59:封鎖
ボックス席を出ると、シャロンなどの付き人である使用人が集まり、次々と父親に声を掛けていた。劇場のスタッフも駆け寄り、コルディア公爵の指示を聞いている。
「ボックス席を封鎖してください。王都警備隊に通報をお願いします」
スタッフが「分かりました」と慌ただしく動き出す。そこでヴィオレットが私に尋ねる。
「お父様の具合が悪いのに、どうして王都警備隊を呼ぶのかしら?」
「分からないわ」
そうしている間にも父親の「気持ちが悪い」という声が聞こえ、「あなた、しっかりして! 死なないで!」と言うアマリアの取り乱した声が響く。
「レストルームへ連れて行きましょう。医師のところへ行くより、劇場に来るように伝えてください」と落ち着いた声でコルディア公爵が告げると、今度は使用人たちが動き出す。
「お義姉様、今、お母様が『死なないで』って言ったわ! お父様、どうしたのかしら!? まさか毒でも飲まされたの!?」
「その可能性はあります。旦那様は直前にブランデーを飲んでいたのですよね?」
シャロンが震えるヴィオレットを抱きしめる。
「ええ、そうよ。バーコーナーで出してもらったブランデーを飲んでいたのよ」
「スタッフの方、バーコーナーのブランデーには毒が入っているかもしれません! 今すぐ開封済みのブランデーを確保してください」
シャロンが叫び、スタッフは「ええっ」となるが、レストルームに父親を連れて行こうと動いているコルディア公爵も「その可能性があるので、バーコーナーも封鎖してください」と言葉を重ねる。
「分かりました」とスタッフがバーコーナーへ向かい、そこに劇場の支配人が来て、さらに騒ぎに気がついた近衛騎士、つまりは第三王女を守る王家の護衛が「何事ですか」とやって来た。さらに「王都警備隊、第一方面隊長のライズです。通報を受け参りました!」と警備隊も現れる。
この事態にアマリアは完全に目が泳ぎ、ヴィオレットはフリーズし、残っている使用人もどうすればいいかとあたふたしている。その中で唯一落ち着いているのがコルディア公爵だった。
コルディア公爵は、父親を使用人とアマリアに任せ、レストルームへ連れて行くように指示を出す。その際も冷静にこんなアドバイスをしている。
「無理には吐かせないでください。水分はまだ与えない方がいいです。毒の可能性が極めて高いですが、まだ毒の特定が出来ていません。水分を飲むことで毒の吸収を促進したり、何かの反応を引き起こしたりする危険もあります」
アマリアと使用人は「分かりました」と頷き、レストルームへと入って行く。その姿を見送ると、すぐにコルディア公爵は近衛騎士、支配人、王都警備隊に状況を説明する。
「マルティウス伯爵はブランデーを飲み干し、しばらくしてから具合が悪くなりました。可能性として急性アルコール中毒も考えましたが、本人はアルコールが強く、ブランデーのこの量では水みたいなものと言っていました。そうなるとこの体調の急変は、毒の可能性が強くなります」
冷静に話すコルディア公爵は、とても十八歳とは思えない。近衛騎士、支配人、王都警備隊のライズ隊長も、真剣に彼の話を聞いている。
「毒を盛られたとなると、只事ではありません。先ほどまで彼がいたボックス席は封鎖させました。バーコーナーもしかりです」
「初動の動きとしては完璧です、コルディア公爵」
そう言ってライズ隊長が深く頷く。コルディア公爵はまだ名乗っていない。だが彼のポケットチーフの紋章で、ライズ隊長はコルディア公爵だと把握していた。そのライズ隊長相手にコルディア公爵は状況を説明する。
「ありがとうございます。もしブランデーの瓶に毒物が混入されていたら、被害者はマルティウス伯爵だけではないはずです。そしてここのバーコーナーは、ボックス席の観客専用。他に体調不良を訴える者もいないことから、毒はマルティウス伯爵のグラスにだけ混入されていた可能性が高いです。そしてボックス席にいた他の皆様も飲み物を口にしていましたが、果実水であれ、ワインであれ、具合は悪くなっていないことからも、マルティウス伯爵だけ、毒入りの飲み物を口にした可能性が高いと思います」
「なるほど。王女殿下は毒見の上で飲み物を、果実水を口になさっている。だがそちらでは何も問題が起きていないので、確かにこれはマルティウス伯爵を狙った犯行の線が濃くなりそうだ。しかしこのような事が起きた場に、王女がいるのは危険。このまま王女殿下と婚約者の侯爵令息は、退席させていただく」
近衛騎士の言葉に、王都警備隊のライズ隊長も「それがいい」と促す。近衛騎士はすぐに動き、ライズ隊長は支配人とコルディア公爵と共に、公演の続行についてまさに話そうとしていた。そこへ新たな人物が登場する。
「お待たせいたしました。私は医師のサムと申します」
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