53:夕食はまさに嵐のようだった
コルディア公爵のどんなところを立派だと感じたのか。父親から問われたヴィオレットは、アマリアに助けを求めた。だが父親は自分で考え、自分の言葉で応えるよう、ヴィオレットに告げたのだ。そこでヴィオレットはおずおずと口を開く。
「コルディア公爵はかっこよかったんです。身長も高くて、スリムだけど、ひょろりとしているわけではなく。多分、剣術とかも頑張っているのか、とても強そうにも見えて。あと頭も良さそうに見えました。でも気に入ったのは、顔です! これまで見た男性の中で、一番顔が良かったと思います! 彼の赤ちゃんを産みたいと思いました!」
あまりにも赤裸々な発言に、父親は口をぽかんと開け、固まっていた。アマリアは顔に手を当て、その姿はまさに「やっちまったな~」と内心で思っていることが伝わってくる。私は一歳しか違わないヴィオレットのあまりにも幼い発言に、苦笑するしかない。
「……そうか。顔、か。公爵として立派に感じた云々は……まあ、いい」
そこで父親は私を見る。
「ティナはコルディア公爵をどう思う?」
「そうですね。私はコルディア公爵と何度も話す機会をもてたので、容姿の素晴らしさは勿論、彼の人柄を深く知ることができました」
父親は頷き「続けなさい」と促す。
「お話をして、分かったことはいくつもあります。クールなイメージが強いですが、実際はティータイムに出るスイーツも喜んで召し上がっていました。甘い物もお好きなようです。そして会話はいつもテンポよく進み、彼の頭の良さを感じます。頭の回転が速く、察しが良く、気遣いができ、とても優しいです。思いやりもあり、人間味あふれた方だと思います」
アマリアとヴィオレットは無言で私を睨んでいるが、気にせず話を続ける。
「公爵として鋭い着眼点や知識を幅広く有していると思いますが、それは彼の努力の結果。そんな彼の努力に目を向けることなく、容姿や肩書だけで彼を評価するのは……彼の本質を見逃すのではと思います」
私の答えを聞いた父親は満足そうに「うん、うん」と頷いている。一方のアマリアはこめかみを押さえ、目を閉じた。ヴィオレットはストンと椅子に腰を下ろす。
「もういいだろう。……ティナをコルディア公爵に、婚約者としてどうかと打診する」
父親のこの発言に、もう異論はないだろうと思ったら……。
「あなた」
アマリアが目を開け、父親の方へ上半身を向け、話し出す。
「コルディア公爵とティナが……婚約し、結婚するなら、マルティウス伯爵家はどうするつもりですか!? 公爵が婿養子に入るわけではないですよね? もしかして……ヴィオレットが婿養子を迎えれば、その婿がマルティウス伯爵家を継ぐのですか!?」
「アマリア。そうはならない。貴族の爵位は男子直系で受け継ぐもの。ティナがコルディア公爵と婚約し、結婚したら、マルティウス伯爵家を継ぐのは僕の弟であるトムだ」
「な……!」
アマリアは大きく瞳を見開き、絶句した。その様子を見てヴィオレットが「お母様!」と心配そうに声を掛けている。
「ともかく。明日はコルディア公爵に失礼にならないようにするんだ。ヴィオレット。お前の相手はちゃんと見つける。この件は以上だ」
珍しく父親がピシャリと言い切り、アマリアは唇を噛み締め、ヴィオレットは口のへの字にした。
◇◇◇
夕食はまさに嵐のようだった。
コルディア公爵の件は、父親があっさり「そうか。ヴィオレットを公爵の婚約者に……。分かった。明日、提案してみよう」と応じると、アマリアは思っていたはずだ。だが父親は私がコルディア公爵と交流していたことを知っている。かつヴィオレットがコルディア公爵を好きだと言っても、中身ではなく外見しか見ていないことを知ってしまった。
コルディア公爵はまだ若いが、その手腕により、度々新聞にその名が登場する人物。そんな実力も能力もある公爵に、顔だけが判断基準のヴィオレットでは、あまりにも稚拙過ぎる。いくらヴィオレットが美少女であろうと、父親は公爵に推薦できないと思ったのだろう。
私としてもコルディア公爵が群がる令嬢を嫌がっていることを知っていたので、思わずヴィオレットが婚約者として提案されないよう、思うところを口に出してしまった。これまでそんなことを言ったことがないから、アマリアもヴィオレットも心底驚き、そして頭に来たことだろう。でも父親も私も。間違ったことは口にしていないと思う。ただ……私がコルディア公爵の婚約者候補? これには苦笑するしかない。
そんなことを思いながら部屋に戻ると、そこには父親が買って来てくれたお土産が届けられていた。
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