64:異議あり!
「そんなおかしな話があるものか! 第一、僕はこの通り。何の問題もない!」
「でもあなた、具合が悪くなったではないですか! いつまた容態が急変するか分かりません!」
「そうよ、お父様! お義姉様がそんなことをするなんて、にわかには信じられないのかもしれません。でもこれは事実です!」
父親が問題ないと言っているが、アマリアとヴィオレットはあくまで毒を盛られた前提で話をしている。
「ともかくこれでティナ嬢を容疑者とし、拘束する理由は分かりましたよね?」
ライズ隊長が神妙な顔でそう宣言し、部下に合図を送った。私の近くにいた隊員が駆け寄り、私の腕を掴もうとした瞬間。
「異議があります!」
コルディア公爵が凛とした声で告げた。これにはライズ隊長が「!?」となる。私の腕を掴もうとした隊員も思わずその動きを止めていた。
落ち着いた声音でコルディア公爵は父親に尋ねる。
「マルティウス伯爵。あなたは猛毒と言われるマンチニールを所持していたのですか?」
「所持しているわけがありません! そんな猛毒、僕の人生では不要なものです!」
「なるほど。……伯爵家の令嬢は、どこへ行くにも侍女が同行します。未婚となると、手紙も両親が確認し、行動を把握されます。ティナ嬢もそうでしょう? どうやってそんな猛毒を手に入れるのでしょうか?」
コルディア公爵がライズ隊長を見た。
隊長は「!」と戸惑う。
するとアマリアがすかさず声を上げる。
「ティナはシャロンが侍女につくまで、勝手な行動が多い子でした。以前の侍女も主人も、早くに母親を亡くしたティナに甘かったんです。ライズ隊長もご存知ないですか? ティナは王都警備隊にお世話になったことがあるんです」
「アマリア! 語弊のある言い方をするんじゃない! ティナは騒動に巻き込まれただけで、自身が問題を起こしたわけではない!」
そこで父親がパウエル男爵の件を話すと、ライズ隊長は「ああ、その件ですか。それは自分も知っています。確かにそれはパウエル男爵に非があり、ティナ嬢は巻き込まれたわけです」と応じる。
「ただ、巻き込まれるような場にいたことは、少々問題かと。相手は父親のライバルなのですから、もう少し慎重に行動するべきだったと思います。それにパウエル男爵の経営するカフェに、ティナ嬢が足を運ぶこと。それをあらかじめ把握されていなかったマルティウス伯爵にも、やや問題があるかと」
これには父親は「うっ」と唸るしかない。
「ある程度、行動の自由が許されていた時期があるなら、マンチニールを手に入れることもできたのでは? 本人が直接入手するのは難しくても、以前の侍女など、誰かを使えばいい話です」
ライズ隊長がそう指摘すると、アマリアとヴィオレットが同意を示すようにこくこくと頷く。だがコルディア公爵はこんな指摘をする。
「では犯行動機は何ですか? ティナ嬢が実の父親に毒を盛る理由はありますか?」
問われたライズ隊長は「それをこれから王都警備隊の本部へ連行し、聴取するんですよ」と答えるが、コルディア公爵は納得しない。
「動機こそが、重要になると思います。どう考えてもティナ嬢に、実の父親を毒殺する理由が見当たらないですよ」
「むしろ、僕を毒殺したいと思うなら、アマリアとヴィオレットだろうな」
父親のこの言葉に、名指しされたアマリアとヴィオレットは「あなた!」「お父様!」と抗議の声をあげる。だがこれを制したのはライズ隊長だ。
「マルティウス伯爵、奥さんとヴィオレット嬢に動機があるとは、一体どういうことですか!?」
「順に話しましょう。アマリアは自身の娘であるヴィオレットを、より良い相手に嫁がせたいと考えていました。コルディア公爵はまさに最適であり、ヴィオレットを彼の婚約者に推薦するよう、私に頼みました。ヴィオレット自身も、公爵の容姿と身分を気に入り、ぜひ彼の婚約者になりたいと言っていました。ですが私はそれを却下しました」
ここでライズ隊長が「なぜですか?」と問うてもおかしくないが、彼はそれを聞かない。さすがに言うまでもなく分かったのだろう。金目当てでアマリアが、自身の娘をコルディア公爵に嫁がせたいと思っていることに。ヴィオレットも容姿や身分といった上辺だけの理由で、コルディア公爵を好んでいることを。
「あなた、ひどいですわ、そんな言い方をするなんて! 私はマルティウス伯爵家がより栄えるために、コルディア公爵にヴィオレットが嫁げばいいと思ったのです!」
「そ、そうですわ、お父様! 私もマルティウス伯爵家のことを思って……」
アマリアとヴィオレットが言葉を重ねるが、父親は容赦ない反応を示す。
「それならばヴィオレットではなく、ティナでもいいではないか。ティナはここ最近、毎週のようにコルディア公爵と会い、話をしていた。毎週会うぐらい話が合う二人が結婚した方が、幸せになれるのでは! だが二人とも盛大に反対したではないか!」
父親の言葉に、二人は黙り込む。
「それにアマリア。君とは契約婚、白い結婚の約束をしたはずだ」
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