62:容疑者特定
皆で一旦、スタッフの休憩室に向かった。そこはソファセット、テーブルセットが置かれ、想像よりも広々としている。
アマリアとヴィオレットはソファに座り、私はテーブル席に腰を下ろした。
まずはコルディア公爵から話を聞くと言うことで、彼はライズ隊長と共に部屋を出て行く。
休憩室には王都警備隊の隊員も残り、何と言うか監視されている感じもする。
「こちらの飲み物、よろしかったらお飲みください。スタッフも飲んでいる物ですので、毒は入っていないかと」
気を遣った支配人は自ら紅茶を入れ、自身も飲んでから皆に配ってくれる。それを終えると「ご挨拶をしたい方がいるので失礼します」と休憩室を出て行く。
父親はまだ容態の急変の可能性があるため、アマリアとヴィオレットの対面のソファで横になり、医師のサムの観察下で飲食禁止だった。よってそれ以外のメンバーで、ペパーミントティーを飲むことになった。
爽やかな飲み心地で、気分もさっぱりする。
同じテーブル席に座る侍女や従者も安堵の表情を浮かべた。
「しかし伯爵は毒を盛られるような、誰から恨みを買うことがあったのですか?」
医師のサムに問われ、父親は苦笑するしかない。
「商売をやっていると、意図せずして恨みを買ってしまうことは……あると思います。こちらは何とも思っていなくても、相手は恨んでいるようなこともあるでしょう」
「なるほど。しかしこんなところで毒を盛るなんて。そもそも今回のこの公演。私でさえ知っているものです。チケットなんてそう簡単に手に入らない。その公演の会場内で犯行に及ぶなんて……犯人は大胆不敵というか、誰の犯行なのか、限られてきますよね」
医師のサムの指摘はその通りなので父親は「そうですね」と頷く。
「ただ、犯人が今どこにいるか分かりませんが、焦っていると思います。毒を飲んだのにこうして僕がピンピンしているのですから」
「確かに。もしもがあれば、公演は即中止です。もしやヘルトケヴの才能を妬んだ者が、誰でもいいので毒で倒れ、公演が出来なくなることを目論んだのでしょうか」
なかなかに面白い持論をサムが展開するので、父親は勿論、皆、興味深そうにその話を聞いていたが。
「お待たせしました。次はマルティウス伯爵、よろしいですか?」
ライズ隊長がコルディア公爵と共に戻って来て、声を掛けた。
「私も同席していいでしょうか? 患者の容態に急変があると困ります」
父親が頷くと同時に、ソファの近くに丸椅子を置き、そこに座っていた医師のサムが立ち上がる。
「そうですね。ヒアリングを行う控え室の廊下で待機頂いてもよろしいですか?」
「ええ、それで構いません」
こうして父親とサムが出て行き、コルディア公爵が私のそばの席に腰を下ろす。
こんな感じで順番にヒアリングが行われ、父親の次にアマリア、そして次は私の番というところでシャロンと隊員が戻って来た。
一旦、ヒアリングは中断される。医師のサムが小瓶の中に残るわずかな液体と、シャロンが持参した瓶の液体の一致を確認することになった。ライズ隊長と共に、医師のサムはヒアリングに使っていた控え室へ移動。
その間、シャロンは父親に伝えたことがある。それはベッドバトラーからの伝言だ。既にかかりつけ医にも連絡を取っており、屋敷に戻っても万全の体制で迎えることが出来るということだった。
それを聞いた私は、シャロンが屋敷に戻ったのだと気がつく。
「お義姉様、あの瓶と小瓶の中身は一致するかしら? シャロンは一体どこからあの瓶を持って来たのかしら?」
これには私は無言になる。もし伯爵邸からシャロンが持って戻った瓶と、あの小瓶の中身が一致した場合。父親のブランデーに何かを盛った人物が、かなり限定されるからだ。
無論、中身が一致しても、それが毒だとは限らない。
そこでバンと扉が開き、王都警備隊のライズ隊長がとても真剣な表情で現れた。
「ノニス・ノヴァ・マルティウス伯爵への毒殺未遂容疑で、ティナ・ラニア・マルティウス伯爵令嬢を拘束します」
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