61:毒の特定
「おや、何かご存知で?」
ライズ隊長がシャロンを見ると、彼女は「はい」と頷き、いつもの無表情で口を開く。
「その小瓶自体は初めて目にしました。ですがその小瓶を大きくしたような瓶を見たことがあります。これぐらいのサイズです」
そう言ってシャロンが手で示したのは、前世で言うなら300mlのペットボトルサイズ。コンビニの温かいドリンクコーナーでよく見かける大きさだ。
「ほう。それをどちらで見たのですか?」
「それは……」
言い淀むシャロンを見て、ライズ隊長は何かを察したようで、「ちょっとそちらへ」と少し離れた場所へシャロンを連れて行く。
「シャロンはどうしたのかしら、お義姉様?」とヴィオレットが私に尋ねるが、「分からないわ」と答え、父親の様子を確認する。ソファに座り、医師のサムと話す父親は、ボックス席で具合が悪そうにしていた時は打って変わり、顔色もよく、どこも問題なさそうに思えた。
「コルディア公爵、ちょっとよろしいでしょうか」
ライズ隊長がコルディア公爵を呼び、シャロンを含めた三人としばらく話していたが……。
コルディア公爵がチラリと私とヴィオレットを見た後、父親に近づき、耳打ちをする。父親は「えっ!」と大変驚いた顔をしてこちらを見た後、何か言い掛け、それを呑み込む。代わりに「分かりました」と答えた。
するとコルディア公爵はライズ隊長を見て頷く。ライズ隊長は部下を呼び、何やら指示を出す。すると部下の隊員二名がシャロンを連れて動き出した。
「あの侍女はこの小瓶に似た瓶の在り処が分かるということなので、そこまで隊員に案内してもらうことにしました。侍女が戻るまで、ボックス席にいた皆さん一人一人に話を聞ければと思います。……先生、マルティウス伯爵は、病院へ連れて行った方がいいですか?」
ライズ隊長が医師のサムに尋ねた。
「現状、聞いていた吐き気の症状も落ち着いています。遅延性の毒の可能性も捨てきれませんが、それにしては脈も呼吸も正常です。これと言った症状がありません。これだけ患者の容態が安定していると、病院へ連れて行っても、ここにいても、医師としてできることは、観察が中心です。それでも病院へ行けば、看護師も多数いますし、私以外の医師もいます。ゆえに万全をとるなら、病院へ行くことでしょう」
医師のサムの見解を聞いたアマリアとヴィオレットは、こんな頓珍漢な反応をする。
「毒の効果はすぐに出るとは限りません! この後、容態が急変するかもしれないのです!」
アマリアがそう言うので、コルディア公爵は「では容態の急変に即対処出来るよう、病院へ行った方がいいですね」と応じる。するとアマリアは取り乱し、「そういうわけではありません!」と答える。
アマリアの代わりのようにヴィオレットが口を開く。
「ここにシャロンが戻って来るんです。もしかすると毒がなんであるか、判明するかもしれませんよね⁉︎ よって病院へ行くより、ここにいた方がいいと、お母様は思っているのだわ!」
「毒が何であるかまでは、流石に判明しませんよ。ここには何の設備もありませんから、そこまでは無理です」
ヴィオレットのフォローに、医師のサムが困惑する。
「確かに病院の方が設備は整っています。急に容態が悪くなる可能性は捨てきれません。やはり病院へ行きましょうか」
コルディア公爵がそう口にすると、アマリアとヴィオレットは「「えええっ」」と反応。これを見た父親は……。
「先生の方で、毒の特定が無理でも、瓶と小瓶の中身が一致するか、確認する手立てはありますか?」
「そもそも病院にいたとしても、毒をこれだと確実に判定するような物、それは実はないにも等しいです」
父親に問われた医師のサムが即答し、こう続ける。
「その一方で、瓶と小瓶で中身が一致するかどうか。それを確認することは出来ると思います」
この答えを聞いた父親は、落ち着いた表情で皆を見る。
「今のところさっきのように体調が悪くなるとは思わない。それにシャロンたちが瓶を持ってここに戻り、その後で病院に来るなら、ここで待つのでもそう変わらないだろう」
父親が持論を展開したところで支配人がやって来て「間もなく第一部が終わり、二十分の休憩に入ります!」と伝える。バーコーナーでは不審物が発見されていないし、体調不良者も出ていない。営業は再開となり、ここにもボックス席の観客が出て来て、賑わうことになるだろう。
「ライズ隊長は部下が侍女と共に瓶を持って戻るまでの間に、ボックス席にいたメンバー一人一人から話を聞きたかったのですよね?」
「ええ、そうです」
コルディア公爵に聞かれたライズ隊長が答える。
「ではスタッフの休憩室と出演者の控え室をお借りして、そこで順にヒアリングをするのでどうでしょう?」
支配人とライズ隊長を、コルディア公爵が順番に見る。
「ええ、ご利用いただいて構いません。ただ出演者の控え室は、予備の狭い部屋しか空いていませんが……」
支配人が眉を八の字にして答えると、ライズ隊長が「問題ありません」と応じる。そして宣言する。
「スタッフの休憩室に皆さん待機いただき、順番に出演者の控え室にお呼びします。そこでヒアリング(聴取)をさせてください」
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