52:感じたことを素直に口に
父親がコルディア公爵の婚約者として私の名を出すと、アマリアとヴィオレットは抗議の声をあげる。
「あなた!」「お父様!」
ヴィオレットが椅子から立ち上がり、アマリアも上半身を父親の方に向け、抗議の声を上げる。
「二人とも、落ち着きなさい。ヴィオレット、ちゃんと椅子に座るんだ」
父親に注意されたヴィオレットは、完全に膨れっ面。持っていたスプーンを大きな音を立て、テーブルに置きながら席についた。その様子を見てもアマリアは注意をせず、父親を睨むようにして見ている。
「聞くとコルディア公爵とティナは初めて出会って以降、毎週のように会っているというじゃないか。それはそれだけ話が合うということ。それならばここは親として、明日会うコルディア公爵に、ティナを婚約者にどうかと提案するのは……おかしなことではないのでは?」
「そ、それは……! でもティナとコルディア公爵は、コーヒー豆の話ばかりして、色恋沙汰とは無縁です!」
アマリアが即、反対意見を表明する。
「貴族の結婚は家門の利害が優先され、そもそも色恋沙汰とは無縁だ。だが毎週会う程、話しが合うなら、少なからず相手への好感度は高いはずでは?」
父親の言葉に対し、アマリアが何かを言おうとしたが、先にヴィオレットが口を開いた。
「お父様! 私はコルディア公爵をお慕いしているんです! でもお義姉様は、公爵のことをただのビジネスパートナーぐらいにしか考えていないのでは!? そうですよね、お義姉様!? コルディア公爵に興味なんてないし、それなら私に譲りたいと思いますよね!?」
ヴィオレットがいつものように「お義姉様、お願い」という、うるうるの瞳で私を見た。
これまでそうやって見られると、私はヴィオレットに譲ってあげなければ……という気持ちになっていた。だが――。
「確かにヴィオレットの言う通りで、今は毎週のようにコルディア公爵にお会いしても、コーヒー豆の話が中心です。それではビジネスパートナーではないか……と言われたら、その通りかもしれません」
私の言葉にヴィオレットの口元がニヤリと笑う。
「ただ、そうやってコルディア公爵と話す時間はとても楽しく、かけがえのないものに感じます。ティータイムが終わりに近づくと、もっと話したいという気持ちが自然と沸き上がるんです。今はまだ恋愛には程遠いかもしれません。ですがこのまま会うことが続いたら……」
「お義姉様、ひどいわ! 私の気持ちを知っているのにそんなふうに言うなんて!」
ヴィオレットがテーブルを両手でバンと叩き、席から立ち上がった。「ヴィオレット、座りなさい」と父親が言うが、ヴィオレットは無視だ。
「ヴィオレット。あなたはコルディア公爵のことをお慕いしていると言うけれど、彼の何がそんなに好きなの?」
私が問うと、ヴィオレットは「えっ……」と目を丸くする。
「デビュタントの時に会ったと言っても、ほんの一瞬よ。会話だってしていないのに。彼の何が気に入ったの?」
「それは……」とヴィオレットは言い淀み、アマリアを見る。アマリアは小さく舌打ちをしたが、すぐに表情を立て直し、ニッコリ笑顔で私を見る。
「ティナ。どうしたのかしら? いつものあなたらしくないわ。あなたはお姉さんなのよ。妹の気持ちを汲んであげないと」
「お母様。私はただ、ヴィオレットがコルディア公爵のどんなところが好きなのか。それを聞いただけです」
ため息をついたアマリアはヴィオレットを見る。
「ヴィオレット。あなた、コルディア公爵は若いのに、しっかり公爵として勤めを果たして立派だわ――そう、言っていたわよね?」
ヴィオレットは一瞬キョトンとしたが、すぐに「そうです! そうですわ、お母様!」と両手を自身の顔の前で合せる。
「なるほど。それでヴィオレット。コルディア公爵のどんなところが立派だと感じたんだい?」
父親に問われたヴィオレットは「えっ」と固まる。固まり、泳いだ目がアマリアを見ようとするが――。
「ヴィオレット」
父親に名を呼ばれ、ヴィオレットの目の動きが止まる。
「お前自身が感じたことを、素直に口にしなさい。恋愛感情というのは、正解がない。自分が感じたことをただ言えばいいだけなんだよ」
「お父様……」
ヴィオレットは瞳をうるうるさせ、そして――。
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