではない、マンチニールの毒を判定するためのサンプルを持っていたのかを」
コルディア公爵の言葉に「!? そう言われると、なぜ……」とライズ隊長が医師のサムを見る。
「何よりも毒を飲んだはずのマルティウス伯爵がこの通り。具合が悪くないこと、不思議ではないですか?」
重ねてコルディア公爵に問われ、「それは……」と、ライズ隊長は困ったように医師のサムを見た。すると……。
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